歩く速さで。 | 境界線型録

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I Have A Pen. A Pen, A Pen Pen Pen.


 天気晴朗だし娘に借金ができてしまったので、返済すべく町の銀行へリハビリ散歩。ぎっくりに見舞われて以来、しっかり歩いていなかった。6日ぶりの徒歩旅行、ケータイ激写絵日記にしよう。

 アメーバに越してきた頃、ある商品のためにAndanteというコンセプトを提案したことを思いだした。考えを固めるために、ブログでも少しぶつぶつした記憶がある。

 アンダンテ = 歩く速さで。
 それはフリーターになった頃からの「生活信条」といっても良いかもしれない。
 アンダンテ・ライフ -- 歩く速さで生きていく。
 走らない。急がない。追い越さない。自分のペース、リズムで、すべてを行う。周りは展観しつつ無視する。思いはかけても、求められないことはやらない。
 慌てない。焦らない。望まない。求めない。自分の容量を弁えて満ち足りる。



 久しぶりの尾根道には、とりたてて見所はないけれど、見るべきものがなくもない。

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 見なければ無、見ようとすれば有。見ようとするならば、すべてあるのかも知れない。
 少なくとも、頭上には空がある。

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 疲れた頃、ちょうどベンチがあった。
 ちょっと座って休もうかと近寄ると先客が居たので遠慮した。
 秋のベンチには、オヤジよりも落ち葉が似合う。

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 町には私の店もある。表通りからは見えない、路地奥の小さな生活用品屋。都会へ行くために町へ出ても、いつも素通りする。私が居てもしかたないし、奥様方が逃げていくから。が、今日は、近々知り合いの意匠監督さんが見に来たいというので、嫌がらせに抜き打ち査察した。
 撤退の可能性もあるし、記念にちらっと店も露出しておこうか。

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 開店の動機だった鉄器。南部と山形の鋳物。釜定の鉄器は売るのが惜しいくらい洗練されている。

 食器は波佐見焼き(有田と同じ)中心。メーカーは、好きな人には一目瞭然だろう。

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 洒落た土鍋を探して出会った伊賀焼き。

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 近頃、食器のデザインも感じが良くなり、今一押し。

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 店内の什器は、ぜんぶ手作り。のんびり歩く速さで、自分で作ったもの。
 赤字でも、歩く速さで、とりあえず今も生きている。

 帰路は淡い泡沫のような雨が漂った。雨とも呼べない微細な水滴が、さらりと頬に触れた。
 見上げればいつの間にか、空は暗雲に覆われていた。
 傘はないけど、慌てない、焦らない。徒歩でトコトコ散歩する。
 先日は風に靡いていた芒が、鉛色の空にすっくと身を伸べている。遠い空には、まだ光もある。

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 味も素っ気もない、ていねいに清掃された道に、秋がひとひら落ちていた。
 歩く速さで生きていると、見たいものが色々見えてくる。

 ずっと、アンダンテで生きていこう。

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