固着体の愉楽。 | 境界線型録

境界線型録

I Have A Pen. A Pen, A Pen Pen Pen.


 暇だから、昼日中からぼやこう。考えてみれば先日、主客を捨てたのだから暇で当然だった。自業自得だが、多忙が続くとつい暇にしたくなる。が、暇になると、個人事業者というのはまた忙しくなる。仕事を作らないと痩せてしまうから、仕事探しの旅をしないといけない。因業なものだ。
 朝から武系頭なので、固着体について簡単にお復習いして遊びたい。

 固着体を探るためにもっとも推奨しているのが、「二カ条」。型によって色々な捌きと状態があるが、簡単に描くとザッとこんな感じか。
 二人相対し、仕手は受けの腕(右左どちらでも)を内捻転させた状態(手甲が内側)にして、受けの手甲を自分の掌で包むように掴み(掴まないが)、手首を縦方向へ絞めつけるように斬り下ろす。すると、受けは手首がギリッと痛み、身を沈ませる。
 このため、二カ条は手首関節を絞めて極めると思われているようだが、和術はまったく違う。
 相手の腕全体と自分の腕を一本の天秤棒として、相手の肩後部を攻めて崩す。技として目指すことは、痛み以上に、なぜか膝の緊張が切れて沈んでしまうこと。

 なぜ二カ条を推奨するのかというと、自分自身、合気道を始めて半年くらい経った頃、二カ条で受けの肘がカチッとロックする感覚に気がついたから。やってきた感じでは、二カ条がいちばん感じやすい。
 当時は私も二カ条とは手首をギリギリと絞めることで、受けは痛さに辟易して崩れると思っていた。ところが自分は、初めて受けた時こそ痛みに驚いたが、すぐに慣れてしまい崩れなくなった。
 こんなものなんだろうと楽しく稽古していたが、肘のロックする感覚があると、大して絞めないのに受けがオワッと沈む現象が現れだした。
 これは、おかしい、怪奇現象だ。と、その謎を探りだした。
 これが楽体研究の発端。ツチノコ探索と似たような動機といって良い。

 塩田先生の「神技伝授」というDVDを見ると、先生が弟子の小手を二カ条に極め、「私が座ると、彼も座る」とやって遊ぶ光景が目に止まった。あっ!と思った。二人が繋がってる、と。その瞬間、ロックの意味がはっきり理解された。その後、暫くは「私が座ると、彼も座る」技術の解明に取り組み、それは程なく終わった。肩がかなり柔軟な人には難しいが、普通の肩の人はほぼ仲良く座る。これは、技の理合いを提示する先生一流のパフォーマンスだったのだろうと思う。

 二カ条を推奨するのは、「肘固着」がもっとも感じとりやすいから。肘固着と呼んでいるのは「一カ条固着」と同じ意味だが、二カ条の場合は前腕内部に小さなテコが働くという違いがある。
 二カ条は、一カ条固着が介在することで、痛みのみではない崩れを見せる。
 解説の際、よく手首・肘・肩と順番に固めていくアトラクションもお楽しみいただくけど、それができるようになったのは五・六年前のこと。それまでは一気にガシッと極めていたが、感覚がはっきりしてくると、手首・肘・肩がそれぞれ固着することで、こちらの力(今は重さが主)が相手の肩に達することが具体的に見えてきた。見えてしまえば、手首、肘、肩をそれぞれ順番に固着させていく芸当は簡単にできるし、もちろん触れた瞬間ほぼ同時固着もできる。
 固着の感覚を体が捉えてしまえば、分解も結合もできてしまう。
 肘固着は、三カ条がもっとも簡単にできる。(一)よりも(二)の方が簡単で、(一)はやはり感覚がないと絞めすぎて緩む。(二)はたぶん相手の体重が乗りやすいせいで、仕手に感覚がなくても自然に肘固着されやすい。
 なら三カ条の方が良いじゃないか、と思うかも知れないが、「感覚がなくても自然になりやすい」ものを練習しても無意味だから、二カ条の方が良い。主眼は固着感覚の錬磨にあるのだから。

 固着の類型としてみれば、二カ条は一カ条。二カ条の場合は、前腕内に橈骨と尺骨の小さなテコが働くが、それを求める必要はない。自然にそうなるから。
 また三カ条も一カ条。四カ条も一カ条。呼吸法(一)も(二)も一カ条。天地投げの天の手も一カ条。多様な呼吸投げも一カ条によることが多いし、臂力も終末動作も一カ条。
 固着という観点で型を見直すと、それらは同一カテゴリーに整理される。
 合気道の二カ条を利用する目的は、『肘固着感覚の感得』のみにある。手首や腕が痛む必要はまったくない。ただ肘がロックする感じを掴むだけ。掴めれば手首と肩は自ずと極まりだす。

 相手と自分と、肩から肩まで固着した状態は、ちょうど糸電話の糸をピンと張ったような状態。
 こちらの肩から「モシモシ、重いですかァ?」と重さを注ぎこみつつ問うと、「重いよォ」と相手の体が重さや力で応えてくれてとても面白い。
 人体糸電話による、モシモシ遊び和術とでも言うか。
 また〆が情けなくなったが、やはりこの系の話しがいちばん愉しい。