「実力も運のうち 能力主義は正義か?」★★★☆☆ | Jiro's memorandum

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【経歴】 日本株アナリスト、投資銀行、ネットメディア経営企画、教育事業経営、人材アドバイザー、新聞社経営管理、トライアスリート

「実力も運のうち 能力主義は正義か?」(マイケル・サンデル)

 

教育等で機会の均等が整えば整うほど、

不平等な制度が改善されれば改善されるほど、

「能力があれば成功する、努力すれば成功する」という考えが浸透すれば浸透するほど、、、

それでも成功できない貧困者たちの劣等感、屈辱感が増していく。

一方で、エリートたちは自分の成功を胸を張って正当化し、おごりを増幅させる。

 

今までなんとなくしか理解していなかった「分断」について、トランプ氏が人気を得たことについて、非常によくわかりました。

 

 

誰でも才能と努力次第で成功を収めることができる「アメリカン・ドリーム」は、もはや実態ではない。確かに、「アメリカン・ドリーム」という言葉を耳にしなくなったな、と本書を読みながらしみじみ思いふけった。

 

それでも、ジェフ・ベゾスやイーロン・マスクのような世界的成功者を輩出するのは、今後もアメリカなのだろうか。

 

 

 

以下、備忘

 

能力主義の倫理は、勝者のあいだにはおごりを、敗者のあいだには屈辱と怒りを生み出す。

 

アメリカにおいて、最低の階層に生まれた人が最高の階層に上昇する割合は4-7%。中間以上に上昇する割合も3分の1にとどまる。アメリカの経済的流動性(経済的な優劣が次の世代に引き継がれるかどうか)は、ドイツ、スペイン、日本、オーストラリア、スウェーデン、カナダ、フォンランド、ノルウェイ、デンマークなど多くの国々より低い。

 

アメリカにおいて、4年制大学卒業者は3人に1人

 

共和党支持者の59%は、大学がアメリカにおける事態の進展に悪い影響を及ぼしていると考えている(高等教育を好意的に見ているのは33%に過ぎない)。一方で、民主党支持者の69%は、大学は良い影響を及ぼしていると考えている。

 

貴族社会においては、成功は受け継いだものとなるが、能力主義社会においては、出世は自ら勝ち取ったものだという誇りや達成感を持てる。

貴族社会で農奴の身分に生まれた者は(生活は苦しいものの)従属的地位にあるのは自分の責任だと考えて苦しむことはないが、能力主義社会においては、最下層に落ち込んでいるのは自ら招いたものという自信喪失につながる。

人びとの出世を可能にし、称賛する社会では、出世できない者は厳しい判決を宣告されるのである。

 

たまたま社会が評価してくれる才能を持っていることは、自分の手柄ではなく、道徳的には偶然のことであり、運の問題(ハイエク)

 

SATの得点は富に比例。民間のテスト準備講座や個人指導で得点が押し上げられる。1時間1000ドル超の個人授業もある。大学入試競争はここ数十年で厳しさを増し、個人指導やテスト準備講座は10億ドル規模の産業になっている。

 

アメリカの上位100校の難関大学に通う学生の70%超が所得上位4分の1の家庭、下位4分の1に入る家庭出身者はわずか3%。

 

多くの難関大学が卒業生の子どもを優遇。一般の志願者の6倍も合格しやすい。

 

1960年代までは自宅から近い大学に進むのが普通だったが、能力主義が強まる中、家庭が高所得であれば難易度の高い大学を目指すようになり、大学の格差が広がった。

 

薬物、アルコール、自殺が原因の「絶望死」は、1990年から2017年で3倍に。

1990年以降、大卒者の死亡率は40%低下、大学学位を持たない人の死亡率は25%上昇。大学学位を持たない男性が絶望死する可能性は大卒者の3倍(2017年)。

 

グローバリゼーションと不平等拡大のせいで取り残された人たちは、賃金停滞だけに苦しんでいたのではない。恐れたのは、時代から取り残されること。自分が提供できる技能が必要とされないように見えた。

 

 

才能を認めてくれる社会に生まれたのは幸運のおかげで、自分の手柄ではないことを認めなければならない。自分の運命が偶然の産物であることを身にしみて感じれば、ある種の謙虚さが生まれ、こんなふうに思うのではないだろうか。「神の恩寵か、出自の偶然か、運命の神秘がなかったら、私もああなっていた」。そのような謙虚さが、われわれを分断する冷酷な成功の倫理から引き返すきっかけとなる。