大阪府警による生存権への弾圧 - 貧困を自己責任とする懲罰は貧困を犯罪とみなす刑罰国家へつながる | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 一昨日のエントリー「大阪府警が生活保護当事者へ不当・違法な弾圧-貧困を犯罪とし国家による殺人強める生活保護バッシング」 に続くものです。


 これまでの自己責任論を内面化させる「生きづらさ」は、「助けて」とも言えず餓死・孤立死を頻発させる社会まねいてきました。


 この日本社会の「生きづらさ」を象徴するグラフが以下です。(※厚生労働省「第9回社会保障審議会生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」資料 をもとに私が作成)

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 上のグラフにあるように、2008年の生活保護受給者の自殺率は54.8で日本全体の自殺率25.3の2.16倍でした。それが2011年には、日本全体の自殺率が24.0と1.3ポイント下がる中で、生活保護受給者の自殺率は58.7と3.9ポイントも上がり、日本全体の自殺率の2.44倍にもなっているのです。


 2011年の年齢階層別の数字は発表されていないので、以前紹介したデータを紹介しておくと、2009年(平成21年)の数字を見ると、20~29歳の被保護自殺者(生活保護受給者の自殺者)の自殺率は、162.5で、日本全体の自殺者の自殺率24.1の6.74倍(2010年は4.97倍、2008年は5.97倍)も高くなっています。19歳以下を除いて、若い年齢ほど自殺率が高くなっています。作家の星野智幸さんが指摘しているように、私もこの間の生活保護改悪と生活保護バッシングは国家権力による殺人 だと思っています。


 また、上のグラフが示すものは、唐鎌直義立命館大学教授が指摘する「福祉のパラドックス」の典型とも言えるのではないでしょうか。「命の最終ライン」を守る生活保護の中で、命は守られることなく「生きづらさ」に殺されていく人が実際に多いということは、「本当に困っている人」だけを救済しようとする福祉は、「本当に困っている人」さえも救済できなくなるという「福祉のパラドックス」 が現実の日本社会で発露していると言えるのではないでしょうか。


 そして、今回の大阪府警による生活保護当事者への不当・違法な弾圧事件。これは、不服審査請求が全国で1万件以上になるなど生活保護改悪反対運動の広がりに対する弾圧であるという点はもちろん、以前紹介した「貧困者を犯罪者とみなす刑罰国家の危険」についての以下の内橋克人さんの警鐘 を思い出さずにはいられませんでした。


 「19世紀における貧困への対応は、救貧思想に基づき、ワーカーズハウスという一種の強制収容所で、貧困当事者に強制労働をやらせるというものだった。貧困当事者に対して、怠惰だから、怠け者だから貧困になるんだといって、強制労働をさせた。それに対し、社会的な批判が巻き起り、貧困は個人の怠惰などが問題ではなく社会構造のひずみがもたらしたもので、貧困が生まれるのは社会全体の問題だという考え方が20世紀に入って強くなっていった。日本において、貧困を自己責任、個人の責任として、19世紀へ戻るような懲罰的な対応の仕方をやっていくとどうなるか。貧困のあとにやってくるのは監獄社会だ。ルールを厳しくして、少しでもルールからはずれると厳罰主義により監獄に送り込むという形で、貧困は排除すればいいという社会が生まれる。そうなってしまうと、社会的には大きなマイナスをもたらす。社会的費用の負担はもっともっと大きくなる。そういう道ではなく、憲法25条の“生存権”を、国を作り直す原点にして、日本型の福祉国家づくりに向けて努力すべきだ」(内橋克人氏談)


 考えてみると、芸能人の河本準一さんの母親の生活保護受給問題に端を発した生活保護バッシングの強まりは、生存権保障に反して「不正受給」と名指しし「犯罪」であるかのように指弾してきた わけですから、「貧困は犯罪の温床だ」というレベルを超えて、「貧困になることは犯罪そのものだ」「貧困者は罰せられるべきものなんだ」という「貧困者を犯罪者とみなす刑罰国家」が狙われつつある危機的な状況にあることを示しているのでしょう。そうしたことを許さないためにも今回の大阪府警による不当捜査に抗議を集中する必要があります。以下、全国生活と健康を守る会連合会からの要請を紹介します。



【※転送・転載歓迎】


 大阪府警による不当捜査に抗議の集中を


 大阪府警は不当にも、大阪市淀川区での生活保護「不正受給」を口実にして、淀川生活と健康を守る会に3回、全大阪生活と健康を守る会連合会に2回、さらに10月10日には全国生活と健康を守る会連合会・本部事務所にも家宅慢査を強行しました。


 翌11日には不服審査請求が全国で1万件を超えた記者会見を準備中の家宅捜索であり、生活保護大改悪への反対運動のひろがりのなかでの弾圧事件であることは明白です。


 厳しく抗議するとともに、別添の全生連の要請に基づき、大阪府警への抗議電報(または抗議文の郵送)の集中にご協力いただきますようお願いいたします。


         記


1.抗議先
  〒540-0008
   大阪市中央区大手前三丁目1番11号
    大阪府警本部長 様


2.抗議文案
  全生連・大生連・淀川生健会への捜査に強く抗議し、違法撞査を直ちに中止することを求めます。


3.注意事項
  今後の影響を考慮し、全生連は別添のとおり、「今回は組織からの抗議」としていることを申し添えます。


 大阪府警による不当捜査に抗議の集中を


 連日の奮闘、お疲れさまです。


 この間、大阪府警は大阪市淀川区での生活保護の「不正受給」を口実に、淀川生活と健康を守る会に3回、全大阪生活と健康を守る会連合会に2回、そレて10月10日に全国生活と健康を守る会連合会事務所の家宅慢査を強行しまレた。この家宅捜査は、生活と健康を守る会への組織弾圧であり、生存権の確立をめざす団体や国民に対する攻撃であり、断じて許されません。


 全国生活と健康を守る会連合会・全大阪生活と健康を守る会連合会は、別紙の抗議声明を発表し、抗議と反撃のたたかいをはじめます。全国から大阪府警に抗議電報を集中していただくようお願いします。


 抗議先
 〒540-0008
 大阪市中央区大手前三丁目1番11号
  大阪府警本部長 様


抗議文案
 全生連・大生連・淀川生健会への捜査に強く抗議し、違法撞査を直ちに中止することを求めます。


 ※注意
 個人の抗議は、今後のたたかいの中で各個人に迷惑が及ぶ場合を考慮し、今回は組織からの抗議とします。



 抗議声明


 (1) 大阪府警察本部警備部公安第1課は、2013年10月10日、不当にも、全国生活と健康を守る会連合会(以下・全生連)事務所の家宅捜索を強行しました。


 我々は、不当捜索に怒りを込めて抗議し、生存権保障運動に対する攻撃と組織弾圧を直ちに中止することを要求するものです。


 (2) 捜索理由は、大阪市の淀川生活と健康を守る会元会員の女性に対する生活保護法違反被疑事件についてです。捜索に入った警察官は、それ以上は明らかにしませんでした。


 不正受給を許さず、地域住民に支持される社会的道理に基づく方針で運動をしてきた全生連への捜索は明らかに違法です。にもかかわらず警察の言うがままに「捜索差し押さえ許可状」を発行した大阪地方裁判所裁判官の判断も、極めて不当です。


 (3) 今年8月からの生活保護基準の引き下げにたいし、「命を削れというのか。引き下げは納得できない」と、全国で1万世帯を超える生活保護利用者が審査請求に立ち上がっています。申請権・受給権を否定し、国民の権利から救貧制度に変質させる生活保護法改悪に反対する国民的運動が広がっている中で、運動を押さえ込むことを狙ったものです。


 警察が押収した資料は、「全生連第39回全国大会決定」など、事件とはかかわりのないものであり、組織弾圧を意図したものであることは明らかです。


 (4) 生活保護法は不正受給に対して、返還命令や保護の停止・廃止など行政の対応を決めています。全生連の抗議にたいし捜査官は生活保護申請に同行することについて触れています。同行は、人権侵害の「水際作戦」のなかで、申請者の意思にもとづいて申請権を守るための行動であり、何ら違法ではありません。こうした生活保護行政の原則や国民の権利を踏みにじる行為は許されません。


 (5) 全生連は、「低所得者を中心とした地域住民の生活と健康、権利の保障を、国や地方自治体、大企業に要求し、実現することを目的」(全生連規約第2条)とし、創立以来59年間にわたって、「貧困からの解放」をめざし生存権保障制度の確立・改善の運動にとりくんできました。


 全生連は、生活保護制度と社会保障の総改悪、消費税増税に反対し、国民生活を守るために、国民各階層と連帯して闘う決意を表明するものです。


 2013年10月12日
 全国生活と健康を守る会連合会


 ※「全大阪生活と健康を守る会連合会」の抗議声明文は一昨日のエントリーを参照ください。↓
http://ameblo.jp/kokkoippan/entry-11634035429.html