映画「アンダンテ~稲の旋律~」 - ゆっくりと歩く速度でひきこもりから再生へ | すくらむ

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 ※映画人九条の会のニュースで、「お薦め映画」として「アンダンテ~稲の旋律~」が紹介されています。この映画の原作は旭爪あかねさんの『稲の旋律』(新日本出版社)です。私は旭爪さんの大ファンで、『稲の旋律』はもちろん、『世界の色をつかまえに』、『菜の花が咲いたよ』、『風車の見える丘』、『月光浴』など書籍化された作品はすべて読んでいます。作家で雑誌ロスジェネ編集長の浅尾大輔さんが主宰した「若い世代の文学カフェ 若者たちの未来と文学――旭爪あかね『風車の見える丘』を読む」 に参加して、旭爪さんの講演を聴いたこともあります。


 『稲の旋律』は、“ひきこもり”の問題をテーマにしているのですが、月刊誌『ダ・ヴィンチ』2月号の特集「2010年、どうしよう? 本で乗り切る不安の一年」の中で、浅尾大輔さんは、「人間関係は確かに面倒臭い(笑)。こういうときは、無理して他人に合わせずに、できる限りひきこもればいい。僕は、苦しいことにぶつかったら、『これは人類の寄り道だ』と思うようにしています。この苦しみから何かが生まれ、未来の誰かの笑顔につながるかもしれない。ひきこもりは、この時代の誰かが経験しなければならないことなのかもしれません」と語っています。


 映画人九条の会事務局に、ブログへの転載許可をいただきましたので、以下「映画人九条の会 mail No.38 2010.1.15」の記事を紹介します。ただし、「ネタバレ」の映画紹介となっていますので、原作を読まれていない方等はご注意ください。(byノックオン)


 【お薦め映画紹介】
 ひきこもりから、新たな自立の物語
 内容があり、かつさわやかに
 「アンダンテ~稲の旋律~」
            羽渕三良(映画人九条の会運営委員/映画評論家)


 精密機械のような厳密さと、異常な効率性が求められ、他人のことを思いやる気持をなくしている今日の日本の社会。そうした中で、対人恐怖症の苦しみを持ち、悲鳴をあげる子どもたちや青年たちが増加している。この社会的問題を、この映画はテーマとしている。


 主人公の藪崎千華(新妻聖子)は、対人恐怖症ひきこもりの30歳の女性。母親の自分勝手な期待と、一方的な誤った押しつけの愛情によって、子どものころから不自由で、やがて登校拒否。大学は入学できたものの中退。アルバイトや就職も長続きはせず、カーテンを閉め切った、一日中暗い部屋に閉じこもっている。


 ところがある日、電車に乗って、千葉県の九十九里浜近くの横芝光町の田んぼの中に、「誰か私を助けてください」という手紙が入ったペットボトルを置いてくる。それを拾ったのが、自然農業に取り組む中年男性の広瀬晋平(筧利夫)。ここから二人の交流が始まり、千華の一段と高い人間性回復への物語がスタートする。


 この映画の大きな見所は、春、5月の稲の田植えから、9月中旬の稲刈りまでの、その稲の成長と、主人公千華のひきこもりからの成長とを、重ね合わせて描いていることだ。


 千華は晋平から、「ぜひ一度こちらに来て農作業でも体験してみて下さい」とさそわれる。出かける時、千華は化粧を何度もやり直す。晋平の家では田舎料理のもてなしの数々。千華は人が怖かったはずなのに、晋平の両親ともわだかまりなく接する。鶏小屋では、ヒヨコを頬にすり寄せ、「ふわふわであったかい」と声をあげる。


 田植えの時期、かつての職場の友人・逸子(秋本奈緒美)と晋平宅を訪れた千華は、田植え機を使い、使い切れずに田んぼの中に倒れ、泥んこになって、笑いを抑え切れず、笑い出す。青年の新や、晋平の姪の奈緒らとともに身体を動かし、非効率な作業を積み重ね、汗をかき、自然を相手に四苦八苦しながら自分たちの食べ物を作る充実感を味わう千華。次第に生きる喜びとともに、晋平への恋心を抱き始める。


 私は最初の大見出しで、この映画には「内容がある」と言ったが、それは次のことだ。一つは千華のひきこもりからの人間性再生の物語を描くとともに、彼女の母親(宇都宮雅代)の人間としての自立──娘が自由になることと、「効率性こそが大事」という夫(村野武範)の拘束から抜け出す小物語をも、重層的に織りなして描いていること。このことによって、この映画に深さと厚みをつけ加えている。


 もう一つは、日本人の食卓のほとんどを海外からの輸入に頼りきり、日本の食料自給料が41パーセントであるという、日本の農業問題をも考えさせる内容になっていることだ。


 ラストでは、千華は晋平とは結婚できず、晋平は千華の友人の逸子を結婚相手として選ぶ。それにもめげず千華は乗り越えて、娘と夫から自立した母親と二人で、横芝光町の人たちから招待されて、コンサートに出かける。千華はそのコンサートの主役で、田んぼの中の黄金の稲穂の中で、「ひきこもりだった私が初めてこの街に来て、風にそよぐ稲を見た時、ある旋律が聞こえてきました」とパッフェルベルのカノンを奏でる。聞き惚れる横芝光町の人々──。


 東京・ポレポレ東中野で、1月23日(土)から2月12日(金)までの公開を皮切りに、全国各地で上映される。


 ▼映画「アンダンテ~稲の旋律~」公式ホームページ
  
http://www.ggvp.net/andante/index.php