構造改革で格差と貧困は拡大していない? - 竹中平蔵パソナ会長の主張を検証する | すくらむ

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 前回のエントリーに対して、「構造改革路線は『格差と貧困』を助長していない。ジニ係数でもなんでも見ればそれは明らか」というコメントが寄せられました。これは最近、竹中平蔵・派遣会社パソナグループ会長が、いろいろなメディアで吹聴して回っている主張です。たとえば、『中央公論』9月号では、「小泉内閣の5年間で、ジニ係数から見える格差の拡大は止まるんですよ。つまり、『構造改革のせいで格差が拡大した』ではなくて、『構造改革のおかげで格差の拡大が止まった』んです。にもかかわらず、ワイドショーによる間違った刷り込みで、真実が捻じ曲げられてしまいました」と竹中パソナ会長は述べています。竹中パソナ会長の主張は正しいのでしょうか? 小泉・竹中構造改革が行われた2001年から2006年のデータを中心に見てみましょう。


 ▼格差拡大を示すジニ係数は小泉・竹中構造改革時に増加
  (※『週刊ダイヤモンド』(08年8月30日号、
     特集「格差世襲」35ページのグラフより)

すくらむ-ジニ係数


 まず、ジニ係数ですが、厚生労働省の2005年「所得再配分調査結果」によると、上のグラフのように、2001年から2005年まで一貫してジニ係数は上昇しています。ジニ係数は、0に近いほど格差が小さく、1に近づくほど格差が大きいことを示すものです。2005年のジニ係数は、0.5263と初めて0.5を超え、過去最高値となっています。(※なぜか厚生労働省のサイトはリンクが切れていますので、内閣府の2009年度「年次経済財政報告」 に掲載されているのを参照ください)


 このジニ係数が0.5という状態は、所得の高い上位25%の人たちが、日本全体の富の75%を持っていることを示します。ですから、残り25%の富を下位75%の人たちが分け合っていることを意味しているのです。


 念のため付け加えておくと、このジニ係数を発表した厚生労働省は当時、下の折れ線である「税・社会保障の再配分所得による格差」は、0.3873だとして、「格差の広がりは抑制されている」と強調しています。しかし、この「再配分所得」は、日本の場合、税による再配分の改善効果が薄いため(※子どもの貧困は逆に悪化させている→過去エントリー「日本だけが「子どもの貧困」を政府みずから拡大」 )、年金の再配分がメインとなっていて、現役世代から高齢者世代への社会保険料という形での再分配に過ぎず、格差の是正にはなりません。(そもそも、0.3873でもジニ係数が上昇しているので、「格差が拡大」していることには変わりはないのですが)


 ▼すべての年齢層でジニ係数は上昇し格差は拡大している
  (※内閣府の2009年度「年次経済財政報告」)

すくらむ-年齢階層ジニ係数


 また、内閣府の2009年度「年次経済財政報告」 の「年齢階層別のジニ係数」を見ると(上記グラフ)、どの年齢階層においてもジニ係数が上昇していることが分かります。


 以上、見てきたように、小泉・竹中構造改革が行われているときに、一路、格差は拡大していったのです。


 ▼低所得者と高所得者の両極端が増加
  (※『週刊ダイヤモンド』(08年8月30日号、35ページのグラフより)

すくらむ-格差


 他のデータも見てみると、国税庁2006年「民間給与の実態調査」 によると、上記グラフのように、低所得者と高所得者の両極端が増加しています。年収200万円以下が、2002年は853万人(19.1%)だったのが、2006年には1,022万人(22.8%)に増えています。小泉・竹中構造改革の最後の年となった2006年に年収200万円以下のワーキングプアが初めて1,000万人を超えたのです。この数字だけを見ても、「貧困」が増大したことは明らかです。そして、年収2,000万円以上は2002年の17万2千人(0.4%)から2006年の22万3千人(0.5%)と増えていますので、このデータでも「格差拡大」が明らかです。


 ▼富裕層1.8%が日本の金融資産18.5%を保有
  (※『週刊ダイヤモンド』(08年8月30日号、34ページのグラフより)

すくらむ-富裕層


 それから、上記の図は、野村総合研究所による2005年の富裕層の実態 を見たものですが、それによると、国内の金融資産18.5%を、上位1.8%の富裕層が保有しているとのことです。


 ▼野村総合研究所「純金融資産の保有額別マーケット規模」

すくらむ-野村富裕層


 さらに上記の図を見ると、「5億円以上の超富裕層」は、2000年の6.6万世帯で43兆円から、2005年の5.2万世帯で46兆円と、世帯数は減っているのに資産が増えていますので、ほんの一握りの「富めるものはさらに富み」、そして一方には1千万人を超えるワーキングプア層の増大という「格差拡大」の構図を見ることができます。


 「貧困増大」については、過去エントリー「正規でも非正規でも、つまずいても生きていける福祉国家へ」 で、データも示していますので、以下再掲します。


 厚生労働省の国民生活基礎調査によると、下のグラフにあるように、18歳未満の子どもがいる世帯の平均年収は、1996年の781万円から2007年の691万円へ90万円も下がっています。子育て世帯で年収が90万円も減ってしまったら、様々な生活上の困難が生じます。

すくらむ-子育て家族


 さらに重大な問題は、低所得家族が増大していることです。下のグラフは、18歳未満の子どもがいる世帯の低所得層をみたものです。子育て世帯で、年収300万円未満(※年収は世帯全体の合計です)は1997年の9.3%から2006年の12.3%へ、300万円以上450万円未満は13.4%から16.8%に増えています。子育て世帯で450万円未満は1997年の22.7%から2006年の29.1%に増えているのです。この子育て世帯のうち、世帯主の年齢が30歳代の世帯をみると、300万円未満は1997年の9.4%から2007年の13.9%へと4.5%も増え、300万円以上450万円未満は16.8%から21.6%へ4.8%も増えています。世帯主が30歳代の子育て世帯で年収450万円未満は1997年の26.2%から2006年の35.5%へ、9.3%と大幅に増えているのです。

すくらむ-低所得家族


 下のグラフは、総務省の労働力調査によるもので、正規雇用労働者は1995年の3,779万人から2009年の3,386万人へ393万人も減り、一方で「フルタイム・自立生活型」の非正規雇用労働者--つまり非正規の収入だけで生活をしている労働者--のうち、派遣労働者などが1995年の176万人から2009年の567万人へ391万人も増え、パート・アルバイトは825万人から1,132万人へ307万人も増えています。この「フルタイム・自立生活型非正規」の増加は、そのままワーキングプアの増加をもたらし、低収入ゆえに貯金がほとんど不可能な上、日本社会にはセーフティーネットが不在なので、「派遣切り」「非正規切り」がそのまま路頭に迷うことへつながってしまうのです。

すくらむ-急増非正規


 下のグラフは総務省の就業構造基本調査によるものですが、すべての年齢において、正規労働者の低所得化が進んでいます。専業主婦の世帯を想定すると、男性の年収が400万円未満では、子ども2人の場合、生活保護の基準以下となるのです。

すくらむ-正社員


 以上、様々なデータを見てきましたが、結論は、最初に紹介した竹中パソナ会長の言葉を次のように訂正したものとなります。


 「小泉内閣の5年間で、ジニ係数から見ても格差は拡大しました。つまり、『構造改革のせいで格差が拡大した』ことが事実で、『構造改革のおかげで格差が拡大し貧困が増大した』んです。にもかかわらず、いまだ各メディアは、竹中平蔵・派遣会社パソナ会長を登場させ、詭弁による間違った刷り込みで、真実を捻じ曲げようとしているのです」。


(byノックオン)