「死にたくないが、死ぬしかない」 - 雇用破壊で自殺過去最悪ペース | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 昨日はWHO(世界保健機関)が定めた「世界自殺予防デー」でしたので、マスコミをはじめいくつかのサイトをチェックしてみました。


 NHKでは、ニュース帯で日本産業カウンセラー協会が10日に各地で取り組んだ「働く人の自殺予防電話相談」を紹介。午前中から電話が相次ぎ、「不況で人手が減らされたうえ、上司からの無理な指示も増え、夜眠れない」、「賃金が大幅にカットされて気力を失い、今後どうしたらよいかわからない」、「去年秋以降の雇用情勢の悪化で仕事が見つからず、もう生きていけないといった深刻な相談が増えている」ことを伝えています。


 同じくNHKの生活ほっとモーニングでは、9~10日と「シリーズ“命を守る”自殺者3万人 何が必要なのか」を放送。「派遣切り」され、「俺から仕事を取るということは死ねってことか」と言って自殺したケースなどを紹介するとともに、現在300万人がうつ病で苦しんでいることや、NPO法人自殺対策支援センターライフリンクの調査から、自殺者の72%が亡くなる前に精神科・診療内科などに相談しSOSを発していたことを伝えています。


 MSN産経の地方ニュース(栃木県版、9/8付)では、今年上半期(1~6月)に栃木県内の自殺者が過去最悪の319人と前年より37人増え、自殺原因は深刻な経済不況を反映し、「生活経済問題」が122人と前年の84人を大きく上回り、なかでも失業(前年比13人増)、多重債務(同13人増)、生活苦(同8人増)が増えていることを報道しています。


 同じく栃木の「下野新聞」(9/10付)では、「栃木いのちの電話」に寄せられた自殺に関する相談が今年上半期に過去最多の770件で、昨年は月平均106件だったのが、今年は128件にのぼり、失業などに伴う経済苦で「死にたくないが、死ぬしかない」と訴えるケースなどが多いと報じています。


 「朝日新聞」長野県版(8/28付)では、「青年層の自殺急増」との見出しで、昨年1年間に長野県内で自殺した19~34歳は102人で、前年の1.6倍、男性に限れば2倍に増えたことを報じています。


 労働者健康福祉機構は、「世界同時不況、リストラ、派遣切りへの不安に対する相談が急増~『勤労者 心の電話相談』に2万4076件」と題した記者発表を8月27日に実施。それによると、昨年4月から今年3月までの1年間に、「勤労者 心の電話相談」に、2万4076件(前年度2万3829件)の相談が寄せられ、リストラ、派遣切りなどの雇用不安を中心とする「将来に対する不安」を訴えるケースが8,805件と最も多く、体調の問題では「不眠」が2,288件で最多、相談者の年齢別では40代26.7%、30代20.1%、50代11.7%となっているとのことです。


 「毎日新聞」東京都版(9/7付)は、NPO法人自殺対策支援センターライフリンクが9月6日に開催したシンポジウム「自殺のない生き心地の良い社会をめざして」の模様を報道。今年1月から7月までの自殺者は1万9859人で、すべての月で昨年を上回り、過去最悪のペースとなっています。シンポの中の企画「自殺対策 政権交代で変わる!?」をテーマにしたパネルディスカッションで、東京大学教授の姜尚中氏は「構造改革により自殺を自己責任だとする風潮が強まったが、民主政権は二度と同じ失敗を繰り返してはならない」、社会学者の宮台真司氏は「脱官僚というと官僚だけが悪者のようだが、官僚の動きを監視するのは政治家の責任であり、政治家を選んだ我々の責任でもある」と述べたことが報道されています。


 最後に、雑誌『中央公論』10月号で、姜尚中氏が「毎年3万人が自殺する国で 日本に取り戻したい『希望』」と題した論考を寄せていますので、その中から一部を以下紹介します。


 1年間に10万人当たりで25人近くが自殺する。こんな国は、先進国にはありません。いろいろ言われるアメリカだって、自殺率は日本の半分。イギリスは3分の1です。


 1年間に3万人が命を絶つというのは、大変なことです。1日に直せば、およそ90人。しかも、未遂に終わった人が10倍はいると言われています。さらに、そのまわりには、精神的なダメージを受ける家族や知人が、誰でも5~6人はいるはずです。10万人単位の被害者が、毎年生まれていることになります。


 本来、絶句するほかないような深刻さ。にもかかわらず、誤解を恐れず言うならば、日本人の多くがその実態に見て見ぬふりを決め込んでいるのではないでしょうか。「不況だから、自殺者が増えるのは仕方がない」と、思考停止してしまう。


 普通の人にとっては、何の変哲もなく過ぎ去っていく日常。しかし、その裏では、目を覆いたくなるような悲惨なことが毎日毎日起こっている。この落差、意識の断絶が埋まらないどころか、徐々に拡大しているのが、いまの日本です。


 そこに見えてくるのは、行き過ぎた競争至上主義の蔓延によって、本来社会が持っていたはずの「みんなで支え合う」仕組みが崩落しつつある、寒々しい風景にほかなりません。非常に危険な状態だと思います。


 残念ながら、今日は「普通の人」であっても、「脱落」する可能性は、誰にでもあります。このまま緩慢ながらも着実な社会の崩壊を許したら、自殺者はまだ膨れ上がるはずです。救いの手を差しのべない社会に対する帰属意識は、ますます薄れるでしょう。気がついた時には、「あなたの不幸は私の幸福」のような「ゼロサム・ゲーム」的な風潮に、社会全体が覆い尽くされているかもしれません。


 私は自殺の増加が社会の危機を体現していると考えています。であるならば、この問題と真正面から対峙し、解決策を一つひとつ講じていくことで、日本を覆う暗雲を吹き払い、再び活力ある国に再生できると思うのです。


 では、何をなすべきなのか。一言で言えば、それは自殺を多発させる原因となった社会構造の崩落を修復し、新たな時代に適合するような再構築を図ることです。


 まずは、「社会」と「市場」の関係を正常な状態に戻す必要があります。ドイツのメルケル首相が、「社会市場経済」という言葉をよく口にします。あくまでも社会が先にあり、市場をその中に着床させるという考え方です。


 アメリカやイギリスは30年にわたって、日本の場合はこの10年ほど、これが倒錯していました。「社会は市場の意に従うべし」という考え方こそ善であると思い込まされ、結果的に社会を破壊してきたのです。


 「修復」といっても、すべてを元に戻して、規制でがんじがらめにしろということではありません。市場を本当に活性化させるためにも、社会のネットワークを張り直し、「信頼と共感」を取り戻そうということなのです。(※姜尚中氏の論考「毎年3万人が自殺する国で 日本に取り戻したい『希望』」から)


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(byノックオン)