雇用対策に自殺抑止の効果 - 過酷な自己責任、連帯なき新自由主義に訣別を | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 7月27日、警察庁が今年上半期(1~6月)の自殺者数が昨年同期比768人増の1万7076人にのぼり、過去最悪ペースであると発表しました。


 いくつかの地方版の報道を見ても、「県内自殺者319人、過去最悪ペース、不況影響 今年上半期」(朝日新聞栃木県版7/29)、「『経済』理由の自殺大幅増 今年上半期、県警まとめ」(朝日新聞山梨県版7/29)、「自殺者5年ぶり増加、454人 景気、雇用悪化で」(毎日新聞岩手版7/29)、「不況影響 自殺223人 今年上半期、30代が倍増」(朝日新聞秋田県版7/30)などの見出しが目立っています。


 東京大学・姜尚中教授は、毎日新聞夕刊(4/23)紙面で、年間3万人を超える自殺者が続き先進国中最悪の自殺率となっている日本について、次のように語っています。


 政府は追加経済対策でエコカーの購入補助などを実施するというが、中高年者層の蓄えをどうやって放出させるかという面だけで自殺に追い込まれようとしている人に手を差しのべているようには見えない。


 問題をすべて個人の領域に還元させ、亡くなる人も「迷惑をかけてすみません」と言う。国は迷惑をかけるためにある。そのために税金を払っている。窮している人を税金によって救い上げるのが本来のあり方なのに、「社会や家族に迷惑をかけたくない」なんて言って死ぬのは浮かばれない。どうして弱い立場の人が二重三重の圧力を背負い込まなければいけないのか。


 「不況だから自殺が増えた」というのが常套句のようになって、政治家やメディアが当たり前のように使っていて怖い。自殺の話をすると「センチメンタル」だって言う人がいるけれど、こういう発想が出てきたのはなぜか。少し前なら、個人だけの問題じゃないと言えたのに、どこかで自己決裁しろっていう空気ができた。ある時からコモンセンス(常識)が変わったと言えるが、過酷すぎる「自己責任」は大きな問題で、人が生きるというのは他人に頼るところがあって当然だし、個人救済は国の仕事だ。(毎日新聞からはここまで)


 また、姜尚中教授は、NHKの報道によると自殺対策支援センター・ライフリンクなどが主催したシンポジウム「自殺を『語ることのできる死』へ」(07年7月1日開催)の中で次のように語っています。


 社会が競争力をつけて、いろいろな国と渡り合っていくという状況は、もはや世界的な流れですよね。その中で、日本では自殺する人が大変多くなっている。私たちは、西洋と東洋を比較して、「東洋は情義で結びつく。情け深くて仁義に厚い」と漠然とイメージしていますが、アングロサクソン型のイギリスやアメリカの方が自殺率は低いわけですよね。日本の自殺率はアメリカの2倍、イギリスやイタリアの3倍になっている。


 これを宗教的要因で説明する人もいるでしょう。しかし、今、私たちの社会は、これまでの共同体主義が崩れて、急速に変わっているところです。そして、自殺は、社会がどうなっているかということの明白なバロメーターでもある。


 今のこの状況を見ると--悪い表現かもしれないけれど--「あなたの不幸は私の幸福、あなたの幸福は私の不幸」といったメンタリティが、私たちの社会に急速に広がっているのではないかと思うんですね。そういう雰囲気を感じて仕方がないですね。


 1年間で3万人、10年間で30万人の方々が自殺しています。ということは、人口30万人の三重県津市がこの10年間でなくなってしまったのと同じ規模です。自殺未遂がその10倍とされていますから、300万人。その周りの人も含めると、おそらく人口の10分の1の人々は、何らかの形で自殺に関わってきたはずなんです。


 こう考えていくと、これはあきらかに他人事ではありません。しかし、「他人事ではない」という想像力が枯渇している。


 自分の愛する人が亡くなったということ、この喪失感はきっと個人の内なる問題として、最後まで残ると思います。この個人的な問題と制度的な問題をごちゃまぜにして考える風潮がありますが、制度としてやるべきことはやらなければならない。制度を整備する、けれど最後まで残っていく個人の内なる問題がある。これらを私たちは仕分けできていないのではないでしょうか。だから、ただただ「お気の毒でした」ですませようとしているのではないでしょうか。


 1980年ごろ、イギリスの首相だったサッチャーは、「もはや“社会”というものは存在しない、あるのは“個人”だけだ」と言いました。私たちは、この言葉に象徴される、イギリスから始まった大きな社会変革のうねり、新自由主義を受け継いでいるのかもしれません。しかし、今日のシンポジウムでお話ししているのは、「そうではなくて、“社会”はあるのだ」ということなのです。「人と人とが連帯していかないと自らを滅ぼしてしまうのではないか」--このことを私たちは考えていかなくてはならないと思います。(NHKの報道はここまで)


 最後に、「北海道新聞」(7/24)に掲載されていた「雇用対策 自殺抑止に効果 英オックスフォード大など EU26カ国データ分析」という記事を紹介します。


 失業率が悪化すると自殺や殺人が増えるが、雇用対策にきちんと取り組めば減らせる可能性があるとする論文を、英オックスフォード大などの研究チームが英医学誌ランセットに発表した。


 チームは欧州連合(EU)の26カ国の1970年から2000年までのデータを分析した。65歳未満では失業率が1%悪化するごとに、自殺も殺人も0.8%増加。失業率が3%を超えて悪化すると、自殺は4.5%増え、酒の飲み過ぎによる死亡は28%増えていた。


 一方、政府が雇用確保や職業訓練に1人当たり年間で最低190ドルを支出すれば、失業率が悪化しても自殺は増えない可能性があることも分かったという。(※これ以上詳しいことは書かれていませんでした)


(byノックオン)