ルポルタージュ『貧困の現場』~深い悲しみと怒りを込めて | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 「街を歩けば、マックがあり、牛丼屋があり、コンビニがあり、洋服店がある。どこにでもある風景だ。どこにでもある街角で、夜中に過労死寸前で働いている店長がいて、残業代をもらえないアルバイトがいて、住居を失ったネットカフェ難民がいる。こんな国がまともですか。深い悲しみと怒りを込めて運動を続けよう」(首都圏青年ユニオン・河添誠書記長)


 毎日新聞社会部記者の東海林智さんのルポルタージュ『貧困の現場』(毎日新聞社)の冒頭で紹介されている言葉です。社会の中で隠されてきた、あるいは見なかったことにされてきた貧困の現実を、目に見える形で世の中に伝える活動を始めた反貧困ネットワーク。その声に呼応したい、貧困の可視化に役立てたいとの思いで、貧困の現場を10年にわたって取材してきた東海林さんが書き下ろした力の入ったルポルタージュになっています。


 1999年に労働者派遣法が経済界の要望で規制緩和され、派遣業務が原則自由化となり、日雇い派遣が若者に広がっている実態に迫ります。


 「3日仕事がなければ野宿。1週間仕事があってもマンガ喫茶。携帯代を払えなくなったらジ・エンド」「寮付きの派遣はやったことあるけどもうごめんだ。だって仕事切られたら、その日から地方でホームレスだよ」と語る川崎市の20代後半の青年。


 日雇い派遣で働く32歳の女性Tさんは、どの現場に行っても「そこの派遣さ~ん」と呼ばれ、個を奪われ、自分はまるで機械の部品のようだと話します。「月20日ぐらいは仕事があったが、交通費などを引くと手取りの日給は5,000円いくかどうか。月収10万円に達しない時がほとんどで、平均7~8万円だった。化粧品の製造ラインで働いた時は、ボトルへのエア掛け、キャップ付け、フタ閉め、ラベル貼りをローテーションで続ける作業が延々と続く。働く喜びはなく、苦行でしかなかった」…Tさんは、ネットカフェ、ファストフード店、コンビニエンスストア、そして路上と住居を持たない状態が続いていました。


 「毎日旅をしているようなものだから。自炊できずに外食、着替えの購入や荷物置き場のロッカー代。少ない賃金で一歩動くたびに金がかかる。住居喪失を起点とした貧困のスパイラルにはまっている」


 こうした日雇い派遣の働き方に象徴される、必要な時に必要な労働力を必要に応じて自由に使いたいという、露骨なまでに経営側の欲望をむき出しにしたシステムが若者を襲っています。派遣会社が企業に向けて行っているPRには、「10分でお届けします」「無料お試しキャンペーン中」などとピザ屋の宣伝と間違うような文字が踊り、人間を機械の部品のように扱う「労働力のジャスト・イン・タイム」が横行しているのです。


 巻末に「反貧困のための社会的連帯」と題した座談会が収録されています。出席者は、東海林さんと河添誠さんとダヴィド・アントアヌ・マリナスさん(ソルボンヌ大学・一橋大学研究員、貧困問題研究者)。座談会の中で、いまの日本は「寄せ場的な暴力支配が一般化」しているとして要旨次のように話されていて驚きました。


 ダヴィド 現在の貧困の状況を、「寄せ場の一般化」として考えると興味深い。寄せ場労働者のように、今まで不安定雇用されていた人々はヤクザから雇用されていたのが、今は一般企業になっている。サラ金や人材派遣会社のやり方はまさにそうです。


 東海林 今は一般の会社がヤクザになっちゃったということだよね。


 ダヴィド というか、それまでは影に隠されていた日雇い労働者のようなあり方が、法律(労働者派遣法)によって合法的なものにされてしまったということです。以前は、最低限だったかも知れないけれども、寄せ場には労働者同士の連帯があったのに、今はそれさえない。


 東海林 釜ケ崎や山谷的なあり方が一般化し、さらに一人ひとりがバラバラにされたというのは見逃せない視点だ。


(byノックオン)