情けは人のためならず | 『 真理は自然の中に在り 』
『精神文明と奇跡』
政木和三

第4章 心の構え

情けは人のためならず

 『情けは人のためならず』ということわざがある。これをことわざ辞典で調べてみると、『人に情けをかけておれば、いつかはめぐりめぐってよいことがある。情けを受けた者は、自然それを有り難く思って情けをかけてくれた人に好意を持つようになるから、何かの折りには報いがあるものだ』と書かれているが、これでよいのだろうか。

 筆者は、昭和十五年大阪帝国大学工学部航空学科に入り、気流の研究実験をエレクトロニクスを用いて行った。その後通信工学科の研究室に移ったが、当時はエレクトロニクスをやっている人が少なく、他教室から研究実験の依頼が多くあり、普通の人の五倍ぐらいの仕事をするようになった。友人や先輩から、『大学では自分の研究だけやっていればよいのに、なぜ人の研究の手助けをするのだ。忙しいとき、そんなことはやめておけ』との忠告も再三あった。

 しかし、頼りにして来られる人々の顔を見ると、どうしてもやってあげたくなり、相当無理をして、二十年間以上も続けていた。

 造船工学科用にはストレーンメータを作り、造船所は長崎から浦賀まで、日本全国の会社において実験をした。

 土木、建築学科においては、超音波のコンクリート測定器を作り、発電所、ダム等の実測に、黒部、有峰にも出かけて行った。

 その他学内学外の種々の依頼を一手に引き受けたが、その度ごとにそれに必要な専門的な、知識の修得にも力をいれた。

 そして、医学部において低周波治療の研究をやっているから来てほしいとの申し出により、六、七年間も通った。その時神経の研究を行っていたとき、神経の中にあるコンデンサが人間の造ることのできない理想的なコンデンサであることを知り、それによって、自然の造物主の偉大な力をまざまざと知ったものである。

 その時、発明に対する悟りを開いたのである。人工的にどんなに精巧に複雑なものを造っても、見た目にはこんなにむずかしいものがよく造れたものだと感心はするものの、その価値は大したものではない。

 ほんとうによいものとは、最もシンプルな構造を持ち、天然自然に近い構造をもったものである、と悟らせて頂いたわけである。

 その日から、私の発明品は根本的に変わり、よりシンプルなものへと移っていった。その第一の発明品が、神経波治療器、ビメーク、またの名はヘルスアップである。

 最初のころは、神経と同じ波形を造るために真空管を五本も使って造っていたが、その部品を十分の一ぐらいに減らして試作したところ、神経と同じ波形が自然に発生するようになり、この機械はスイッチの開閉をしなくても、人が使用すれば自動的に信号が発生し、使用をやめれば自然に停止するようになっている。これをヘルスアップと命名して、現在は兼松エレクトロニクスから発売しているが、不眠症にもよく効き、就床してヘルスアップを使用していると、十五分から三十分間ぐらいで眠ってしまう。そのときスイッチを切ることができないために、電池がなくなるので、自動的に止まるようにしたものである。

 筆者の四十歳までの発明品は八十種ぐらいであったが、この医学部における悟りと、いままでに他教室の研究に協力したおかげで、機械、造船、航空、土木、建築、化学、医学等あらゆる分野の知識を修得させて頂いたために、それらを総合した発明が続発し、その後の二十年間に五百種以上の考案ができた。

 これは若い時に、人を助けるため人の五倍以上も働いたその努力が、今になって自分に帰ってきたものだと感謝をしている。このようなことがほんとうの意味の『情けは人のためならず』ではないだろうか。

 また別章で述べたように、私自身の人間性が大きく変わってきたことにも、この若いころの奉仕が大きく響いていることを、天玉尊先生より承った。

 自分を政木フーチパターンによって測定すると、昭和五十年に第六次元から第七次元へと向上し、さらに円満なる第八次元へと変わり、仏像の出現となったとき、『私はお経も知らない、水もかぶらないが、なぜ私の次元が昇ってゆくのでしょうか』と天玉尊先生に改めて聞いたとき、『あなたは五百種以上の発明特許を私物化せず、無償で社会へ提供しているが、それは無欲の最高の修行をしているためです』といわれた。

 私は社会奉仕をしようとも思っていない。ただいくらでも発明品が出来るので、それを特許出願しているだけであるが、その公報は全国に発刊されて周知となる。先日もある大会社の人の来宅があったとき、

 『あなたの特許公報を、我が社では参考にして新製品開発の手がかりとしており、大変重宝しております』とお礼を述べられた。このようにして、自分が無意識にしていることが社会に役立っていることが、無欲の修行となっているとは有り難いことである。これも一種の『情けは人のためならず』かも知れない。


植物の心(四つ葉のクローバー)

 以心伝心といって、無言のうちに自分の心が相手に伝わることは、人間対人間のときは当然のことであるが、犬、猫その他の動物に伝わることも、周知のことであろう。

 しかし、植物にもと言うと、少し戸惑いもあるだろうが、今では相当に知られるようになった。筆者の家の庭に、数年前から四つ葉のクローバーが多生している。これも私が四つ葉になれば多くの人々に希望を与えてうれしいが、そんなことは望めないとは思いつつも愛情をもって育てた結果である。

 数年前にオーストリアのチロルへ行ったとき、ハンガリーの若い女性からクローバーをプレゼントされた。その中に四つ葉のクローバーがまじっていた。

 冬のクローバーは温室育ちででもあったのだろう、外気にあてるとすぐしなびてしまった。根は小さな球根であった。それを大事に持ち帰り、大阪・千里の自宅の鉢に植えておいた。

 春も過ぎて五月中旬にようやく芽を出し始めたころ、毎日水をやり、四つ葉になればいいなと念じて世話をした。最初のころは、三つ葉ばかりであったが、七月ごろから、四つ葉が一つ二つとふえてきた。そうして、九月には七割ぐらいが四つ葉となった。十月末からまた三つ葉となり、その年は枯れてしまった。

 翌年は、土に多くの肥料を入れ、鉢も大きなプラスチック製とした。そして更に大きく念じ、四つ葉の誕生を望んだ。

 その望みとは、欲望ではなく遠い未来への希望であった。心の中では、できるはずはない、自分でしようとは思わない。しかし、もしほんとうに四つ葉のクローバーができれば、それを見て喜ぶ多くの人がいるのではないか。また、その一葉を見て、人生に明るい希望を持てるのではないか。その四つ葉のクローバーを見て、一人でも多くの人の心に光を与えられたら嬉しいと思っていた。そして五月末、出てきた葉は、みんな大きな四つ葉であった。その年の秋には一千枚にもなっただろう。

 クローバーには可憐なピンク色の花も沢山咲いた。女性の来客には葉をプレゼントした。

 冬も近くなり、忘れることなく四つ葉のクローバーを久し振りに見に行った。驚いたことに、半数が三つ葉に逆もどりしていた。四つ葉であっても、四つのうち一つが小さく三・二葉ぐらいのもある。その三つ葉を見たとき、この四つ葉は私の願いによって成されたものであり、私の念が遠ざかればもとの三つ葉になるんだなと、つくづくと植物でも人間の心が伝わることを教えられた。

 昭和五十六年の二月、PS学会にてその話をしたところ、今年はその記録写真をとろうということになり、発芽のころから多数の人々が見にくることになった。

 プラスチック製の鉢には最初三つ葉が出ていたが、それが徐々に四つ葉に生え変わっていったが、他の二つの丸い植木鉢のものは待てどくらせど三つ葉だけで、四葉は生まれてこなかった。人に見せようとした欲望、そして見に来る人の見たいという欲望のエネルギーに押されて、今年は四つ葉になることはできなかったのだろう。

 五十六年四月、大阪大学工学部を定年退職して岡山に移り住んでいて、毎週末と日曜日を大阪に帰っているが、ときどき見るそのクローバーは三つ葉が三割ぐらいまじっている。



第三刷発行:昭和五七年九月二十日
著者:政木和三
発行者:後藤房子
発行所:日新社 岡山市尾上二七七〇 電話〇八六二(八四)二一二一
印刷書:山陽印刷株式会社 岡山市中山下二丁目五-五〇-一〇一





 政木和三先生とのご縁の始まりは、昭和五年生まれの私の実父が小学生時代の頃より電気のイロハを教わり(実際に、電気ギター制作等々、様々な電気技術のご教授を、家族ぐるみのご近所付き合いの中で個人的に無償で賜ったそうです)、その後、御晩年には、政木先生の素晴らしいご発明品の集大成のひとつとして“世のため、人々のため”に御余生をかけ陰徳にご尽力なさいました超強力 神経波磁力線発生器(改名機器、インパルス磁力線、そして、Mリングと、すべての御販売は㈲政木研究所、㈱ケントにて)の製造に至るまで、数々のお仕事をお世話頂き、政木先生がお亡くなりになる最後の最後まで、私も含め家族ぐるみのお付き合いを賜わり、今も尚、心の底よりとても尊敬し、感謝している恩師・師匠です。

 以前に紹介させて頂きました政木先生の廃刊御著書『精神エネルギー』よりも更に5年前にご発刊なされました廃刊作品『精神文明と奇跡』を、政木先生からのお教えである『目先の欲望を捨て去り、世のため、人々のために尽力せよ!』との仰せを引き続き継承するため、これから毎日少しずつではありますが紹介させて頂きますので、皆様には再度、暫しのお付き合いの程、何卒、宜しくお願い申し上げます。

深謝
m(__)m





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