171冊目 ダック・コール/稲見一良 | ヘタな読書も数撃ちゃ当る

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ある日突然ブンガクに目覚めた無学なオッサンが、古今東西、名作から駄作まで一心不乱に濫読し一丁前に書評を書き評価までしちゃっているブログです

「ダック・コール」稲見一良著・・・★★★★

石に鳥の絵を描く不思議な男に河原で出会った青年は、微睡むうち鳥と男たちについての六つの夢を見る―。絶滅する鳥たち、少年のパチンコ名人と中年男の密猟の冒険、脱獄囚を追っての山中のマンハント、人と鳥と亀との漂流譚、デコイと少年の友情などを。ブラッドベリの『刺青の男』にヒントをえた、ハードボイルドと幻想が交差する異色作品集。


私はあまりミステリーは読まないんですが、ちょっと幅を広げてみようということで、手始めに「このミス」にランクインした作品を読んでみようと思ってます。

セレクトしたのは1998年に選出された「過去10年のベスト10作品」 から国内作品の第3位(1位2位は既読)の本書です。


断言します。これぞ珠玉の短編集である!

こんな作品を書ける作家(いなみ いつらと読む)が日本に居たのか、という想いです。


本書は6篇で構成され、題名の「ダック・コール」とは鴨笛(鴨猟の時に鴨を誘きよせる為の笛)の事だそうで全作品に鳥、獣、自然を題材、舞台として描かれています。

作者本人が実際に猟をするようで、全編にわたり自然、動物たちへの畏敬、愛情が溢れ出ています。

そのような一貫としたテーマがありながらもストーリーは1つ1つがみんな違った作風になっています。

ミステリーの範囲には入らない様な作品が多いです。


純文学風の”石に鳥の絵を描く男”を描いたプロローグ。

重要な映画シーンの撮影よりも幻の鳥の撮影を選んだ男の話「望遠」

伊坂幸太郎の「オーデュボンの祈り」に出てきた絶滅した最後のリョコウバトの群集に遭遇した幻想的な話「パッセンジャー」

お互いに見知らぬオジさんと少年の交流を描いたプチアドベンチャー的な話「密猟志願」

山に逃げ込んだ脱獄囚を追ったハードボイルド「ホイッパー・ウィル」

漁船が難破し亀とグンカンドリに助けられた話「波の枕」

主人公のデコイ(鴨に似せた囮の模型)の視点から孤独な少年を描いた「デコイとブンタ」

どれも情景が豊に描かれ本当に心に響く作品です。


この中で個人的に特に印象に残ったのが、ラストシーンに作者の思いが熱く胸に伝わった「ホイッパー・ウィル」

動物と人間との奇跡を描いた「波の枕」

これまたラストシーンの奇跡でウルウルった「デコイとブンタ」の3篇。

どれも、自然と人間の調和が見事です。要チェックの作家ですが既に他界されていて9冊のみ出版されています。


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