懐の深いキリスト教の教派ってどこ? | 『ホームレスのホスピス』きぼうのいえ 山本雅基施設長のブログ

『ホームレスのホスピス』きぼうのいえ 山本雅基施設長のブログ

日本で初めて「ホームレスの人でも入れるホスピス」を東京の通称山谷地区に作って11年。きぼうのいえではなく「むぼうのいえ」だと揶揄されながらも運営してきた日々のエピソードを語ります。

 今から30年以上前のことである、1983年には流行語で賞を獲得したことばで『じゃぱゆきさん』という呼び名がある。これは東南アジアから日本に出稼ぎにきている女性たちを指して使ったことばだ。特にフィリピンの貧しい地域などから来ている女性が多く、その人たちは多くが夜のショーパブやフィリピンパブといったいわゆる水商売に従事していた。


 

 フィリピンの宗教といえばローマカトリックが圧倒的に多く、当然のことながら『じゃぱゆきさん』もカトリック信者がほとんどであった。ところが、フィリピンのカトリック教会はこうした女性たちに対してかなり厳しい姿勢で臨んだという。「日本などへ行って水商売などに従事するなど、男性に媚びるまるで売春もどきの職業に就くのはままならぬ」というわけだ。日本のカトリックは比較的こうした女性たちが教会に来ることには鷹揚であったようだが、彼女たちは匂いのきつい香水を付けているので、夏場に聖堂が香水の匂いでむせるようなことがあったり、チューイングガムを廊下に落としていったり、あるいはまた、教会の出入り口でフィリピンの雑誌や食品が販売されて、一種の「市場」のような趣になっていることから、眉をひそめる日本人信者がいたことは否めないことであった。



 フィリピンのカトリック教会がこうした『じゃぱゆきさん』に出した御布令は厳しかった。「そんな仕事に就いていないで速やかに帰国せよ」である。しかし貧しい地域の女性たちは日本で稼いで故国に送金したり、貯金をする必要があり、教会のいうことに素直に「はい」というわけにはいかなかった。そんな事情の中で、日本の教会に居ずらくなった一部のフィリピン女性が日本の聖公会の教会で聖餐式にあずかるということが起きた。そのときのフィリピン聖公会(フィリピン・エピスコパル・チャーチ)が信者に向けて出したステートメントが泣かせる。カトリックが「すぐに帰ってこい!」であったのに対して、フィリピン聖公会は「今すぐ帰ってこなくても良い。『しっかり稼いでから帰っていらっしゃい!』だったのである。このような社会の実情や闇、人々の実態にしっかり目を配り、配慮して指導するというフィリピン聖公会の態度に僕は人間の温かみ、ひいては、神さまの暖かさとご配慮というものが感じられて、とても好感が持てた。


キリスト教では、おきて第一主義のような律法主義というものを大変嫌う。人間の弱さを徹底的に理解し、そのようなステートメントを出した聖公会という組織に僕は敬意を表したい。