パチンコ大好きおじいちゃまの巻 | 『ホームレスのホスピス』きぼうのいえ 山本雅基施設長のブログ

『ホームレスのホスピス』きぼうのいえ 山本雅基施設長のブログ

日本で初めて「ホームレスの人でも入れるホスピス」を東京の通称山谷地区に作って11年。きぼうのいえではなく「むぼうのいえ」だと揶揄されながらも運営してきた日々のエピソードを語ります。

Sさんは80代半ば。末期の胃がんとパーキンソン病がありました。パチンコが大好きなのですが、生活保護なのでそうそう遊びに行くわけにはいかず、きぼうのいえから徒歩1分のパチンコ屋『あたりや』に数日おきに出かけるのが何よりも楽しみでした。山谷で「あたりや」があるというお話をいろんな人にお話すると、自分から車にぶつかっていく『当たり屋』を想像して皆さんお笑いになるのですが、これは的に矢が当たっているのを店のトレードマークにしたれっきとしたパチンコ屋さんです。


 ある日、夜の8時頃になってSさんが「あーちょっとパチンコしてくるからね!」と言って、寝巻き姿のままで、おまけに抗がん剤を入れた点滴スタンドをガラガラと引っ張りながら出かけていきました。日本にホスピス多しといえども、抗がん剤を入れながらパチンコをやりに出かけられるホスピスはきぼうのいえぐらいじゃないかなと思います。

 さて、1時間がたち2時間も経ったでしょうか、Sさんがお店の閉店時間を過ぎているのに帰ってきません。心配した僕が「ねえ、Sさんが近くで倒れていたりしたら大変だから誰か見にいってくれないかい?」というと、スタッフのひとりが「じゃあ僕が行ってきます」と言って様子を伺いにお店に向かいました。しばらく待っていると当のスタッフが笑いながら帰ってきました。「どうしたの?」と僕。すると彼が言うには「それが山本さん、Sさん確率変動の777が出ちゃって、玉が出っぱなしになりSさんの周りは玉が山積みになっていました。それでも本人は『最後までやる!』と言い張って、お店も電源を落とせないでそのままパチンコやってました!」という報告です。

 しばらくしてからSさんは意気揚々としてきぼうのいえに戻ってきて一言、「大勝利! 勝ったぞー!」とのたまうのです。それで2万円のお小遣いができ、彼のパチンコ屋さん通いの元手が増えたのでした。Sさん、パチンコの才能というか運が良いというか勝っては1万、2万と儲けているのでした。

 Sさんの『あたりや』通いで傑作なのが彼のプレーの仕方です。

 パチンコ屋さんにはスロットル台も大抵置いてありますが、Sさんはパーキンソン病があって、いつも手がフラフラ、ヨレヨレと動いているのですが、スロットル台で遊んでいると、コインを入れてクルクル回るマークを止めるときに限って、手が『ピタリ』と静止して、確実に『パン・パン・パン!!』と打鍵します。そして打鍵が終わるとまた手はフラフラ、ヨレヨレ……。そしてまた打鍵でしっかりと『パン・パン・パン!!』。うちのみんなが「Sさんってどうしてそのときだけ病気が治るんだろうかねぇ???」と謎となっていました。

 そんなSさん。亡くなったときにはお花を柩に入れる代わりに、景品で集めたタバコを何カートンも入れてあげました

 僕たちが「Sさんパチンコよくやったね! ほらこれが景品のタバコだよ!」と言って彼の顔の脇においたときに、Sさんが「ニヤリ」と笑ったような気がしました。こんな楽しい看取りができるのもきぼうのいえの魅力の一つになっています。」