何の意味もないエネルギー戦略 | 西陣に住んでます

何の意味もないエネルギー戦略

西陣に住んでます-革新的エネルギー・環境戦略



9月14日に政府が[革新的エネルギー・環境戦略] を発表しました。


「30年代に原発ゼロ」

福島第1事故受け政策転換-新エネルギー戦略策定・政府
[時事通信 2012/09/14-20:32]


政府は14日、中長期的なエネルギー政策の方向性を示す「革新的エネルギー・環境戦略」を策定した。戦略は「2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」方針を明記し、「原発に依存しない社会の一日も早い実現」を目標に掲げた。東京電力福島第1原発事故を受け、原発を推進してきたこれまでの基本路線を転換する。ただ当面は、安全性が確認された原発を重要電源として活用するとした。
野田佳彦首相は同日、戦略を決定したエネルギー・環境会議の席上、「今こそ知恵を出し合い、負担を分かち合って、新しいエネルギー社会を築かなければならない」と国民に訴えた。政府は、近く国家戦略会議に報告した上で、戦略を閣議決定する。
原発について、戦略は(1)40年運転制限の厳格適用(2)原子力規制委員会が安全を確認したもののみ再稼働(3)新増設を行わない-を原則とした。


私は政府が具体的な目標を持ってエネルギー政策を策定することは
とても大切なことであると思います。


ただし、今回発表された戦略は、工程表が欠如しているばかりか、
各種目標値に対してその合理性がほとんど述べられていません。
これはつまりのところ、民主党マニフェストに掲げられた
子供手当、最低保障年金、高速道路無料化や
衆議院選挙の前に高々と宣言された普天間基地移設と何ら変わらない
根拠薄弱な選挙用パブリシティーといえるかと思います。

何よりも、最重要項目である日本経済に対するインパクトの見通しが
まったく述べられていないことは、
民主党が史上最強の無責任与党であることを証明するものです。


以前、詳しく書きましたが[→記事] 、エネルギーのベストミックスは、

一方を成立させれば他方が犠牲になるというトレードオフの問題であるので、
インフォームドコンセントが最も重要であると考えます。


繰り返しになりますが、経済人間の生命とは相関性が明確で
原発停止が経済力に与えるインパクトは多大なもので
それによって多量の自殺者が生じることは確実と言えます。
例えば、アジア通貨危機以来、
年間2万人であった日本の自殺者数は年間3万人に上昇しました。


原発停止による化石燃料費の増加は

1年間で3兆円から5兆円と考えられます。

この金額のオーダーがどのくらいかと言うと、
- 毎年ロンドン・オリンピックを3回開催できる
- または毎年公共事業費を倍増できる
- または毎年国家防衛費を倍増できる

- または一年で日本のすべての原発に巨大な防波壁を作ることができる

金額です。


人口で割ると、毎年国民一人当たり3万円
3人家族で10万円の金額になります。


最悪なのは、この金額が毎年中東の産油国に流れるため、
国内で消費されることがないということです。
この金額が国内で使用される場合には、
マクロ経済における乗数効果によって景気浮揚に確実につながりますが、
国外に出てしまった場合、乗数効果はキャンセルされ、
GDPがその分大きく引下げられることになります。
3~5兆円の輸入増が10兆円程度のGDP引下げ効果
になることも十分予想されるわけです。


さらに生産コストの上昇に伴う製造業の海外移転による産業の空洞化は

日本の存亡に関わる深刻な問題になると思います。


これらの原発に対するゼロ・トレランスの代償について、

政府は全く触れていません。


もちろん、
このインパクトは原発をいきなり0にしたときのものであり、
段階的に原発を停止させていく場合には、
その割合でこのインパクトは弱められます。
このため、重要となるのが工程表ということになります。
どのような工程でこの政策を進めていくのかわからない中、
経済界がパニックを起こしているのは当然のことと言えます。




ところで、このエネルギー問題に対する橋下大阪市長
無責任発言には心底失望します。


[産経ニュース 2012.8.9 22:35]

Q:原発依存度ゼロを検討しているが、電力料金が上がるのを許容するのか


A:もちろん。原発ゼロでも電力料金はそのままという話にはならない。一定の影響は受忍した上で原発ゼロ、依存度下げる方向に向かっていく。


Q:経済成長にマイナスの影響が出ても良いのか

A:一時はマイナスでも、社会構造の転換で、どこかの時点でプラスになるなら国民も納得するのでは。


このQ&Aでの橋下氏は、インフォームドコンセントにおいて最も重要な
リスクの程度についてまったく触れていません。
後で住民が「こんなはずではなかった」と思っても後の祭です。


このような橋下市長の無責任発言がどこから来るかと言えば、
そのブレイン古賀茂明氏と飯田哲也氏の影響であると私は考えます。
この二人の電力需要事前予測が科学的に論理薄弱であることについては
以前の[記事] で定量的に示しました。

私が思うに、橋下市長は、
敵を設定してその敵を徹底的に攻撃することでメディア受けしている人物を
次から次へと顧問として維新の会に引き入れては、
その考えを無批判に党の政策に取り入れています。
自分はすべてを把握することができないという謙虚なスタンスがある一方で
よく人を見ないでブレインにしてしまうという致命的な欠点を持っています。

こんなデフレの時代に新自由主義堺屋太一氏を最高顧問にするなど
世の中に逆行しています。

また、最近ではタレントの東国原氏がエネルギー問題に口を出したり、
めちゃくちゃやってますね(笑)


このようなメディア戦略中心の手法は、

前回衆院選の民主党と同種のものです。

いずれにしても、エネルギー問題の対処法は

日本の将来にとてつもなく大きなインパクトを与えるものです。

それこそ、デモなどしないで冷静に考えるべき問題であると考えます。