エネルギーのインフォームドコンセント | 西陣に住んでます

エネルギーのインフォームドコンセント

西陣に住んでます-インフォームドコンセント



医療の世界で最近よく使われるようになった言葉に
インフォームドコンセント(Informed concent)というものがあります。


医療におけるインフォームド・コンセントは
医者が、選択可能な医療方法メリット・デメリットリスク
実際に医療を受ける患者に対して十分に説明(informed)したうえで
患者との間に合意を形成(concent)し、医療方法を選択するというものです。

このプロセスを通すことで、
各種医療方法の専門知識を持ちえない患者自体が
合理的に意思決定(decision making)することが可能となります。

何よりも「納得ずく」という自己責任のもとで自分の運命を決定できることが
インフォームド・コンセントの最大の魅力と言えます。


さて、このインフォームドコンセントは、
けっして医療だけに用いられるメソドロジーではなく、
本来は社会一般の意志決定に適用されるものです。
このコンセプトを政治に反映すれば
民意を反映した合理的な政策決定を行うことができます。

このことを上記の医療の例に当てはめてみますと次のようになります。


政治におけるインフォームド・コンセントは
政治家が、選択可能な政策のメリット・デメリットやリスクを
実際に行政を受ける国民に対して十分に説明したうえで
国民との間に合意を形成し、政策を選択するというものです。
このプロセスを通すことで、
各種政策の専門知識を持ちえない国民自体が
合理的に意思決定することが可能となります。


このように、より合理的に民意を反映できる可能性を持った

インフォームドコンセントですが、残念ながら現在の政治では、

必ずしもインフォームドコンセントのコンセプトを実現できていません。


基本的に政治家は、自らが賛成する政策について、
メリットのみを語り、デメリットやリスクをほとんど語りません。
その一方で、反対する政策については、
デメリットやリスクのみを語り、メリットをほとんど語りません。
これによって、国民を思考停止状態にすることに全力を注ぎ、
アカウンタビリティーを果たしていません。


その典型的な例が民主党マニフェストです。
民主党は政策のメリットを語り、
その一方でデメリットとリスクを一切語らずに
多くの国民を合意させましたが、
政権交代後に政策のデメリットとリスクが次々と明らかになり、
国民の信頼を失うとともに政権は二度も破綻しました。
そして、政策の専門知識を持っていなかった国民は
不合理な形の政策決定を甘んじて受け入れることになり、
結果として損益を被っています。


このケースについては、メディアの責任も大きいと言えます。
毎日の報道を通して専門的知識を得ていながらも
爆発的な民主党の人気に乗じて
マニフェストの欠陥に対して指摘せず、
今にして民主党を批判しています。
そして、このような政治家とメディアのモラル・ハザードが
今の日本の政治に国民の真の意志が反映されない
大きなファクターになっていることは明らかです。


このような憂慮すべき状況は、

日本の原子力発電政策におけるアカウンタビリティーにも

垣間見られます。


今回の福島原発事故が発生したマクロな要因は、
原子力発電事業者が、安全であるという結論のみをアナウンスし、
大規模地震・津波というハザードの発生確率が極めて低いことに隠れて
そのこととは異なる概念であるハザードの想定レヴェル
適正に設定できていなかったことに本質があると思います。
この事故によって生じた損害は、主として
広域にわたる原発周辺住民が放射線の被爆を回避するために
生活基盤を犠牲にして住居を移転する事態に
追い込まれてしまったことですが、
このようなステイクホルダーが被る損害とそのリスクについては、
事前に十分な説明がなされていたとは考えられず、
結果的にステイクホルダーの感情を今になって深く傷つけています。


ところで、このようなインフォームド・コンセントが
明らかに阻害されるような状況が今まさに生まれようとしています。



エネルギー・環境の選択肢に関する意見聴取会


現在、政府は、東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所の事故を踏まえ、エネルギー・環境戦略の見直しを行っています。
6月29日に、政府の「エネルギー・環境会議」(議長:古川国家戦略担当大臣)は、2030年のエネルギー・環境に関する3つの選択肢(原発依存度を基準に、①ゼロシナリオ、②15シナリオ、③20~25シナリオ)を取りまとめました。
この選択肢について国民の皆様より御意見を直接いただく「エネルギー・環境の選択肢に関する意見聴取会」を全国11都市で開催いたします。本意見聴取会では、エネルギー・環境戦略の選択肢について御参加頂く方からの意見表明の場も設ける予定です。今後、本意見聴取会をはじめとした国民的議論を礎として、8月にエネルギー・環境の大きな方向を定める革新的エネルギー・環境戦略を決定し、政府として責任ある選択を行います。

※なお、多数の皆様にお申込みいただく際、会場の都合により抽選となる場合がございます。

これまで( 7月14日、15日、16日)の意見聴取会をとおして頂いたご意見を踏まえ、以下のとおり運営方法を改善します。詳細については申込みフォーム内の注意事項をご覧下さい。
・意見表明いただく方は団体としてではなく個人として意見表明いただきます。
・電力会社及び関連会社にお勤めの方につきましては意見表明をご遠慮いただきます。予めご了承ください。
・意見表明者の数を9名から12名と変更させていただきます。



一般に政府主催による意見聴取会と言うのは、
その会に出された多数意見をもって国民の意見とみなし、
この意見を基に政策を作ろうとするものではありません。
本来の目的は、国民から多様な意見を聴いて
今後策定する政策が論理的に適正なものであるか?
見落とし防止がないか?などのチェックに利用するのです。


つまり、ある種のインフォームドコンセントの形成のために
できるだけ多様な意見を得ることが目標なわけなので
電力会社の社員の意見も貴重な一意見となるわけです。


この点について、メディアが誤解あるいは意識的に誤解し、
魔女狩りのような報道を続けているのが大変気になるところです。

 →[モーニングバード]

特に意見聴取会の目的を百も承知の
官僚出身の古川大臣枝野大臣、コメンテイターの古賀茂明氏が
世論の誤解を解くどころか、メディアの誤解を利用して
ある一定の方向に国民を逆に誘導しているのは閉口します。


先にも書いたとおり、
原発事故の元凶はリスクの一端に目をそむけて
安全確保を怠ったことであることは明確です。
そして、今「反原発」という旗印のもとに
それと同じことが行われようとしています。

それは「原発停止に伴うリスク」がほとんど語られていないことです。


ここで「原発停止に伴うリスク」とは何かということですが、

よく言われているように
電力の安定供給が損なわれて不慮の大停電あるいは計画停電が生じ、
国民の生活や経済活動が危険にさらされるリスクは確かに存在します。


まったく報道されていませんが、
実際今年の夏、仮に大飯原発が再稼働していなかったら
8月2日(木)8月3日(金)の両日、関西電力の使用電力は、
いつ大停電が発生してもおかしくないレヴェルである
ピーク時供給力の97%を上回ったため
計画停電が実施されていたことになります。


ちなみに、4月や5月頃に大阪市特別顧問の職にあった
山口県知事を落選した飯田哲也氏と元官僚の古賀茂明氏は
「関西の電力は足りている」と憶測で豪語して関電を批判していました。
TVのワイドショーはこの二人の発言を繰り返し伝えて
関電を「原発再稼働ありき」の極悪人のように報道していました。
ところが、実際に夏の暑さがピークとなって、
結果的に電力が足りていなかったことは紛れもない事実です。
このことは、原発再稼働の判断の是非とは別問題であり、
この二人の評論家は単なる憶測で物を言っていたわけです。

本来なら、関西在住の国民を危険にさらしたことに対して
彼ら、あるいは彼らを任命した大阪市長は謝罪をすべきところですが、
ハッキリ言って彼らは責任すら感じていないのではと思います。
もともと今年の真夏の関電管内の電力量予測は6月末の段階でも難しく
高度な数学モデルを駆使したとしても

7月までには適正な予測が不可能であったと考えます[→記事]
そんな中で4月や5月に憶測で電力は足りているなどというのは
極めて悪質であると考えます。


さて、長期的視点に立った場合、
電力供給という点に関して言えば、「原発停止に伴うリスク」は
それほど大きいものではないと考えられます。
それは、火力発電所を建設すれば当面の電力不足は無くなるからです。
ただし、このことが
真の意味での「原発停止に伴うリスク」を誘発することになります。


現在の日本では、原発停止によるベース電源の欠如を
火力発電によって補っています。
震災前、火力発電が6割、原子力発電が3割というフレームワークで
日本の電力会社は発電を行っていましたが、
もし原子力が全停止と言うことになると火力発電が9割となり、
これまでの1.5倍の電力量を発電しなければならないことになります。
火力発電のコストと言えば、その大部分が燃料費であり、
現在でも1年間当たり約8兆円の燃料費がかかっています。
つまりマクロな視点で観ると、原発を停止してしまうと、
燃料輸入量が毎年約4兆円増加してしまうことになるんです。


この4兆円/年という金額は、日本経済にとって深刻な値です。
国家予算において、公共事業費5兆円弱防衛費4兆8000億円
であることを考えると、

4兆円という値段がいかに大きな数字であるかがわかります。
ちなみに、福島事故に対する東電の賠償金額は、
直接の損害賠償(一過性)が約2兆6000億円、
事故後2年間の損害補償が約1兆9000億円(うち風評被害約1兆3000億円)
と推計されていますが、これに匹敵する額とも言えます。


さらに深刻なことに、この4兆円が
日本国内で消費されるのであればよいのですが、
実際にはすべてが外国(9割が中東諸国)に渡ってしまい、
日本の国力が毎年毎年急速に低下していくわけです。
反原発デモで坂本龍一氏は「たかが電気」と発言しましたが、
一般の日本人は、生産を行って生活を続けるために
こんなに多くのお金を使って「たかが電気」の素となる燃料を
外国から買うことになるのです。


なお、燃料の消費量は、
節電によって少し下がることが期待できるので
3兆円程度の増加で済むことも可能性としてありますが、
リーマンショックで一時期低下した石油価格が
ここにきて順調に回復していて、
近い将来に現在の価格の1.5倍になることも十分に考えられます。


ここで、この4兆円と言う金額さえ払えば、
安全性が確保されて人々の命が助かるかとなると、
そんなに単純でないのが現在の世の中です。
日本の自殺者数はアジア通貨危機以降、年間約3万人いますが、
自殺者数の増減は失業者数の増減と一定の相関性を持っています。
4兆円を毎年海外に流出させるというインパクトによって不況が発生し、
失業者が増えて自殺者が増加することが十分に予測されます。
つまり経済政策はけっしてお金だけの問題ではなく
実質的には人間の生死の問題でもあるんです。


もちろん、ひとたび原発事故が発生した時には
多くの死者を出す可能性があります。
チェルノブイリ事故では周辺国でIAEAの見解で4000人
WHOの見解で16,000人の死者が出たと推計されています。
ただ、今回の福島の原発事故では、自殺者を含めても
今後このような多数の死者が出ることがないのは明白です。
これまでに放射線の短期被曝で死亡した人は0名、
放射線被曝の被害が科学的に証明されている(発癌率が0.5%上昇する)
100ミリシーベルト以上の被曝を受けた人は報告されていないばかりか、
約1500名の住民の外部被ばく量を測定したところ、
2~3の例を除いては1ミリシーベルト未満の被曝であった事実が
福島県によって報告されています。
実は、原発事故自体は
死亡リスク(死亡するハザードが生起する確率)という点では
人間の死因の中では必ずしも高い値を示しているわけではなく、
喫煙自殺交通事故の方が桁違いに深刻な問題と言えます。


・日本人の喫煙による死亡者:約11万5000人/年(WHO)
・日本人の自殺者数:約3万人/年(内閣府)
・日本人の交通事故死者数:約5000人/年(内閣府)


以上、


インフォームド・コンセントと言う観点から見ると、

これまで明らかになってきた原発稼働によるリスクに加えて

あまり語られていない原発停止によるリスクも考慮に入れることで
冷静にエネルギー問題に関するディシジョンメイキングを
行っていくことが重要であると考えます。