ショートショート×トールトール・ラバー【9】 | 虹色金魚熱中症

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虹色金魚の管理人カラムが詩とお話をおいています。

拙いコトバたちですが読んでいただければ幸いです。

優しくない友人たち
 
 

ショートショート×トールトール・ラバー【9

 
 

 「光圀ぃー。わかった!」
 軽くジャンプしてくるりと一回転する。昨夜ハイビジョンで見たフィギュアスケートの影響を過多に受けた俺は光圀の前で見事にポーズを決めた。

 それを鬱陶しそうに見ていた彼は、無言のままつぶつぶいちごポッキーを口に運ぶ。野良犬でも追っ払うように俺に向けてもう一方の手のひらをひらひらとさせた。その目には愛情の欠片もない。
「なんだよ。なんだよ。相手しろよ。暇なんだろ」
「その暇をお前にくれてやる理由が見つからねーよ」
 なんだかんだと言いつつも見捨てきらないところが友人である。ポッキーを咥えたまま、話すなら話せよと待ちの体制で俺を見ている。ただ単に暇だからが理由ではないと思いたい。
 気を取り直して、ふふんと腰に手を当てた。どうだと言わんばかりに胸を張って、今しがた赤根井さんから手に入れた情報を公開した。
「あの子、キリノトォルちゃん」
 時は金なりだが、情報も等しく価値がある。えっへんと意味もなく胸を拳で打つとと首を傾げた光圀が小さく呟いた。
「きりの……? 桐野? ああ。調理部の」
 折角の特ダネも新情報によって上塗り、格下げされてしまった。まったく面白くない。
「何で知ってんの?」
「元カノ、調理部」
 ましてやその情報源が、嬉し恥ずかしラブライフからもたらされたものだとすれば、憎さ倍増である。たとえ儚く終わった恋だとしてもだ。
「確かに背、高かったな。運動部向きじゃないかって思ったから。ああ、そうそう。覚えてる」
「ちょっと! もっと早く言えよ。俺の珈琲牛乳ー!」
 情報にも対価が伴う時代。赤根井さんには珈琲牛乳を献上した。
「お前さ、知ってどうするんだ?」
 もっともな意見を背後から突きつけられた。ううと唸って振り返ると、相変わらず絶妙なチョイスの漫画本を手にした戸川がしれっとした顔で俺を見ていた。まったくやつは、一体どこの本屋でそんな漫画を選んでくるんだろう。不思議でならない。
「別に……」
 そりゃそうだ。口ごもってしまうのは理由が見つからないからで、俺は足元を見つめて黙りこくった。上履きの染み一点を見つめても答えが書いてあるわけがない。
 (どうするって、別に。別にどうもしねーし。なぁ?)
 問いかけたって俺の頭の中のことだ。やっぱり返事は返ってこなかった。うんうん唸って、とりあえずもっともらしい答えを掴んだ。俺だって考えれば答えを導ける。それが本心かは分からなくとも。

 
 (どうするってわけじゃなくて、知らないことを知りたくなるのが人間ってもんじゃないですか。ね、先生、ってことで)
 

 自分の内で結論付けて顔を上げると、ピンと頭が冴えた。
「ああ! でもあれだな。いい匂いってそれだな。お菓子の匂い!」
 彼女から香った甘い匂いはバニラの香りだ。

 俺の大発見に戸川がこれ見よがしに肩を落とした。とてつもなく感じが悪い。
「お前ってあれだな。なんか本当、色々と残念なやつだな」
 

 何だよ、俺を哀れむな!

 
「前途多難って翔太の為にある言葉だ」
  

 光圀、お前もか!
 

 優しくない友人たちは俺をけちょんけちょんに踏み潰して、暇を消化しているのだ。なんてかわいそうな俺だろう。
 何が前途で、どんな多難になるのかは考えず、光圀の残りのいちごポッキーを鷲づかみにして口に押しこむと、親の敵のごとくバキバキ噛み砕いて飲み込んでやった。

 

 
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