ショートショート×トールトール・ラバー【10】 | 虹色金魚熱中症

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虹色金魚の管理人カラムが詩とお話をおいています。

拙いコトバたちですが読んでいただければ幸いです。

冗談好きの神様
 
 

ショートショート×トールトール・ラバー【10

 
 

 何の冗談ですか、神様。

 
 さっきから同じ言葉を繰り返し呟いていた。呟くというよりはもはや叫んでいるといったほうが近い。ただ声には出さずひたすら心で祈るようにだけれど。
 

 冗談というより試練かもしれない。そう思うと少し腹が立ってくる。

 

 (これは修行? これを乗り越えたら不幸に絶えられる勇者にでもなれるっていうの?)
 

 散々文句を言っても神様からのありがたいお返事は与えてもらえない。神様はそんなに暇じゃないのだろう。もしくはものすごく私のことが嫌いに違いない。
 

 各クラスから選抜された生徒数名が、貴重な昼休み時間を割いて職員室の隅、群れるように集まっていた。自分の意思とは関係なくこの場に集められ、少なからず私は不満を感じていた。卒業を控えた私たちに提案されたのはクラス写真を撮ること。クラスからたった二人の選抜にもれなく私が選ばれたのにはわけがある。


 (さえちゃん……はぁ)

 斜め前の方に 「佐山君」 がいる。そして隣に、サッカー部のマネージャーが寄り添うようにたっている。冴子の恋が暴走する前に発覚した 「マネージャーが彼女」 という事実のおかげで、私は今ここにいるのだ。「傷心なんだよ! 無理無理、無理!」 言い放つ彼女の代わりがイコール私だ。

  

 (せめて何処か空いた教室で座ってやればいいのに)
 

 思わず口が尖ってしまう。学年主任である谷川先生は群れの中央で淡々と説明を始めていた。四角い骨格に太い眉、無骨な口元。

 見た目から連想される性格そのままに、大雑把な谷川先生は繊細な乙女心を分かっていない。男女入り混じる中でも頭ひとつ飛び出た私は縮こまるようにその場にいた。それでも真面目がモットーの私は話をちゃんと聞きたいのにそれを遮るものがいる。
 

 ちりちりと皮膚を焦がすような視線に根負けしてゆっくりと右を向いた。もちろん視線は斜め下である。目が合って微笑む。相手がにかにかと笑っているのだ。笑う心境でなくともつられてしまう。そもそも私は他人に染まりやすいタチだ。
「あのぅ」
 思わずでた言葉に相手は嬉々として頷いた。そんなに嬉しい顔を向けてくる理由が理解できない。
「えっと……」
 会話がしたかったわけではないから先が続かない。やはり意地でも前を向いていれば良かったのだろう。たとえ穴が開くほど見上げられていてもそれが最善案だったのだ。

「あはは……はは」 最終的に笑うしか出来ないなら尚だ。笑い声も掠れて消えた。
「掲示板の人だよね」
 気まずい以外の何ものでもない状態の私に、彼は全くもって平然と言ってのけた。その通り。私が 「掲示板の人」 です。おずおずと頷きながら、冴子とミチを恨めしく思った。
 

 (冴ちゃんもミチも全くの見当違いだ!)
 

 神様には届かなかった小言を今度は友人にぶつけながら彼の顔を見下ろした。
 (彼は全く私を避けていないもの)
 戸惑ったままの私に向かって軽い咳払いがとんだ。発信源を辿ると谷川先生が鬼瓦みたいにえらの張った顎を突き出し、ぎょろりとした目をこちらに向けている。
 思わず首をすくめた。残念なことに私が首をすくめても目立つことに変わりない。
 (私だっておしゃべりしたいわけじゃないのに……)
 すくめた先で再び彼と目が合う。相変わらず大きく口角を上げて笑っている。彼は注意されたということを分かっていないみたいだ。
「じゃあ! 写真部にも大いに手伝ってもらって、いい写真をとってくること。はい、以上!」
 谷川先生は顔に似合わない高めの声で言い終えると、大きな手をバチンと合わせて集会を締めた。それを用意ドンの合図とばかりに私は踵を返した。

 
 あの放課後の出来事を彼が予想外に迷惑に思っていなかったとしても、私は今でも恥ずかしいし、穴があるなら飛び込みたい。

 
 赤面しそうになるのがわかる。冷静になろうと、午前中に覚えていた英単語を必死で思い出そうとしていた。
 

 
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