ショートショート×トールトール・ラバー【1】 | 虹色金魚熱中症

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こんなんですが恋をします



ショートショート×トールトール・ラバー【1



 多分、俺は困っている。

 
 自分のことを 「多分」 だなんて、不明瞭言ってしまうのは、今しがたその事実に直面したことが原因で、自分でもちゃんと頭の中を整理し切れていないせいだ。

 ただひとつ、勘違いされる前に言っておきたいのは、別に目の前の女子に振られたことが原因ではないということ。それだけは断言したい。そうだね、間違いないね、と言ってもらいたい。
 

 高校生にもなれば色気づいてくるもので、俺も例外ではなく一端にも片思いなんてものを体験したわけだ。そんな淡く気恥ずかしいピュアな恋心は、今まさにダンプに引かれた蛙のごとく、ぐちゃっと潰されてしまったわけだけど。何にしても死骸というものは物悲しい。
 

 「翔太君のことは好きだけど」 なんて台詞で始まった恵ちゃんの言葉に、「あーぁ。やっぱりな」 と心の中で呟いた。

 ただ、振られるのは彼女が初めてというわけではないから、潰れて無残な恋心の修復方法は心得ている。むしろ、オッケイを貰えた場合のほうが、受けた衝撃はでかかっただろうと推測できる。無意味な推測だけども。
 

 恵ちゃんは隣のクラスの女子で、すらりとした手足がとても魅力的な子だ。たまたま同じ委員会になったことがきっかけで仲良くなった。ご覧のとおり、下の名前、「恵ちゃん」、 「翔太君」 と呼び合う仲だ。
 

 だけど結局、恋は実らない。

 
 毎度のことながら、俺は別に高望なんかはしていない。恵ちゃんは確かに可愛いけれど、それは俺の目から見た話で、友人、戸川がいうには中の中。これまた友人の光圀が言うには十人並み、とのことで、別に俺が面食いだとかそういうことではない。そんな軽薄な男ではない。これもまた声を大にして言っておきたい。
 それでも二人の友人は告白という一大イベントを前に、「いや、無理だろ」 と友達甲斐のない、無碍な忠告をくれていたわけですが。
 

 そして、そのとおりになったわけですが。

 
 頭の斜め上から嘲るように降ってくるもう一人の自分のナレーションを聞きながら、「ああ、残念」 と軽く言ってしまおうと思っていた。
 別に女の子は恵ちゃんだけではないのだ。その前好きだった、亜樹ちゃんだってそうだ。駄目なら仕方ない。次の恋へと進むまで。
 何度も言うが、だから俺はどうってことなかった。まぁ、多少の心のひび割れは仕方ないとしても、彼女を引きずって枕を涙で濡らすとか、そういった類のステータスではなかった。
 

 ……それなのに。

 
 恵ちゃんはいつもの晴れ晴れとした笑顔で言ってのけた。
 

「だって、翔太君、私よりちっちゃいんだもん」

 
 ぐわぁん。
 

 鍋が落ちて止まるまでの弧をを描いて響く音。けれど、それは彼女の言葉を受けて響き渡ったわけではない。そういうことはわりと言われなれている。だから、「うん。わかった。ごめんね」 と軽く笑顔で返事をした後、これまた軽く、「じゃあまたねー」 と帰りの挨拶程度で去っていく彼女を見送っても、まだそのドラのような音は聞こえていなかった。
 

 問題はそのあとだ。
 

 俺はちゃんと、学習する男であると言っておきたい。だから、このときも彼女の言葉を真摯に受け止め、「ああ確かに俺は小さいからね」 と、頷いていたのだ。

 だけど、そこでふと考えてしまった。そういえば、亜樹ちゃんにも同じことを言われたものだと。その経験が生かされてないぞ、と。

 そこで考える。いくら頑張って毎日、人の三倍の牛乳を飲んだって、そうそう背は伸びない。であるなら、教訓を生かす術はひとつ。俺は俺より小さな子を好きになればよかったのだ、と。
 

 その大発見に思わず、手を打ってしまった。俺は確かに背が低い。けれど俺より背の低いやつはざらにいる。俺の身長、百六十ニセンチメートル。決してでかくはない。いや、昨今の発育状況を考えるなら、チビの部類だ。だけど、いる。全然いる。俺より小さいやつはいるのだ。すぐにでも該当者の名前が挙げられる。そして、その中にもちゃんと彼女もちはいる。うん、大丈夫だ。他にも可愛い子はいっぱいいるのだ。また別の子を好きになればいい。

 

 そこで再び気が付いたことがある。小学校から好きなタイプは似たり寄ったりで、次に恋をしそうな子もわりと絞れてくる。
 (ほら、二組の赤根井さんとか……)

恵ちゃんも顔負けのすっきりと長い手足が思い起こされて、ついついうっとりと目を細める。そのとき、まさにドラの鐘が鳴り響いたのだ。

 
 まてまて、俺は俺より背の高い女子が好みなのか?

 

 
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