ショートショート×トールトール・ラバー【2】 | 虹色金魚熱中症

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虹色金魚の管理人カラムが詩とお話をおいています。

拙いコトバたちですが読んでいただければ幸いです。

神様、あなたは理不尽です



ショートショート×トールトール・ラバー【2



 この世界は理不尽で構成されている。

 先生や親を含む真っ当な大人たちはきっと、「全てはちゃんと平等よ」 だなんて答えるに決まっている。だけど、本当は皆分かっているんだ。平等なんてありはしないってこと。多分、誰かにとって都合のいいだけの単語に過ぎないってことを。

 
 平等でないからそこには優劣があって、私はまさに貧乏クジを引いたほうにいる。そんなことを言ったって仕方ないし、言いたくもない。十代にして既に、「負け組み」 を意識していても達観は出来ないのだから仕方がない。その域に達するにはもう少し、修行が必要だと思う。
 

 だからやっぱり時々思ってしまうのだ。ああ、神様、貴方はとっても理不尽ですと。
 

「透!」

 張りのある呼びかけに思わず背筋が伸びる。それを慌て元に戻してゆっくり振り返った。
「冴ちゃん」
 つかつかと舞台上のヒロインのように教室に入ってくる少女に思わず微笑んだ。ヒロインはヒロインでも決して救い出されるだけのお姫様ではありえない強気な視線の彼女は片原冴子。私が負け組みなら、彼女は勝ち組だ。もしくは負けない組。
「まだ食べてなかったの? 馬鹿ね。まさか待ってたの?」
 おずおず頷くと快活に笑われた。
「今日、ミチ、休みだし……」
 一人のお昼は味気ない。それなら、ちょっとくらいお腹をすかせたって、友人を待っていた方がいい。そんな私にしょうがない子だといわんばかりの大人びた軽いため息を返しながら、目の前に冴子は座った。そして素早くお弁当箱を取り出す。機敏な彼女は動き一つをとっても全く無駄が無い。
「だと思った。やっぱり戻ってきてよかったよ」
 そう言うとさくさくとお弁当の包みを開いていく。既にお箸を出した彼女は、「早く」 と促すように私を見た。慌てて、私もお弁当を取り出す。
「ごめん」
 彼女にこの台詞を言わない日があるだろうか。考えてもそんな日があった記憶がない。
「透?」
 不意に噤んだ私を覗き込んだ冴子の眉間に皺。それを見て慌てて首を振った。
「なんでもないよ」
 返事を確認するように頷くと不必要な程の満面の笑みを私に向けた。その顔を見て、妙な胸騒ぎを覚える。この顔はいつものアレ、だ。
「透、あのね。佐山君のこと好きかもしれない!」
 唐突の宣言にはもう慣れている。それでも少し驚いた。
「サッカー部の……」
「そう!」
 意気込むその目は恋に恋するというよりは、血走りすぎている。彼女は恋に対して猪突猛進。冴子にとって、恋は淡いものではなくて躍動する紅蓮の炎だ。
「あの、……上谷君は?」
「そんなのもういいよぉ」
 ピンクの箸を持った手を上下に振りながら、面倒臭そうに眉間に皺を寄せる。
 先月あれだけ騒いでおいてこの落差。毎度とはいえ、それでも脱力感は拭えない。大体、少なからず私も、ミチも迷惑したのだからなおさらだ。だけど一番の被害者は当の上谷君達だ。彼とその彼女に心の中で合掌する。
「でも、なんで、佐山君? さえちゃん、サッカー部は足が短いから嫌って言ってたのに」
「佐山君は長いもん!」
 過去に吐き出した全サッカー部員への失礼極まりない発言から、ひとりは救われたわけだ。ふうんと小さく頷いて、テニス部の冴子とサッカー部の接点を考える。答えをひねり出す間もなく、彼女は満面の笑みで披露した。
「部活帰りね、バスで一緒になるんだ。でね、いっつもマネージャーさんに優しいんだよぉ。今どきさ、重いからって鞄持ってくれる?」
 (ああ、まただ……)

 思わず視線を落としてしまう。もうこれは彼女の持病みたいなものだから忠告も出来ない。したところで火に油を注ぐことは分かりきっている。

 小さなため息を飲み込んで、「頑張れ」 と返しながら、休んだミチに新たな冴子の横恋慕について語ることを考えると肩を落とすしかなかった。
 

 友人冴子はとても恋多き少女である。それは初めて会った、入学式当日から変わらない。その頃は生徒会長にご執心で、だけど一月あまりで興味は途絶えた。

 別に恋多きことが悪いとは思わない。ろくに経験したことの無い私から言えば、叶う叶わないに関わらず、羨ましくさえある。
 何の飾り気もないウインナーをぶっつりと突き刺して口に放り込んだ。
 

 (……羨ましい。だけど、私は恋が似合うような女子じゃない)
 

「桐野さん」
 クラスの男子に呼びかけられ、顔を上げた。もごもごしている口の中を急いで空にする。
「先生からプリント」
「あ、ありがとう」
 慌てて席を立って、紙の束を受け取った。私の視線は斜め下。その角度が大嫌いだ。
 私の身長は百七十五センチメートル。並みの男子よりも高い。だから、どうしたって私は男子を見下ろしてしまう。

 こんなんじゃ、いくらお菓子作りが好きだって、いくら可愛いものが好きだって、「似合う」 女子にはなれないのだ。恋してる自分なんて滑稽きわまりない。

 私が冴子みたいだったら、大事にする。絶対、人の恋愛の邪魔なんてしないし、きっと自分の恋を大事にするのに。
 
 だから、神様、貴方はとっても理不尽なのです。
 
 悪態をこめた小さなため息が転がり落ちていく。それらは集まって、もう腰の位置まで達している。

 

 (そのうちきっと私はため息で窒息死するんだ。なんて不幸な死に方だろう)
 

 そんな卑屈な考えを友人だけには悟られまいと、笑顔で残りのお弁当を片付けた。

 

 
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