友達は宝です。腐ってても宝です。
ショートショート×トールトール・ラバー【3】
「なぁっ!」
闘牛も顔負けの勢いで教室に飛び込んだ。気分は最低最悪。その最悪の欠片が口から零れそうで、だからいっそのこと吐き出すことにした。もとより、俺は無口なほうじゃないし、悩みを一人抱えることも苦手だ。
放課後の教室は静かで、そこに居たのは友人、戸川と光圀だけである。
優等生っぷりをこれ見よがしに発信しているメガネが戸川だ。純文学でも読んでいるかのような凛とした顔でちょっと卑猥なギャグ漫画を手にしていた。そんな顔をして読まれてはギャグ漫画も作者も浮かばれない。
その前で椅子を並べて寝ているのが光圀である。茶髪と言うよりは金髪。目つきも悪い。いかにも柄が悪いですと熨斗つきなのだが、意外にに気性は穏やか。正確にはただの面倒くさがりだといえる。いかんせん、外見については髪も目つきも親から貰った遺伝子なのだからしょうがない。初めて、彼に声を掛けられたときはカツアゲされると縮こまったし、初めてのお宅訪問で彼の父親を見たときはその筋の人間ではないかと人生で初めて死を予感した。その予感は見事にはずれ、晩御飯までも陽気にご馳走になったわけだが。
そんな二人の元へ足取りも鼻息も荒く近づいて、両手で机を叩いた。二人の注目を集めたかったのは言うまでもない。
そんな苦労のかいあって、二人は俺を見た。興味なさげな表情はこのさい無視しよう。そもそも二人の愛想の無さ、表情の乏しさはもって生まれたものだろうから、そんなことで怒って男の器を小さくしても仕方が無い。そんなことより俺の話だ。
「何、まさか、上手くいったわけ」
子供のわがままに辟易したかのような、ため息交じりに戸川が俺を見た。いつものように下がってもいない眼鏡を人差し指で押し上げる。光圀も身軽に半身を起こし、俺を見上げた。
「いや、違う、けど・・・・・・」
友人たちは無言で視線を合わせた。やっぱりな、という言葉が空気中を飛び交っている。
「奇跡でも起きたのかって思ったじゃんよ」
「いや、ないない」
二人の失礼極まりない態度をそこらじゅうの空気と一緒に飲み込んだ。喉が大きく上下する。それを見て、戸川が怪訝な顔を向けた。いつもの俺となんか違う、そんな顔だ。
「あのさ、俺ってさ」
戸川の顔を見返して、もう一度大きく息を吸い込んだ。この、やるせない気持ちを友人と噛み締めよう。
「背の高い子が好みなわけっ」
大声で吐いた台詞は疑問なのか、断言なのか。声の大きさにニュアンスはかき消された。自分もよく分からない。いざ言葉にすると急に眩暈がした。軽いパニックを起こしながら頭を抱える俺を見ていた二人は黙って視線を逸らした。
戸川は漫画に視線を戻し、光圀はまたごろりと寝そべる。
「え、あの、ちょっと? なぁ、おいっ!」
華麗なる二人の無視っぷりに怒りよりも酷く焦る。彼らの辞書から友達甲斐という言葉は真空パックに詰められて凍結されているのかもしれない。
抵抗を露に駄々っ子のように二、三度、机をばしばしと叩いて見せた。折角の男の器も台無しである。
二人は俺を見ようともせず、けれども核心的な言葉をそろえた。
「なにを今更」
声は見えない棍棒となって後頭部を打ち付けた。
「うへぇ」
その衝撃で思わず跪き、奇妙な叫びが口から漏れてしまった。そのことをこの腐った友人たちに後々までからかわれることになって、撃沈告白イベントは幕を閉じたのである。
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