映画 「私の愛した大統領」 平成25年9月13日公開 ★★★☆☆
1930年代アメリカ、多忙なフランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領(ビル・マーレイ)は
一番の理解者である従妹のデイジー(ローラ・リニー)と過ごすひとときが何よりの安らぎだった。
1939年6月、ドイツとの開戦危機に備えアメリカの後ろ盾が欲しい英国王ジョージ6世夫妻が実家を訪問。
歴史的なトップ会談が行われた夜、デイジーは思いも寄らなかった大統領の秘密に触れてしまう。(シネマ・トゥデイ)
フランスのミッテラン大統領はおふくろの味を恋しがっていたけれど、
アメリカのF.ルーズベルト大統領は激務を癒す息抜きを欲しがっていた・・・
ということ?
ある日、デイジーのところへ大統領の母から1本の電話が・・・
「フランクリンには気晴らしが必要なの。慰めてやってちょうだい」
デイジーは大恐慌で没落した大統領の大勢のいとこの中の一人で、
結婚もせずに、毎日、家事と叔母の世話でひっそり暮らしていました。
暗い執務室で鼻炎の薬をさしていたフランクリンは自慢の切手コレクションをみせると、
「デイジー、どこに行きたい?いっしょにドライブに行こう」
足を使わずに運転できる特注の車で田舎道や森を走ります。
護衛の車を追いやって花畑に逃避行しているうちに
「私は従妹から親しい友人になった」・・・
フランクリンとの逢瀬を楽しみにするようになるデイジー。
引退後は隠れ屋でいっしょにすごすことを夢みるようになります。
前半はこんな感じで、デイジーが大統領との距離を縮めていく様子が純愛ドラマのようなんですが、
この時フランクリンは50歳をとうに超え、もちろん妻子もあり。あれれ?
以下、思いっきりネタバレですが、
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「車椅子の大統領がタフに仕事をこなせたのは実は心優しい従妹のアシストがあったから・・・」
予告編から想像できる、こんなほのぼのと心温まるエピソードを期待していると、全く裏切られます!
大統領は50代後半なのに、母親の家に住み、
妻エレノアは家具をつくるレズ仲間たちと一緒にほかの家に住んでるのですって!
表向きは円満でも、まったく心の通い合っていない仮面夫婦。
エレノアは行動力のあるユニークな女性ですが、別居は彼女のせいではなく、
どうやらフランクリンの女癖が原因らしい・・・というのがわかるあたりで、ほとんどの女性はドン引きするのでは?
デイジーもよく知っている有能な秘書のミッシーがメインの愛人で、そのほかにもいるらしい。
「みんなも切手帳みせて、ドライブして愛人になったのかしら?」
「地味で内気な私ならおかしな気をおこすまい、とタカをくくられて、ミセス ルーズベルトは私をあてがったの?」
やり手の大統領なら、激務の中でもいっぱい愛人抱えて、いまにもそれらしいといえばそうですが、
その気になりかけてたハイミスの気持ちを踏みにじるひどい手口ですよね。
フランクリンは4期12年も大統領を務め、ニューディール政策で経済を立て直したり大戦に参加したり・・
でもここでは、そういう業績はほぼ無視で、「イギリス国王ジョージ6世との会見」という公式行事のみがとりあげられています。
あの「英国王のスピーチ」の国王夫妻がこのタイミングで訪米していたなんて、ちっとも知りませんでした。
実はフランクリン・ルーズベルトが車椅子の障碍者だったことも、私はこの映画の予告編で初めて知りました。
これって有名な話なんでしょうか?
↑ これはヤルタ会談の有名な写真ですが、チャーチルとスターリンの間でフツーに座ってるからわかりませんよ~
「小児麻痺で歩けない」とのことですが、発症したのは40歳くらいのとき。
それでも小児麻痺というのかな?
(一説にはギランバレーという説もありますが・・・)
杖をつけば何とか一人でも移動できるレベルのようですが、車からの移動など、基本は
「男性スタッフがお姫様だっこ」のようです。 これにはびっくり。
ところで、英国王のスピーチですっかり有名になったのは、ジョージ6世の吃音という障害。
この映画の主題は「デイジーvsフランクリン」ではなくて、どうやら
「吃音vs小児麻痺」の障害対決のようなのです。
英国王ジョージ6世がフランクリン・ルーズベルトのハイドパークの私邸(母親の家)を訪れたのは1939年。
(ハイドパークといえばロンドンで一番有名な公園ですが、ここではニューヨーク州北部の田園地帯です)
57歳の大統領に対して、国王は43歳。
ヤングマン、と呼びかけ、まるで息子にでも語りかけるような大統領に対して、
内気な国王は緊張でガチガチなんですが、
「お願い、バカにされるようなことはしないで」
と王妃は夫にハッパをかけます。
国王は政治のプロではないものの、今回の訪問の目的は
「ヨーロッパでの戦争においてイギリスへの支援をとりつける」という重大なもの。
ところが、寝室として通された部屋には、サル顔のイギリス兵士をあざけるような風刺画が飾られ、
翌日は、ピクニックに行ってホットドックを食べて先住民族の踊りを見る・・・・というスケジュールだと知り、
「私たち絶対にバカにされてる!!」
王妃は心配でたまらず、夫にいろいろいっちゃうんですが、
そうすると夫はドモリはじめ、
「こんな時、お兄様だったら・・・」とか、
「ドモるのはもうやめて」というとさらにドモる、という悪循環。
それでもこの若い二人はカジュアルすぎるおもてなしとキツいアメリカンジョークにさらされながらも、
二人で支えあいながら、この初めての異国での奇妙なホームステイを体験するのです。
大統領とは失敗話で盛り上がり、ピクニックでは英国王がマスタードたっぷりのホットドッグをほおばった瞬間
たくさんのカメラのフラッシュが焚かれました。
食事の最中、いきなりお皿が大量に割れる、という不吉なことが起きるのですが、
「ドジな天使が通りかかった」
という国王のひとことがその場をなごませました。
アメリカ人はいわないような、上品でこころやさしいジョークですね。
不器用で臆病、でも誠実でまじめなジョージ6世とそれを支える(というか叱咤激励する)エリザベス王妃。
この二人がほんとに素敵で可愛らしくて・・・・
イギリスにしてみればこの訪問は「大成功」だったようで、みごとにミッションやり遂げてめでたしめでたし・・・ですが
実際は世界中を巻き込んだ全面戦争になるのですから、喜んでもいられませんが・・・
エンドロールで国王訪問のときの実写の映像が流れ、
「99歳でデイジーが亡くなった時に発見された日記や手紙から構成したドラマです」
みたいなテロップが流れるのですが、
デイジーは愛人としてかかわるのではなく、一人の記録者として登場し、
見ている人が
「あれ? もしかしたら、デイジーは恋をしていたのかも?」
と想像する・・・・・って程度でよかったのではないでしょうか?
それにしても、「英国王のスピーチ 」とか「ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋 」を見ていたので
私はジョージ6世やエリザベス王妃に思い入れできて楽しめましたが、
それも観てなかったら、ほんとにつまらなかったと思います。
女性の方で「大統領の料理人」とどっちを見ようかと迷っているのなら、確実に「料理人」のほうをオススメいたします。