東野圭吾「パラドックス13」 | 世界文学登攀行

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世界文学の最高峰を登攀したいという気概でこんなブログのタイトルにしましたが、最近、本当の壁ものぼるようになりました。


僕はあまり人から勧められた本を読むことはない。
自分で読んで面白かった本の話しを会社の後輩にしたら、「これオススメです!」って手渡されたのが本書だった。
東野圭吾っていう名前を聞いたことはあったけど、興味もなかったし、本も分厚かったので、読めたら読むよ、なんて読む気もないのに不誠実に言って受け取ったものだ。
まったく別の友人から「マスカレード・ホテル」が面白いよと勧められて、これも東野圭吾か、はやっているんだなと思い、手元にあった「パラドックス13」には興味がわかずに、「マスカレード・ホテル」をアマゾンで購入し、読みはじめた。
マスカレード(=仮面舞踏会)という響きには、ぞくぞくとする魅力がある。
「マスカレード・ホテル」の感想は以前に書いたが(こちら )、とても面白かったので、手元にあった「パラドックス13」も面白いに違いないと独り決めして読みはじめた。


これは、面白かった。
架空の事象を前提とした冒険小説。
なかなか、現代においては冒険小説を読ませること自体困難ではないだろうか。
僕らは様々なことを知り過ぎている。
例えば「西遊記」が書かれた頃だったら、はるか遠い天竺に至る道程には、悪鬼魔神の荒ぶる広大な天地があり、その分だけ自分の中で想像を膨らませて物語を楽しむことができたと思う。
最近だって、密林にはロマンがあり、宇宙には未知の世界があった。
それももう昔のこと。
今はあらゆるものが視覚的な情報として入手可能であり、少しでも大げさなことを言えば、そんなことあるもんか、と合理的な反論ができてしまう。


この本の設定は、そもそもありえない設定である。
極論すれば、子供が一度は考えたことのある幼稚な世界観かもしれない。
しかし、その極めて人為的に設定された世界で直面する、無力な人間たちの奮闘、諦め、絶望などが、非日常であるがゆえに物語的であり、そこでの人間たちの振る舞いはリアルであって、そのバランスが、とても小説的で読んでいて面白かった。


作者は、この物語の住人に、裁きの杖をふるい、これでもか、これでもかと試練を与える。
途中から住人の悲惨さに感情移入してしまい、作者に、かわいそうだよ、やめてあげてよ、と何度思ったことか。


これだけ話しを大きくしてしまって、最後どうやって幕を下ろすのかと不安だったが、僕は余韻があってよい終わり方だな、と思った。


余談だが、描写のあまりのリアルさに、東日本大震災の映像を踏まえたものかと思ったが、連載は2007年~2008年と震災前。マスカレード・ホテルの時も、この人ホテルで働いてたことがあるのかな?と思うくらいリアリティにあふれていたけれども、上手だなと思った。


パラドックス13 (講談社文庫)/講談社
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