『コーヒー長者 ~若端式~』 STEP5 | 若端創作文章工房

『コーヒー長者 ~若端式~』 STEP5

この作品は、彦さん の連載小説『コーヒー長者』を、作者に承諾を得た上で分岐した続き物です。


 『コーヒー長者』 STEP1

 『コーヒー長者』 STEP2

 『コーヒー長者 ~若端式~』 STEP3強奪版

 『コーヒー長者 ~若端式~』 STEP4

 こちらをお読みになってから読んでください


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 高瀬は途方に暮れていた。
 『キワモノ飲料探検隊』と自称する怪しげな3人組から貰った樽一杯のコーヒー豆。だがそれは、焙煎されていない生豆の上に、質も良くなく、少し酸っぱい匂いがする。

「…これ、どうしよう…」

 このような大量の豆を焙煎しろと言っても、自宅はおろか、何処の喫茶店に行っても出来ないだろう。仮に焙煎が出来たとしても、美味しく飲める確立は低い。

 公園のベンチに座り、高瀬は溜息を付く。
 
 人通りの少ない、平日午後の公園。


 吹き抜ける寒い風。


 ゆれる裸の木々。


 そして白いコックコートの男。


「え?」
 高瀬は我が目を疑った。彼の側にあるコーヒー樽の隣では、白いコックコートの男が料理の準備を始めていた。
 やがてキッチンワゴンの上には豚肉、そして数種類のスパイスが並び、その隣にはガスコンロと電磁調理器が置かれる。
 調理の準備を終えたコックコートの男は、いきなり高瀬のコーヒー豆に手を伸ばそうとした。
「あーっ! これは俺のコーヒー豆だ! あんた何やってんだ!?」
 高瀬は思わず怒鳴り声を上げる。だが、白いコックコートの男は涼しげにこう返した。 
「俺か、俺は流れの料理人『土鍋 徹(どなべ とおる)』。人は俺を『マッドシェフ 土鍋』とも呼ぶがな…」
「別にあんたの名前を聞いているんじゃない! 何で人のコーヒー豆を勝手に取るんだ!?」
 その問いに、土鍋はこう返す。
「見れば分かるだろ。ポークソテーを作るところだ」
「いやそんなことではなく、俺のコーヒー豆を勝手に使うなと言っているんだ! それに、何でポークソテーとコーヒー豆が関係するのか、判らないよ!」
 高瀬は苛立ちを露にしていた。質が低いコーヒー豆とは言え、勝手に使われるのは気分のいいことではない。
 だがそれでも土鍋は、冷静にこう返した。 
「…このコーヒー豆、普通に焙煎して淹れたところで酸味が強くて飲めた物ではないな。恐らく死豆が混じったまま数年樽のまま保管されていたんだろう。
 だが、俺はこの酸味が強いコーヒー豆を求めていた。これを上手く使えば、苦味と酸味が程よく調和されたソースを作るのに丁度いいとは思わんか?」
 高瀬の苛立ちは次第に疑問に変わっていた。確かに土鍋の分析は当たっている。だが、質の低下したコーヒー豆で本当に美味しいソースが出来るかどうかは未だに信じられなかった。
 そんな高瀬に、土鍋はこう口を開く。
「お前本当は、このコーヒー豆の処分に困っていただろう? 良かったら、樽ごと俺に譲ってくれないか?」
 図星だった。だが、高瀬としては願っても無い話だった。だが正直、半ば一方的に持ちかけられたこの話に首を縦に振るほど高瀬はこの男を許してはいなかった。むしろ、その高圧的な態度にも腹を立てていた。
 だが土鍋は、そんな高瀬の心境を見越してか、こう加える。
「勿論、ただとは言わない。だが、俺もそう手持ちが無いのだが……そうだ、いい事を考えた。
 このコーヒー豆を使った俺の料理を是非食べてくれ。もし気に入らなかったら今の話はなかった事にしてもいいぞ」
「……いいだろう」
 高瀬は土鍋の提案を受け入れた。


 やがて土鍋の料理が始まる。その腕前は鮮やかで、見ているだけでも惹き付けられそうな手さばきだった。
 そして漂い始める香りに、高瀬の苛立ちの感情は和らぎ始めてきた。
 
 やがて肉が焼け、そこに高瀬のコーヒー豆を使ったコーヒーソースがかけられる。
 肉のワイルドな匂いを包み込む、コーヒーソースの香りは完全に高瀬の心を引き寄せていた。


「コーヒー樽に匹敵する価値があるかどうか、食えば分かる」
 土鍋はそう言うと、高瀬の前に『特製ポークソテー コーヒーソース風味』を差し出した。高瀬は早速香ばしいポークソテーを口に運ぶ。


(これは…!!)


 瞬時に高瀬の表情が緩む。そう、高瀬の口の中に広がる肉汁と、酸味、そして苦味が調和されたソースの味が広がった。
「う…うまい!! こんなにうまいポークソテーは初めてだ!」
 それを見た土鍋はにやりと笑った。
「どうだ、これでも価値が無いといえるのか? こんな芸当が出来るのは俺だけだ…」
 そして、土鍋はデザート代わりにコーヒーゼリーを差し出した。そのコーヒーゼリーも高瀬のコーヒー豆で作ったものだ。
「これはコーヒー豆の御代替わりだ」
 更に土鍋はこう付け加える。
「どんな低質な食材でも、俺の料理はダイヤモンド並まで価値を高められる。さらばだ」
 そういい残すと、土鍋はコーヒー豆の樽を引き、この場を去った。


 こうして、『コーヒー生豆(低質) 一樽』は『土鍋 徹特製 マッドシェフの気まぐれコーヒーゼリー(推定価格:ダイヤモンド並(本人談))』になって高瀬の元に戻って来た……って、高瀬さん、ヨダレヨダレ……。


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 土鍋まで乱入してきた『コーヒー長者~若端式~』

 大分支離滅裂な話になってきましたが(彦さん、ごめんなさい(爆))

 

 兎も角、次回最終回です。つ~か、タイトルどおり長者になるかどうか、作者自体も心配なんですが(自滅)