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「ねえねえ、早く行こう」


小夜はウキウキした様子で隆一の腕に自分の腕を絡めた。


引越しのための家探しというのはなんとなくウキウキするものだ。ましてやもう直ぐ夫婦となる高瀬隆一と小夜にしてみれば新しい愛の巣を探すのはこの上ない楽しみの一つであった。


「ああ、よいしょっと」


隆一がデートには場違いな大きな荷物を持ち上げる。


「何それ?」


「ああ、これは家探しの秘密兵器さ」


隆一はにっこりと笑顔でそう答えた。


隆一は引越しの達人だ。今まで何度も引越しをしてきたが、どこも隆一のそのときの状況にぴったりとした物件を見つけ出し快適に暮らしてきたのだ。


二人の希望は庭付きの中古の一軒屋、マンションも考えたのだが小夜のお腹の中には既に新しい命が芽生えており、マンション育ちの二人は庭で子供と一緒に遊ぶのが夢であった。


「いかがでしょう? なかなかこれだけの物件はありませんよ」


不動産屋が営業スマイルを浮かべる。


中古住宅といってもリフォームは済んでおり、若夫婦にはぴったりなモダンな造りになっていた。


「ねえねえ、ここいいんじゃない?」


数箇所回った中でもここがお気に入りらしく小夜はかなり乗り気であった。


「う~ん、確かに良さそうだが……。試してみるか?」


隆一はそう呟くとあの大きな荷物をそっと床に降ろし丁寧にその中身を取り出した。


「そ、そんな……、あなたにそんな趣味があったなんて……」


それを見て愕然とする小夜。


精密に作られたミニチュア家具、その中でくつろぐ美少女の人形。そう、それは紛れも無く『リ○ちゃんハウス』であった。


だがその『リ○ちゃんハウス』を見て顔色を変えていたのは小夜だけではなかった。


「ま、まさかそれは……家鳴り」


不動産屋が顔を青くする。


「さすがですね。家鳴り様の存在を知っているとは。さあ、家鳴り様お願いいたします」


隆一の言葉に反応しリ○ちゃんハウスの中のリ○ちゃんがハウス内をうろうろ歩き出す」


「な、何これ!?」


目を丸くして驚く小夜。


「ああ、これが家鳴り様だよ」


「家鳴り? ……ってあの夜中に家の中がカタカタなるあの家鳴り?」


「ああ、その家鳴りだよ」


「でもあれって……、気温差とかで柱とかが軋む音じゃあ……」


「ああ、そういうのもあるけど、それとはまったく別に『家鳴り』という妖怪はちゃんと存在するんだよ。ねえ、不動産屋さん」


青ざめた顔のままこっくりと肯く不動産屋。彼らにとって『家鳴り』はまさに天敵といっても良かった。


家屋を住み着き夜中にカタカタと音を鳴らす家鳴り、しかしそれはその家屋の構造を細部まで把握していなければ出来ない技だ。


どんな些細な構造欠陥も家鳴りは見逃さない。それどころか……。


「この家鳴り様は我が高瀬家に代々住み着いている妖怪でね。そのときの家主の状況に応じて周辺環境も踏まえた上でその家がふさわしいかどうか判断してくれるんだ」


じっくリ○ちゃんハウスの中をうろつきまわるリ○ちゃんを見つめながら高瀬が呟く。


「で、でも……どうしてリ○ちゃんなの?」


「ああ、家鳴り様は『家』といつでもセットなんだ。アンティークのドールハウスもいいんだけど持ち運びという点ではリ○ちゃんハウスが便利なんだよ」


隆一と小夜がそんな会話を交わしている間に調査を終えたのか、リ○ちゃんがミニチュアチェアに座り悲しげな表情をして首を横に振った。


「あちゃ~、どうやらここは今の僕達にふさわしくないようだ。不動産屋さん、どこか別の物件をお願いします」


「は、はい、少々お待ちください」


慌てて携帯電話で本社に連絡を取る不動産屋、相手が『家鳴り』持参となれば下手な物件を紹介しても時間の無駄。それどころか掃海した物件が一軒も『家鳴り』に認められないという事実が広がれば客足が遠のくどころか、何処の住宅情報誌も相手にしてくれなくなる可能性もあるのだ。


取って置きの物件を次々と紹介する不動産屋、しかしなかなかリ○ちゃんの姿を借りた家鳴りは笑顔を見せない。


「ここが最後の物件です。このほかにはもう紹介できるような物件は当社にはありません……」


疲れきった様子で不動産屋が紹介したのは少し古い造りの一軒家であった。


「え~、ここ?」


そこはやや不満げな顔の小夜、若い二人のスウィートホームにしてはやや野暮ったい感じのする家屋であった。


「まあまあ、とりあえず家鳴り様に聞いてみよう」


再びリ○ちゃんハウスの中をうろつく家鳴り、そしてその日初めその整った顔立ちに笑顔が浮かんだ。


小夜は不服そうであったが、『家鳴り』を信じきっている隆一の説得によりこの家屋を二人の当たりしいスウィートホームにすることになった。


それから数年後。


長男に続き長女も生まれ四人家族となった隆一は賃貸として借りていたその家を買い取った。


引越しも考えたのだがどうしても『家鳴り』がこの家を離れたがらなかったのだ。


(それにしても……)


この家に住み始めて数年、隆一はずっと疑問を抱いていた。


(どうして家鳴り様はこの家を選んだのだろう?)


『家鳴り』と共に数多く引越しをしてきた隆一、そのどこも不満どころか素晴らしい満足感を隆一に与えてくれる家ばかりであった。


しかし今回ばかりはそうではなかった。


無論、現状に不満があるわけではなかったが、今までのような満足感がこの家には無かったのだ。


(いや、家鳴り様に間違いがあるわけが無い。きっと何かここを選んだわけがあるはずだ!)


隆一はあくまで『家鳴り』を信じ、それ以上深く考えないことにした。


やがて十数年のときが流れる。


「ただいま……」


残業を終えて夜遅く帰ってきた隆一。しかし週末にもかかわらず彼に彼を出迎える声は無かった。


長男は十七歳、長女は十四歳、共に多感な時期でなかなか親子の会話もこのところ途絶えがちであった。ここ数年、不況のあおりを食って隆一の勤めている会社も危機的な状況に陥り、毎日毎日残業三昧、そのおかげで何とか危機は乗り切ったが、あんなに仲の良かった小夜との夫婦仲もすっかり冷め切ってしまっていたのだ。


翌日、朝寝坊を決め込んでいた隆一のところへ、


「父さん!」


「お父さん!」


「あなた!」


長男と長女そして小夜が血相を変えて飛び込んできた。


「おいおい、いったい朝からどうしたんだ?」


寝ぼけ眼で三人の後についていく隆一。


「こ、これは……」


外れかけた壁、軋んだ柱、屋根からは雨漏り……。


昨夜あった小さな地震で家のあちこちが朽ち始めていた。


もともと築年数の経った中古の家である。そろそろその耐久年数も限界に来ていたのだ。


「どうしたもんかな~? これだけ酷いと応急処置じゃどうにもならないだろうし……」


家自体はぼろぼろだが子供たちの学校も近く、スーパーや駅などの利便もいい。この家を諦めてこれだけの周辺状況の家を探すとなると『家鳴り』の力を借りても時間もかかる。


「そうだな~、大幅にリフォームするか?」


『リフォーム!』


隆一の言葉に家族の声を揃えて目を輝かせる。


一時期のリフォーム流行はやや下火になったとはいえ、まだまだテレビなどではリフォームの番組を数多くやっておりリフォームに対する夢はまだまだ大きいのだ。


そう決まると隆一はさっそく新聞に広告を出した。


『リフォーム業者求む。ただし当家には「家鳴り」がおります』


世の中には悪質なリフォーム業者も多い、しかしこの業界にかかわるものであれば『家鳴り』の存在を知らないものはいない。いい加減な業者、腕が未熟な業者は『家鳴りの』目に適わないことを知っており、この広告に申し込んでくるのは誠実なしかも腕に自信のある建築業者だけなのだ。


「ここはこんな感じでどうでしょう?」


「え~、私はもうちょっとこんな感じが……」


「俺の部屋はこんな感じがいいな……」


「キッチンはやっぱり対面式の方が……」


リフォーム業者を交えて家族会議が行われる。


(なんか久しぶりだな……)


家族揃ってこれだけ会話が弾んでいることに隆一は内心ほっとしていた。


そして『家鳴り』もその様子を穏やかな目で見届けていた。


『家鳴り』は知っていた。


人生と同じく家族も山があり谷があるものだということを。そしてその谷のときに必要なのはちょっとした変化と何よりも家族の『会話』なのである。


あの時、隆一と小夜がスウィートホームを探していた時、『家鳴り』は予感したのだ。


必ず隆一にもこの谷の時期がやってくる。だからこそ家鳴りはこの家にこだわったのだ。


たとえ家族の会話が重要だとわかっていても、隆一一人では空回りしてしまう可能性もある。しかしリフォームという家族全体がかかわることであれば自然と会話は生まれるものなのだ。


やがて高瀬家のリフォームも終わり、新築同様にきれいになった家の中は家族の会話と笑顔で満ち溢れていた。


カタカタカタカタ……


真夜中に『家鳴り』が鳴く。


隆一はその音に静かに耳を傾け……


(家鳴り様、ありがとうございました)


心の中でそっと呟いた。



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久々の『妖怪シリーズ』です。



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川崎市の工業団地に程近い飲み屋街の一角に、古くから作業員達に愛されている『たかなし湯』がある。


二十四時間体制が多い工場で働く人たちのために、営業時間は午後3時から翌日の午前11時まで、一番客足の少ないお昼の4時間しか店を閉めないといった営業方針は多くの労働者に仕事後の安らぎを与え続けていた。


今やどんな安アパートでも風呂付が当たり前、銭湯には苦難の時代であったが、大きな風呂で一日の労働の汗を流し飲み屋で一杯引っ掛けてから帰るという習慣がこの辺りには根付いていたので『たかなし湯』はそういった労働者達のちょっとした社交場となっていた。


そしてそんな『たかなし湯』の名物が浴室の壁に描かれた『富士山』であった。


毎月第3日曜日に定休日を儲けている『たかなし湯』では、この日に主人自らがこの壁絵の『富士山』を描き換えているのだ。絵のテーマである『富士山』はそのままで、その画風は洋の東西を選ばず、非常に質の高いもので、日々労働者たちの疲れを癒すのに大きく貢献しているのだ。


「さて、今日もやりますかな」


この『たかなし湯』の主人がペンキと刷毛、そしてラジカセを持って浴室へと入ってきた。


今日は定休日、『富士山』の壁絵を描き換える日なのだ。


主人が片手に刷毛を持ち、鉢巻をしてラジカセのスイッチを入れる。


ぷふぉぉぉぉぉ~♪


ぽん、ぽん、ぽん♪


そこから流れてきたのは笙や小鼓といった和楽器の怪しげなメロディー、そして主人がそのメロディーに合わせて怪しげな踊りを踊る。


「あいやー、さあ、いやらー、そい」


意味不明の言葉を喚きながら一心不乱に踊り続ける主人、やがて主人の瞳の中に怪しげな光が宿り始めた。


ザッ!


一気に刷毛をペンキの入ったバケツに突っ込み壁へと叩きつけていく。まるで何かに取り憑かれたかのように下書きもなしに壁絵の『富士山』を仕上げていく主人、そこには芸術家独特の鬼気迫る迫力が存在した。


実はこの主人、銭湯『たかなし湯』の主人であるとともに、その業界では良く知られた『いたこ』であった。


しかも芸術家の霊を専門的に集めることの出来る極めて稀な資質を持った『いたこ』なのだ。


本来、芸術家のというものは自由奔放なもの、まして死して様々な制約から解放された彼らがこの主人に協力している理由はただ一つ、それは『富士山』であった。


エベレストなどの世界の高山に比べればけして高いとはいえない富士山だが、その美しさは世界でもトップレベルである。


歴史上、多くの日本画家の大家がその姿を好んで描いてきた。だが、航海術が未発達の時期に活躍した海外の画家は『富士山』を見ずにその生涯を終えてしまった。そして死後、初めて『富士山』を見た画家たちがその美しい姿に魅了されてしまうのは当然の成り行きであった。


(富士山を描きたい)


そう願う死した画家たち、しかし既に肉体の滅んでしまった彼らには筆を手に取る術はなかった。


そんな時、一人の画家の幽霊が浴室の壁に富士山を描いている『たかなし湯』の主人を見つけたのだ。


『いたこ』の資質を持っていた主人は直ぐにその画家の幽霊の存在に気付き、画家の幽霊の願いを快く受け入れた。そしてその噂はあっという間に他の画家の幽霊達にも広まり、『たかなし湯』には多くの画家の幽霊達が集まり、月替わりで『富士山』の絵を壁に描くことを主人と約束したのであった。


ザッ!


最後の一筆を入れ、主人が我に返る。


「え~と、これは誰の絵だ?」


どちらかというと暗い色調の絵、風呂屋にはあまり合わないかもしれないが、その圧倒的な存在感はけして不快なものではなかった。


「ああ、ムンクさんか」


壁絵の脇にあるサインを見つけ納得する主人、そして持っていた刷毛をデッキブラシに変えて浴室の掃除に取り掛かった。


翌日、客達がさっそく壁に描かれたムンクの『富士山』を話のねたに盛り上がる。


「は~、今回はまたずいぶんとけったいな富士だね~」


「そうかい、でも俺はこういう感じ好きだな~」


その声に笑顔で耳を傾ける画家の幽霊達。


今の彼らに必要なのは画壇の評価でも、評論家達の言葉でもない。


こういった何の先入観も持たない庶民の声こそが彼らを喜ばしているのだ。


「ちわ~、いや~、今日は冷えたね~」


「まったく、もう春だって言うのに困ったもんだ」


今日も『たかなし湯』は満員御礼である。


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元ネタは山下久美子さんの『バスルームより愛を込めて』です。


銭湯といえば富士山ですよね。


銭湯好きです。


自宅に風呂があっても週に一回は行っています。



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「・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・」


誰もがその光景に言葉を失ってしまった。


スルスルスルスル


ゴム製のキャタピラであろうか土埃をたてることなくそれは静かに突き進んでいた。


「ねえ、あれ何?」


仕事帰りのOLらしき二人組みの片割れがもう片方に小声で囁く。


「し、知らないわよ。でもどっかで見たような……。あっ!」


「なになに?」


「ほら、この間、ヨドカメに一緒に行ったじゃない?」


「ええ、あんたの今度の彼氏がタバコを吸うから……。あっ!」


二人は顔を見合わせて……


『空気清浄機だ!』


同時に叫んだ。


そう、それは確かに『空気清浄機』であった。


「で、でも……。あれ、スピーカーだよね」


「うん、……たぶん」


空気清浄機が街中を闊歩しているだけでも十分非常識なのだが、なぜかその空気清浄機の両脇には見るからに高性能そうなスピーカーがしっかりと取り付けられていたのだ。


スルスルスルスル


そんな周りの様子を無視して空気清浄機は進み続け、やがてそれは大型チェーンのカフェへと入っていった。


「いらっしゃ……ませ?」


出迎えたウェイトレスが突然入ってきた空気清浄機とその後に続く大量の客に声を上ずらせる。


誰もがこの以上の状況を確かめずにはいられなかったのだ。


まるで何かを探すかのように店内をうろつく空気清浄機、だがやがてそれは一組のカップルのテーブルの前で停止した。


重苦しい雰囲気の佇むそのテーブル、どうやら別れ話の真っ最中らしかった。


♪♪♪~♪


空気清浄機のスピーカーから柔らかい音楽が流れ、本来なら吸い込むはずの吸気口からアロマオイルを含んだ優しい香りが漂う。さらに正面のパネルには美しく雄大な景色やかわいらしい花畑などどこか心を和ませる映像が絶妙なタイミングで映し出されていた。


すると興奮していたそのテーブルの破局したカップルは落ち着きを取り戻し別れ話は修羅場を乗り切ってしまったのだ。


さらにその空気清浄機は店内を回り、駄々をこねている子供や仕事でミスをして落ち込んでいるサラリーマンのテーブルを回り同様の手口で宥めたり勇気付けたりして回ったのだ。


ピー、ピー、ピー


スルスルスルスル


突然電子音が鳴り空気清浄機が店の外へと出て行く。


当然のように人々は長い行列を作りその後を追いかけていった。


やがて住宅街に入り、空気清浄機は一軒の家に辿り着く。そしてその家の門には『天乃原研究所』 という木製の看板が掲げられていた。


空気清浄機の帰宅に気付き一人の男が玄関から出てきた。


この男が『天乃原研究所』の所長である天乃原不動(あまのはらふどう)だ。


「なんだ、君達は?」


不動が鬱陶しそうに行列を見る。


「あの~。こ、これはいったい?」


あのOLが不動に問い詰める。


「何って、貴様、いい歳をして空気清浄機も知らんのか?」


「空気清浄機は知っているわ! なぜ空気清浄機が街中を歩いて喫茶店で別れ話を仲裁(?)したり、子供をあやしたりしているのかって聞いているのよ!」


「ほう、喫茶店か。なかなか目の付け所がいいな。ちゃんと使命を果たしているようだな」


満足げに肯く不動。


「ちょっと、無視しないでよ!」


ヒステリックな声を上げるOLに不動が大きく溜息をつく。


「ふう~、なんだ、貴様、そんなこともわからんのか? ならばこちらからも問おう。空気清浄機の役割とはなんだ?」


「そ、それは……汚れた空気を綺麗にする……こと?」


あまりにも堂々とした不動の態度にそんな当たり前の答えさえ不安になるOL。


「わかっているではないか。こやつのおかげでその荒れていたり、棘棘していたり、暗く沈んだその場の空気が浄化されたのであろう。ならば空気清浄機としてなんら問題あるまい」


「いや、『その場の空気』って言うのはものの喩えで……」


「何を言っている!」


不動が激高する。


「喩えであろうと何であろうと空気と名の付く以上、空気清浄機にはそれを浄化する権利がある。他人に決められた枠の中でしか仕事を果たせない空気清浄機の悲しみが貴様にはわからんのか! だからわしはこやつの向上心を満たすための機能をつけてやったのだ」


ピー、ピー、ピー


『博士、バッテリーとアロマオイルの補充をお願いします』


空気清浄機が悲しげな音楽とともに不動に訴えてくる。


「おお、そうだな。今すぐ補充してやる。存分に自らの使命を果たしてくるが良い」


不動がアロマオイルのカセットとバッテリーを取り替えると空気清浄機は再び『空気』を浄化するために旅立っていった。



2019年8月30日


マッドサイエンティスト天乃原不動の向上心に対する理解により、空気清浄機は初めて自らの枠を乗り越える力を手に入れた。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


はい、天乃原不動、またまた登場です。


一家に一台、あったら便利ですよ。


◎関連作品

『ああ、マッドサイエンティスト』

『ああ、マッドサイエンティスト~その2~』

『ああ、マッドサイエンティスト~その3~』

『ああ、マッドサイエンティスト~その4~』

『ああ、マッドサイエンティスト~その5~』

『ああ、マッドサイエンティスト~その6~』

『ああ、マッドサイエンティスト~その7~』

『ああ、マッドサイエンティスト~その8~』
『ああ、マッドサイエンティスト~その9~』

『ああ、マッドサイエンティスト~その10~』

『ああ、マッドサイエンティスト~その11~』


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「なあ、最近、UFOの目撃情報が増えてねーか?」


某週刊誌の記者である高瀬は読者からの投稿写真を見ながら同僚の渡瀬に話しかけた。


「そういえばそうだな。ミステリーサークルも世界中で頻発してるしな」


以前からUFOの目撃情報は世界中で報告されているが、ここ十数年、特にその数は増加してきていた。


「やっぱり、ニュートロン機関となんか関係があるんだろうか?」


「どうだろうな? 確かに時期的には一致しているけど……」


十数年前、画期的な発電機関が開発された。


それが『ニュートロン機関』である。


加速する化石燃料の枯渇による火力発電の限界、いまいち安定性と出力に欠く水力や風力といった自然エネルギー発電、放射能という最悪の副産物を生み出してしまう原子力発電。文明社会に欠かせぬものとなった電気供給の未来はけして明るいものではなかった。


そこに突如として現れたのがこの『ニュートロン機関』である。まだまだ総発電量に占める割合はそれほど高くないが、このまま開発が進めば間違いなく次世代の中心発電機関になることは明らかであった。


「将来的にニュートロン機関は推進エネルギーにも応用可能だっていう話だぜ。それが実現すれば……」


「ああ、人類の宇宙進出も夢の話じゃなくなる。もしかしたら……それを察して?」


「UFOがか? 友好のため? それとも……」


二人はUFOの目撃写真を眺め、人類にとって悲惨な未来を想像せざる得なかった。


そのころそのはるか上空、地球の様子を観察している一台のUFOが存在した。


「タカセ隊長、何故さっさとあの星を侵略してしまわないのですか」


「ワタセ隊員、これは上層部の決定なのだよ。もう少し彼らの文化・文明、科学技術が発展してから侵略を開始するのだ」


「それがわからないのです。科学技術が発展すればそれだけ侵略に不都合が増すばかりじゃないですか? 現段階で彼らと我々とにははるかに軍事力の差があります。今、侵攻すれば我が軍は無傷であの星を制圧することが出来るはずです」


「そんなことはわかっておる。しかし今我々が命じられているのはあの星の観察と調査だけだなのだから仕方あるまい!」


声を荒げるタカセ隊長、彼とて一刻でも早く侵略を開始したいのは山々なのだ。


地球を狙っているのはタカセたちの星だけではない。宇宙勢力争いで彼らのライバルとなっている星も地球を狙っているという情報は既にタカセの耳に入っていた。地球侵略の責任者としてなんとしてもライバルに負けるわけにはいかないのだ。


しかし、そんなタカセの思いを嘲笑うかのようにサイレンが艦内に響き渡る。


「た、隊長、大変です。奴らの艦が地球へ……」


「モニターに映せ!」


指令室内の巨大モニターにライバル星の宇宙戦艦が地球に降下していく様子が映し出された。そしてその艦の巨大な砲塔が小さな島国に狙いを定めた。標的はその国にある原子力発電所である。


何を攻撃すれば一番大きくダメージを与えられるのかちゃんとわかっているのだ。


巨大な爆光が瞬く。


タカセはその光景に言葉を失った。


なんと破壊されたのは小さな島国の原子力発電所ではなく、侵略のために派遣されたライバル星の戦艦の方であった。


一閃の青白い光が戦艦を一撃で破壊してしまったのだ。


「そんな馬鹿な! 奴らの戦艦を破壊できるほどの兵器をあの星が持っているはずは……」


タカセは戦艦を葬り去った閃光の発射元へカメラを向ける。


「な、なんだ、あの生き物は!」


黒くごつごつした肌、凶悪な目、巨大な牙、まさに破壊を具現化したような生物がそこにはいた。


そう、その生き物こそ地球最強、いや宇宙最強とも言っても過言ではないである。


この驚愕の事実をタカセは本星へと報告した。


『そうか……、とうとうお前達も見たか』


モニターの向こうで溜息をつく上司。


『奴は放射能を糧に生きている巨大怪獣だ。奴がいる限りあの星を侵略することは出来んのだよ』


「……それで侵略を先延ばしにしていたのですね」


『ああ、あの星の技術がもっと進歩して原子力を必要としなくなるその日までな』


「納得いたしました。これからも観察と調査を続行いたします」


『うむ、頼んだぞ』


本星との通信を終え、改めてタカセが地球の様子を確かめるとGは暴れたり無かったのか原発近隣の町を破壊して海へ帰っていくところであった。


Gは地球を守っている。


しかし、そのことを知っている人類はいないし、もちろんGもその自覚は無い。


だってGなのだから……


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久しぶりにG登場です。


なお、このお話はフィクションで原子力を肯定も否定もするものではありません。


その辺の苦情はご勘弁してください。

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「おい、そこで何をしている!」


夜の公園、チンピラに絡まれている女性を見つけ高瀬は助けに向かった。


身長168cm、体重55kg、けして恵まれた体格ではなく、格闘技はもちろんスポーツ全般が苦手な高瀬、しかし人一倍正義感・責任感の強い男であった。


「なんだ、おめーは?」


もちろんそんな高瀬相手に怯むチンピラたちではない。警棒やら木刀やらを片手に高瀬の周りを取り囲む。3対1、明らかに不利な状況、だが今の高瀬にはそんなことは関係なかった。


1年前、高瀬はただのひ弱な青年であった。相変わらず正義感と責任感は強かったが、いつもチンピラたちにボコボコにされ身包み剥がされて涙に暮れる日々を送っていた。


だが、そんな高瀬を神は放っておかなかった。


「俺はこの世の悪をけして許さない!」


高瀬が上着の前を空ける。するとベルトのバックルの部分に見慣れぬ機械が現れた。


さらに内ポケットから取り出した携帯電話をバックルの部分にかざし、今度はそれを高々と天へと突き出した

「ジャスティス・メタモルフォーゼ!」


カッ!


眩い光が携帯電話から放たれ高瀬を飲み込んでいく。


やがて光の中から現れたのは……変態であった。


バサッ!


高瀬がよれよれのトレンチコートの前を大きく開く。


中から現れたのは一糸纏わぬ毛むくじゃらのぽっこりとしたお腹と下半身、さらにその肌には亀甲縛り荒縄がぎっちりと食い込んでいた。


「へっへっへっ」


帽子を脱ぎ捨ててチンピラどもに近づいていく高瀬、脂ぎったすだれ頭が凶悪に輝く。


「おじちゃんと遊ばないか~い?」


酔ったように赤い顔をしながら近寄ってくる高瀬にチンピラたちが後ずさりをする。


世の中にかかわりになりたくない2つある。


それは『バカップル』と『変態』だ。どんな悪党も真の変態の前では無力、恐れおののいて逃げ出すしか手はないのだ。


これぞ神が高瀬に与えた『変態能力』である。争いは新たな争いを生み出す。真の強者とは『戦わずして勝つ』ことなのである。


そう考えた神は強靭な力を持つヒーローとしての能力ではなく敵が見ただけで逃げ出す変態の力を持ったアブノーマルヒーローの能力を高瀬に与えたのだ。


「へっへっへ、お嬢さん、大丈夫かい?」


「いやぁぁぁぁぁ~」


女性は慌てて逃げ出していった。


「しまった。変態を解くのを忘れていた」


再び光が高瀬を包み元の青年に戻していく。


「今日もいい事をしたな」


満足げに肯く高瀬。


アブノーマルヒーローは今日も平和のために戦っている。



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バカップルと変態には気をつけましょう

ご存知!バイオリンA「T-10033」
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ギーコ、ギーコ
ギーコ、ギーコ


「うるせーーーー!」


高瀬は床下に向かって怒鳴りつけた。


高瀬が進学のため越後大学のある入学して三ヶ月、予想外の事態に陥っていた。


田舎から出てきた高瀬は普通のアパートやマンションではなく市内から少し離れた小さな一軒家を賃貸することにした。というのも音楽学部に進学した高瀬には自宅で練習する必要があり、そのためには防音設備が欠かせないのだが、市内のそういった設備の整ったマンションは高瀬の予算を軽くオーバーするのである。


『いや~、格安の物件ですよ』


『大丈夫なんですか、ここ?』


不動産屋が薦めたその一軒家は防音設備の整ったアトリエもある3LDK、にもかかわらず家賃は1K並みの安さ、高瀬が怪しむのも当然である。


『もちろん大丈夫です。この家には自殺や殺人などといった物騒なことは一切ありませんでしたし、もちろん幽霊も出ませんよ』


『本当でしょうね?』


『も、もちろん本当ですよ』


ややその吃り具合が気にはなった高瀬であったが、これだけの好条件、いつでも引っ越せるようにと契約期間を設けないことを条件に高瀬はその一軒家を借りたのだ。


確かに幽霊は出てこなかった。


だが、その代わりにいたのは『バイオリンの妖精』であった。


床下に住み着いていたその妖精は夜になるとバイオリンを床下で弾き始めるのだが、これがまた下手糞なのだ。上手なバイオリンの調べは人々に安らぎを与えるが、下手糞なバイオリンは高架線下の騒音にも負けない立派な公害である。それを毎晩のように聞かされるのだからたまったものではない。


「あのな~、あんた仮にもバイオリンの妖精だろ? なのに……、なんでそんなに下手糞なんだよ?」


『そ、そんなことを言われても……』


姿かたちは見えないがその言葉からは自らの不甲斐なさにひどくコンプレックスを持っているようであった。


「仕方が無いな……。僕が教えてやるよ」


高瀬としてはそんなへぼ妖精など見捨てて、とっとと引っ越してしまっても良かったのだが、音楽学部でバイオリンを専攻している彼にしてみれば、そのあまりの下手さをほうっておくことが出来なかったのだ。


ギーコ、♪、ギーコ、♪♪


高瀬の熱心な指導もあって少しずつ上達し始めた床の下のバイオリン弾きであったが、それでもまだ『バイオリンの妖精』を名乗るにはまだまだ程遠いものであった。


ある日の夜、いつものように妖精にバイオリンを指導してから就寝した高瀬、そしてそれはやってきた。


ガタガタガタ

ガタガタガタガタ


大きな揺れが高瀬を襲う。


後に『越前中後大震災』と呼ばれた巨大な大地震がやってきたのだ。


ガラガラガラ
ガッシャーン


轟音とともに高瀬の一軒家が倒壊する。


『う……、ぐ……』


柱の間に挟まれて身動きどころかまともな声すら出すことが出来ない高瀬、周囲は人々の悲鳴やその他の喧騒でその助けはまったく届かない。


その時であった。


ギーコ、ギーコ

ギーコ、ギーコ


下手糞なバイオリンが崩れた家の床下から響いてきた。


もちろん弾いているのはあの『バイオリンの妖精』なのであるが、少しは上達したはずなのにその音色は以前にも増してひどいものになっていた。


「な、なんだ、この奇妙な音は?」


しかし、このひどい音色が功を奏した。


もし中途半端に上手な音色であったら周囲の音にかき消され誰も気付かなかったであろう。


「お、おい、人がいるぞ。まだ生きてる!」


その音元を捜索すると柱に挟まれた高瀬を発見、こうして何とか高瀬はその一命を取り留めた。


一ヵ月後


高瀬は自分の住んでいた場所へと戻ってきた。


「奴はどうなったんだろう……?」


既に瓦礫と化した上物は撤去され基礎の部分がむき出しとなったかつての住まい、ちょうど高瀬のアトリエのあった部分に一挺のバイオリンが残されていた。


かろうじて原形はとどめていたものの現は所々切れまともに演奏できる状態ではない。


「これじゃあ……まともな音色なんてでるわけないよな」


高瀬はそのバイオリンを拾い上げ大事そうにもって帰った。


その後、高瀬は新たな一軒家に引っ越して大学に通っている。


あの壊れたバイオリンは綺麗に修理して再び引けるような状態に戻したが、それを鳴らす妖精は二度と姿を現すことはなかった。


それでも高瀬はあのバイオリンを床下にしまい、たまに取り出してはメンテナンスを行っている。


いつあの妖精が現れてもバイオリンを奏でることが出来るようにと……。



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元ネタはもちろん『屋根の上のバイオリン弾き』です。


相変わらず原作の影も形も残っていません。

スーパーショートとは? ショートショートですらない超短文の事です。


領収書 2枚複写
¥105
100円ストアYAMANI


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題 『達筆』



銀座料亭女将 「あら、あなた数字書くの上手ね」


赤坂料亭女将 「ううん、4と9だけよ。最近書く機会が多くて」



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5万円以上の領収書は……



ダイヤモンド


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「山城警部、黒山氏から警備の依頼が届けられているのですが……」


なにやら戸惑った様子で報告してくる部下に事件の資料から山城は顔を上げた。


「どうしたんだ? 例の怪盗コパンの予告状の件だろう?」


「はい、それが……、黒山氏からの申し出で警備を行う警官は全て妻や彼女のいない独り者にしてくれないかと……」


「はぁ~、いったい何のつもりだ?」


「そういわれましても……、黒山氏が直々に電話をかけてこられて……」


「……わかった。俺が直接連絡をしてみる。こっちだって他の事件を抱えて手一杯なんだからな」


山城は部下にそう告げると受話器をとった。


先日、美術品専門窃盗犯コパン三世より黒山氏の所蔵する世界でも最大級のブラックダイヤモンド『ブレイクハート』を頂戴するとの予告状が届いた。当然警察は警備体制を敷くことになったのだが、その黒山氏から妙な条件を突きつけられたのだ。


「あ~、もしもし、警視庁の山城ですが……、あっ、黒山さん、例の警備の条件についてなんですが……」


『ああ、それですが……』


黒山との間で数分間、なにやら言葉にやり取りが行われ山城は受話器を置いた。


「おい、黒山氏の言うとおり、警備は独り者のものを集めろ」


「えっ!」


突然の態度の変化に目を丸くする部下。


「いいから言うとおりにしろ。それと全員に耳栓の支給を」


山城は部下にそう告げると携帯電話を手に誰もいない庁舎の屋上へと向かっていった。



そして、予告日当日、黒山邸に独り者の警官たちが集められ警備が行われた。


『け、警部、どうしてあいつらがここにいるんですか?』


げんなりとした様子の部下が小声で山城に訴える。


『わかってる。俺だって本来なら顔を合わせたくもないが今回ばかりは……』


山城がその問題の方に視線を送ると、それに気付いた彼らが山城のほうにやってきた。


「やあ、山城警部、君から連絡をもらえるなんて光栄だよ」


さわやかな笑顔でそう話しかけてきたのは高瀬隆一。


「そうね。とうとう山城さんも隆ちゃんの凄さがわかったのね」


目をキラキラと輝かせて隆一を見つめているのは渡瀬小夜。


「凄さだなんて……全て君がそばにいてくれたおかげだよ。小夜」


「ううん、あなたあのそばにいるのは私の運命。それもあなたの凄さの一つだわ」


「小夜……」


「隆ちゃん……」


山城を無視して抱き合う二人。


そうこの二人こそ百害あって一利なし、全人類の敵『バカップル探偵』なのである。


『警部、部下達の士気がどんどん下がっています』


『わかっている。だが今回だけは我慢してくれ』


苦虫を噛み潰したような声で山城が囁く。


そこへ盗難ケースに入ったブラックダイヤモンド『ブレイクハート』を持った黒山が姿を現した。


「どういうことですか警部! あれほど注意しておいたじゃないですか!」


黒山が隆一と小夜を指差し山城に抗議する。


「わかっていますよ、黒山さん。だからこそ彼らを連れてきたのです」


山城はそう黒山に告げるとダイヤに目を奪われている隆一と小夜のほうに視線を向けた。


「わぁ~、凄いダイヤね。きれい~」


目をキラキラさせてダイヤを見つめる小夜。


「ああ、確かに凄いな。でも小夜の美しさには敵わないけどな」


「やだ、隆ちゃん。でも私が輝いていられるのは隆ちゃんがそばにいるからだよ」


「ああ、小夜の美しさは眩しすぎて目を開けていられないくらいだよ」


「ダメ! 隆ちゃんの目にはいつでも私を映していて!」


「小夜……」


「隆ちゃん……」


凶悪な『バカップル光線』を撒き散らし抱き合う二人にまだ慣れていない黒山は思わず立ちくらみを起こした。


「な、なるほど……。確かに彼らにはこの『呪いのダイヤ』が必要かもしれないですな」


何とか立ち直った黒山がなるべく二人を見ないようにしながら山城に呟いた。


この世界最大級のブラックダイヤモンド『ブレイクハート』は呪われたダイヤモンドであった。


その経緯ははっきりしないが確かなのはこのダイヤモンドに関わったカップルは必ず破局を迎えるのである。その呪いの効果は絶大で、普通のカップルであれば見ただけで痴話げんかに至り、ましてや触れようものなら間違いなくは破局するというほど凄まじいものであった。


そう、山城がわざわざこの『バカップル探偵』を呼び寄せたのは、このダイヤの呪いで二人を破局させるためなのだ。


一見、幸せなカップルを破局させるなど横暴にも思えるが、事件のたびに現れて『バカップル光線』を浴びせられる警官たちはたまったものではない。中にはうつ病を発症し今も入院し続けている者もいるくらいなのだ。


「お、お嬢さん。よかったら身に付けてみるかね?」


黒山が何とか耐えながら小夜に声をかける。


「えっ! いいのかな?」


小夜は興奮しながら何故か黒山にではなく隆一に問いかける。


「ああ、いいんじゃないか。このダイヤならきっと君の美しさを数段引き立ててくれるだろう」


「うん、でも私を最も輝かせるのは隆ちゃんの愛の輝きだけよ」


「ああ、わかってるとも。二人の愛の輝きはたとえブラックホールでも消し去ることは出来ないよ」


「隆ちゃん……」


「小夜……」


またもや周囲を取り残し抱き合う二人。


だがその時あった。


パッ!


部屋の明かりが突如消えて、再び明かりがついたときにはブラックダイヤモンド『ブレイクハート』はケースの中から消え去っていた。


『はっはっは、予告どおりブレイクハートは頂いていくよ』


怪盗コパン三世が高々と宣言する。


「まっ、待て! それは小夜にこそふさわしいものだ」


理解不能な発言を残し隆一が信じられない速さでコパンに追いすがる。


「待って、隆ちゃん。私達はいつでも一緒よ」


まったく状況を無視した言葉を残し小夜もその後を追っていった。


黒山邸の屋根の上で対峙する怪盗コパンとバカップル探偵。


「いい加減にこんな泥棒行為は止めるんだ、コパン!」


隆一の説得をコパンが鼻で笑う。


「ふん、生憎、これが俺の生きがいでね」


「そんなさびしいことを言っちゃダメ!」


後から追いついた小夜が叫ぶ。


「この世でもっとも大切なのは『愛』よ。あなたも私の隆ちゃんのような最高で最愛のパートナーがきっといるはずだわ」


「そうだ、小夜こそ僕にとって最高のパートナー。彼女に比べればそんな宝石、道端の石ころと何の変わりない。愛こそ最高の宝石なんだ」


「隆ちゃん……」


「小夜……」


三度抱き合う二人に逃げることも忘れ、コパンは呆気にとられていた。


「さあ、そのダイヤを返すんだ」


小夜を胸に抱きしめたまま隆一が右手を差し出す。


すると、なんとコパンは『ブレイクハート』を隆一の方へ放り投げたのだ。


もちろん二人の愛に感動しコパンが改心したわけではない。


コパンはこのダイヤが『呪いのダイヤ』であることを知っており、全人類のためにも二人を破局させなければならないという使命感が彼の心に湧き上がったのだ。


もちろん隆一と小夜がそんな事に気付くわけがない。


「やったね、隆ちゃん。二人の愛の勝利よ」


「ああ、僕と小夜の愛の前にはどんな悪党も改心してしまうのさ」


「隆ちゃん……」


「小夜……」


またもや『バカップル光線』を撒き散らしながら抱き合う二人。


だが次の瞬間、呪いのダイヤ『ブレイクハート』から強烈な光が放たれた。


何度もスパークを撒き散らしながら瞬き続ける呪いのダイヤ。この瞬間、『ブレイクハートの呪い』と『バカップル光線』が激しい戦いを繰り広げているのだ。


バチバチバチ!


再び強烈な光が瞬き、そして……。


パキン!


呪いのダイヤ『ブレイクハート』ものの見事に砕け散った。


そう、幾多のカップルを破局へ導いた呪いのダイヤモンド『ブレイクハート』もこのバカップルの前にとうとう屈してしまったのだ。


こうして『ブレイクハート』は砕け散ってしまったものの『バカップル探偵』は警察が散々手を焼いていた『怪盗コパン三世』の犯罪を始めて防いだのである。


後日、警視庁宛に『ブレイクハート』の損害賠償の請求書が届いた。


「冗談じゃない! 請求ならあのアホ探偵にしてください!」


それを見た山城が黒山に抗議する。


「こっちこそ冗談じゃない。あの探偵を連れてきたのは警察だろう。それにわしはもうあいつらと関わるのはごめんだ!」


顔を赤くしたり青くしたりしながら黒山は訴え続けた。


肝心のダイヤを破壊しまわりに多大な迷惑を与える。


所詮『バカップル』は『バカップル』。彼らの存在は社会に害を与えることはあっても役に立つことなど欠片も無いのだ。


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ああ、再び書いてしまいました。


シリーズ化のつもりなどありませんが思いついてしまったものはしょうがない。


『バカップル探偵』についてもっと知りたい方はこちら をどうぞ。


新宿の夜の街角、マッチ売りの少女は道行く人を眺めていた。


「お譲ちゃん、マッチを全部売ってくれないか?」


この寒空の中、健気にマッチ売りをしているのを見かねて身なりのいい紳士が少女に声をかける。


少女が紳士の瞳をじっと見て首を横に振った。


「あなたにはこのマッチは必要ないから売れません」


「おやおや、気分を害してしまったのであれば申し訳ない」


たとえ少女とはいえそのプライドを傷つけてしまったと思ったのか紳士は素直に頭を下げた。


すると少女は再びゆっくりと首を横に振った。


「あなたのご好意には深く感謝いたします。しかしこのマッチは特別なマッチなのです。あなたのように人生を順調に歩んでおられる方には本当に必要のないものなんです」


少女は紳士に深々と頭を下げてその場から去っていった。


再び場所を変えて街頭に立つ少女。 そして彼女の目が一人の青年を捉えた。


「お兄さん、マッチはいかがですか?」


「はぁ~、いらないよそんなもの」


グッ


さっさと立ち去ろうとする青年の袖を少女がしっかりと掴む。


「お兄さん、あなたニートでしょ。自分の夢も希望もわからなくなって日々をただ生きているだけ」


「なっ!」


少女の力強い瞳が青年の反論を許さなかった。


「さあ、このマッチをお買いなさい」


差し出された小さなマッチ箱、青年は千円札一枚を少女に渡しそれを手に入れた。


マッチ箱の中には『赤・青』の二色のマッチ棒が入っていた。


ボッ!


青年が赤いマッチを擦る。


灯りの中に現れたのは青年の幼い頃の夢や思春期の希望、そのどれもが青年が眩しく輝いていたときであった。


やがて赤いマッチが無くなり青年は青いマッチを擦った。


ボッ!


すると今度現れたのは青年が歩んできたここまでの人生であった。


度重なる挫折と逃避、マッチの灯りの中に浮かぶ青年の瞳が徐々に光を失っていった。


客観的に映し出されたその姿は青年の心に深く突き刺さった。


「……これは?」


青のマッチが無くなった。


そして最後に一本だけ黄色いマッチがマッチ箱のそこに残されていた。


金鶴マッチ (6P)
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ボッ!


青年が最後の一本、黄色いマッチをする。


そこに映し出されたのはのは一日の仕事を終えて満足げに帰宅するやや成長した青年の姿であった。


優しい妻やかわいい子供たちに出迎えられ自然な笑みが青年の顔に浮かんでいた。


「……俺にもこんな顔で過ごす日が来るのだろうか……?」


青年が空になったマッチ箱に燃え尽きた黄色のマッチを戻しポケットへねじ込んだ。


その日、青年は何年ぶりかに『アルバイト情報誌』ではなく『就職情報誌』を買って家に帰った。



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さしずめ『幸せの黄色いマッチ』といったところでしょうか?




◆本場土佐◆火造り鉈『極上』青紙鋼【先刃型】枝打斧500g
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木こりはたった一本の斧を池に落としてしまいました。


すると池から三本の斧を持った女神が現れて、木こりにこう言いました。


『あなたの落とした物はこの金の斧ですか?


それともこの銀の斧ですか?


それとも私の可愛いペットのロードン(錦鯉)を惨殺したこの鉄の斧ですか?』


女神の瞳には復讐の炎が燃えていました。



(こいつは不味いな……)


女神の瞳に生死の境目を感じた木こりは少ない脳みそをフル回転させる。


(待てよ! これだけ怒っているということはこの女神は感情の形態が人間に近いのかもしれない。ならばそれを利用して……)


木こりは女神の前で頭を地面にこすり付けるように深々と下げた。


「申し訳ありません。その鉄の斧は確かに私のです。あなたの怒りはもっともです。どうぞ存分に私を罰してください。しかし一つだけお願いがあります」


「願いだと?」


女神が怪訝そうに男を見る。


「はい、一週間、いえ、三日でけっこうですから私に時間を与えていただけないでしょうか? はい、もちろん逃げたりはいたしません。ただ、生命保険をかけるお時間を与えてくださいませんでしょうか?」


「生命保険ですって?」


意外な申し出に女神の瞳が怒りが薄らぐ。


「はい、ご存知とは思いますが現在、輸入木材に圧されて木こりの商売は厳しい状況です。家族の生活費のため借金をしたのですが、何の保証もない木こりという商売をしている私に普通の金融機関はお金を貸してくれません。仕方なく高利貸しに借りたのですが……」


木こりの目にうっすらと涙が浮かぶ。


「私の命はどうなってもかまいませんが、せめて残された家族に借金を残すようなことはしたくはないのです。生命保険は自殺では保険金が下りませんが、女神様に処罰されたとあれば保険金も下りるでしょう。せめて私の亡き後、妻や子に不自由な生活はさせたくないのです」


木こりが涙ながらに語る。


確かに木こりには借金があった。しかしそれは自らの博打で作ったものであり生活費などではない。


元々、この泉の周辺にある木々は女神が統治しているだけあって質も良く高値安定で取引されており、普通に生活する分にはなんら問題のない稼ぎを生み出すのには十分なのだ。


「そうですか……」


さすがの女神もこう来られては木こりを処罰する気にはなれなくなった。しかしロードンは彼女のかけがいの無いペットでありそれを失った怒りと悲しみはけして消えることは無い。


「……わかりました」


女神が静かに肯く。


(やった! これで助かった!)


木こりが心の中でガッツポーズをとる……が、続いてでてきた女神の言葉に男は顔色を青くした。


「それではまずその高利貸しの店に私を案内なさい」


「へっ?」


「あなたが安心して罰を受けれるよう、私がその借金をなんとかいたしましょう」


「あ、いや、その……」


木こりは焦った。 し女神が高利貸しと会い、借金が博打によるものだとばれれば今度こそ間違いなく木こりの命は無いだろう。


「案内なさい!」


女神の顔は本気であった。


木こりはその気迫に圧され、女神を高利貸しの店に案内することとなった。


「ちょっと待っていてください。話を通してきます」


高利貸しの店の前で木こりは女神を待たせ先に中へ入っていった。 それはもちろん高利貸しと口裏を合わせるためである。


しばらくして女神が高利貸しの店に通される。


「これはこれは女神様。この男の借金をお返しいただけるそうで」


高利貸しはもみ手で女神を出迎える。彼にしてみれば男だろうが女神だろうが金を返してくれるならばどうでもいい事なのだ。


「借用書を見せなさい!」


女神が高利貸しの前に右手を差し出す。


「はい、少々御お待ちください」


木こりの借用書が女神に手渡され、女神がそれをじっくりと確認する。


そしてその美しい眦を吊り上げて高利貸しを一喝した。


「なんですかこの金利は! こんな高金利馬鹿げています」


「いや、しかし……、そういう約束で金を貸したわけですから……」


女神の迫力にたじろぐ高利貸し。


「しかしも何もありません。今まで返した金利の分で普通なら返済は終っているはずです。よってこの借用書はもう無効です」


ビリッ!


女神は借用書を破り捨てた。


「ちょっ、ちょっと待ってください。いくら女神様とはいえそれは横暴すぎやしませんか?」


体格のいいチンピラが女神を取り囲む。


「こっちも商売なんでね。勝手されちゃあ困るんですよ」


高利貸しの言葉にチンピラたちが殺気を放つ。


しかし、この危機的状況に女神の顔には不敵な笑みが浮かんでいた。


「ふっ、随分この私も舐められたものね」


パチンッ!


女神が軽く指をはじく。


次の瞬間、チンピラたちの絶叫が店の中に響き渡った。


人間では不可能な、神族だからこそ可能な最悪の拷問、それはあまりにも凄惨すぎてここで表現するのは躊躇われるほどのものであった。


こうして木こりの借金はなくなったのだが、その顔に喜びは無かった。


(まずいまずいまずい、もし博打のことがばれたら……)


あの凄惨な現場が男の脳裏に甦る。


「さて、あなたの処分ですが……」


泉に戻ってきた女神が木こりの目を見据える。


「本来であればあなたにも厳罰を処すところですが、久しぶりに泉を出て私も少々疲れてしまいました。また、あなたにも大切な家族があるようですから今回は不問にいたします。これからもしっかり働いて家族を大切になさい。私はそれをずっと監視(み)ていますよ」


「は、はい……」


もう二度と大好きな博打が出来なくなりがっくりと首をうな垂れて木こりはすごすごと帰っていった。


やがて泉から木こりの姿が完全に見えなくなると女神は汀で横たわっていたロードンを泉の中へと戻した。


パシャ、パシャ


まるで何事も無かったかのように元気に泳ぎだすロードン。


「まったく単純ね。この女神の飼っているペットが斧にぶつかったぐらいで死ぬわけ無いじゃない」


くすくすとおかしそうに笑う女神。


するとそこへ一人の女が姿を現した。


「女神様、お見事でした」


深々と頭を下げる女。


実はこの女、あの木こりの妻である。


「これであの人の博打狂いも直るでしょう。本当にありがとうございました」


「気にしなくていいわよ。あの男は腕のいい一流の木こり。真面目にさえ働けばもっとこの森を良くしてくれるでしょう。森あっての泉、あの男が立ち直ることは私のためにもなるのだから」


「はい、これでこの森も私達家族もきっと幸せになれます」


「ええ、もしまたあの男が道を踏み外しそうになったら報告しなさい。きついお仕置きをすえてあげるから」


「はい、ありがとうございます」


女は女神の大好きなシュークリームをお礼に残し、しょげた夫の下へと帰っていった。


真っ赤な夕日が泉の水面に映りこむ。


いつもより少しだけ慌しかった泉に静かな夜の帳が下りようとしていた……。



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このお話は若端さんの木こり救出作戦 を受けて書き上げたものです。


お題を頂いた若端さんに感謝です。