新宿に行ってふいと立ち寄るのがコニカミノルタプラザ
であるとすれば、
銀座・京橋界隈に出向いたときに覗いてみるのがLIXILギャラリー
でありまして、
折しも「タイルが伝える物語」展が開催中、もちろん立ち寄らせてもらったのでありますよ。
入口に飾られたこの3点を見て、早速に「タイル、侮りがたし!」の印象が。
いちばん左側は上のフライヤーでご覧いただく方が分かりやすいですが、
20枚のタイルを組み合わせて出来上がったタイル組絵で、
お隣の2枚はいずれも陶板画であると。
組絵でも大したなものですけれど、陶板画というものの滑らかさは
筆跡も残さないことを良しとした時代の絵の再現性としては実に見事でありますね。
紙(版画)に比べると、各段につややかさがありましょうし。
そうした点で考えると、大塚国際美術館のような存在にも価値があるてなことになりましょうか。
「要するにレプリカでしょ」とは思うものの、下手な画集の印刷で見るよりいいかもと改めて。
ただ、近現代作品の再現がどうなっているのかは、むしろびくびくものだったりしますが。
と、話をタイルに戻しますが、
展示解説に曰くタイルは「装飾のみならず、メッセージを伝える役割」を担っていたそうな。
例えば、17~18世紀のオランダ
では聖書
の一場面を描いたタイルが室内装飾に使われ、
「家庭における宗教教育の一助」とされていたと言います。
小さくて見にくいとは思いますが、
例えばいちばん左下は「ソドムを訪れたふたりの神の使いとロト」(創世記第19章)の場面。
神の意志によってソドムが焼き尽くされることを知ったロトは妻と娘を連れて町を離れますが、
町を振り返り見てはいけないとの禁を破った妻は塩の柱と化してしまう…と続く
話の糸口が描かれていますので、これを見ながら家庭で聖書の話を語って聞かせるきっかけに
なったことでしょう。
また、宗教教育ほどではないにせよ、家庭でのしつけの材料ともされていたようなのですね。
見たところ、子供の遊びを並べたものとしか思われないところでして、
フランドルの画家ピーテル・ブリューゲルが子供の遊びを網羅的に描いた作品を残しているように
伝統的に取り上げられる画題でもあろうかと思うところですが、どうも意味合いはそればかりではない。
これまた例えばですが、上の写真に何点か見られる「輪回し」の図像には
「輪が倒れないようにひたすら回す様子から、自分自身を良い行いに駆り立てなさい」
とのメッセージが込められているのだとか。
「ほぉ~」でありますね。
一方、装飾という点では英国では風景画に人気があって、
カナレットなどはわざわざロンドンに出張してヴェドゥータを売り捌いたりしたようですが、
さきほども触れたように陶板画は再現性も高い上に「油彩のように色あせたり、ひびが入ることもない」、
また複数制作が可能ですから安価で入手できることもあって、好まれていたといいます。
ちなみに「picturesque」という言葉がありまして「絵のような」といった意味ですけれど、
「ピクチャレスクな景観」てな言い方に使われようかと。
で、「絵のような景色」というのがどうも(個人的に?)馴染みがたく、
素晴らしい景色を描いた絵というのはあるとして、素晴らしい絵で見たような景色だなとは
景観の褒め言葉としてはあまりピンとこないでいたわけです。
ところが、多くの人が素晴らしい景観というのをそう簡単に目の当たりにすることができず、
その穴埋め的に風景画で素晴らしい景色を眺めるということが先にあり、
たまたまその後に素敵な景色を眺める機会を得ると
「ああ、まるであの素晴らしい風景画のような景色だな」と、こういう感想が生まれるわけですね。
だから「絵のような」と絵が先にある言葉がある…とは、「ノルマンディー」展
の講演会での受け売りですが…。
ところで、展示は西洋から中国
やイスラム世界のものに及んでおりまして、
中国でもまた教訓を伝えるような例が見られることが示されていたのですね。
どうも見た目はタイルというより煉瓦っぽいですが、
これは何でも「二十四孝」を表している宋代のものということ。
Wikipediaによりますと「二十四孝」は元代に郭居敬が編纂した書物とあり、
このタイルは元より前の宋の時代で、あらら?ですけれど、
書物にまとめられる以前にも二十四人の孝行者の話はすでに伝わっていたのでしょう、たぶん。
さて、最後はイスラム世界のコーナーとなりますが、
中国の素朴な煉瓦とは打って変わって装飾的な作品が展示されていました。
ササン朝ペルシア時代に題材をとった「ホスローとシーリーン」という長編ロマンス叙事詩、
そこからの一場面が描かれた組絵タイルですけれど、イスラムと言えば偶像崇拝禁止であることから
アラベスクと言われる幾何学模様や唐草模様、あるいは文字デザインで装飾されるものかと思えば、
これは宗教施設での話であるそうな。
宮殿の世俗的な施設では人物も動物も描かれたそうなのですよ。
ここでもちなみにですが、中央に描かれたササン朝ペルシャの王ホスロー2世は
人差し指を口にあてがった姿になっていますですね。
美女との呼び声高いシーリーンの水浴シーン(左下に描かれてます)を垣間見てしまい、
「あまりの美しさに唖然として魅せられ」てしまった…その状態を示すしぐさというのが、
指を口にあてることなのだとか。
ところ変われば、しぐさの意味も変わるということなのですなぁ。
てな具合に、これまた結構面白く見ることのできた「タイルが伝える物語」展なのでありました。