さていよいよもってハンブルクを歩き廻る段になりました。
ハンブルクでもあれやこれやと出向きたいところがありますから、
シュヴェリンの「Schwerin Ticket
」、リューベックの「Happy Day Card
」に類する
ツーリスト用のパスがあれば有効活用できるはず。
ハンブルクにも当然に「Hamburg Card」なるものがあるわけですけれど、
実はこれを使うことはなかった。何となれば、
ホテルでチェックイン時に市内近郊の交通機関乗り放題のカードをもらえたからなのですね。
これでリューベック やリューネブルク より遥かに大きな町を動き回る足が確保されたわけです。
街歩きをするときはそれはそれで歩きますけれど、
なまじ広いだけに効率的に廻ることも考えておきませんとね。
10日間も旅していると、それこそくったくたになってしまいますから。
チェックインしたときにはハンブルク中央駅からえっちらおっちら歩いて辿りついたホテルですが、
落ち着いて市街図をよく見ればUバーン(地下鉄)のStephansplatz(シュテファン広場)という駅が
最寄りにあるではないか…と気付いてからはもっぱらそこを利用しておりましたですよ。
で、このハンブルク歩き初日の朝もまずはUバーンに乗って
中央駅近くにある「Museum für Kunst und Gewerbe Hamburg」(MK&G)に向かったのでありました。
「Kunst und Gewerge」とは美術工芸と考えてほぼ差し支えないと思いますので、
まあロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館をいささか小粒にしたようなところと
想像すればよろしいかと。
で、そうだと言うことになると、好みの点で工芸品よりファイン・アートを優先してしまう者としては
予めのプライオリティーではやや後回しということに。
ですが、どうやらアンディ・ウォーホルのポスター展を開催中と知り、
それなら行ってみるかと(現金にも)思ったわけです。
だいたいウォーホルのポスターをしてファイン・アートと言うかどうかはともかくも、
いざ出向いてみれば実はそれ以上の見ものがあったのでありまして、
つくづく後回しにしなくて良かったなぁと思いましたですね。
とまれ、ぞろぞろと人がやってこないうちにと(結果、全くぞろぞろてなことはありませんでしたが)
そそくさと向かったのはウォーホル・ポスター展の展示室でありました。
解説に曰く(幸いにして英語だったもので)、ヨーロッパに比べアメリカには
ポスターの展覧会を開くという伝統が存在しなかったそうでありまして、
これが変化の兆しを見せたのが1960年代初めであったと。
当然にウォーホルの存在を意識させる年代ではありませんか。
とはいえ、やはりポスター芸術を愛でる伝統はヨーロッパに一日の長があり、
ウォーホルは取り分けドイツとの深い関わりを持っていたのだとか。
ウォーホル生存中の展覧会も相当数開催されたといいます。
それだからか、ドイツのイメージをモチーフとする作品もまま見られ、
マリリン・モンローやエリザベス・テイラーよろしく色調を変えて幾人も並ぶゲーテがいたり、
その他にフリードリヒ大王やノイシュヴァンシュタイン城、ケルン大聖堂なども
題材として取り上げられていましたですね。
ウォーホルと言えば「アメリカン・ポップ・アート 」の代表者であって、
キャンベルスープ缶やハリウッド・スターのイメージが強いだけに
それとは違うモチーフのものを見るのも面白いものでありますね。
(キャンベルとハリウッド・スターも会場にはありましたが)
ところで、そんなポスターに対するウォーホルの思いが集約していると思しき言葉を
会場で見かけましたので、英文のまま、持って来てみましょう。
If you want to know all about Andy Warhol, just look at the surface of my paintings and films and me, and there I am. There's nothing behind it. Andy Warhol
これは、1968年ストックホルムで開催された自作展の
告知をするために作られたポスターにあった文章。
というより、このポスターはこの文章の文字だけで構成されていたのですけれど、
それだけに作品=ウォーホルそのものとの意識が強く現れている気がしたものでありますよ。
と、MK&Gでウォーホル展以上の見ものであったという展示の方ですが、
題して「Krieg & Propaganga 14/18」というものありました。
「Krieg」は「戦争」の意でありますので、「戦争とプロパガンダ」展。
こうしたタイトルからすると、ついつい思い浮かべるのはナチス ということになりますが、
ここでは「14/18」(1914~1918)とあるように、第一次世界大戦の方を取り上げていました。
展示では、のっけから第一次世界大戦をして
「the 1st global mass-media event of modern times」と呼び、
プロパガンダが「新兵器」であったとしています。
その新兵器の種類たるや、ポスター、ラジオ、映画などなど実に複合的な媒体使用が
そこでは行われていたわけですね。
それらの一端としてのポスターを見、音声を聴き、映像を眺めやって、これでもかというほどに
展示しているのでありますよ。
もちろん、ドイツの側のものばかりでなく、イギリスもフランスもアメリカも
こぞって「新兵器」を活用していたのですね。
意図するところとしては、上の画像のように志願兵を募るものであったり、
自らの国威を発揚するものであったり、敵国を貶めるものであったり、
戦時国債の購入を促すものであったり。
今でこそ性質が悪いと思われるのは、
子供向けの絵本、おもちゃ、ゲームの類いにもこうした要素が色濃く反映されいることでしょうか。
こうした展示を冷静に見て、何を考えるか。
とんでもないことをやっていたなと思う一方で、
「やっていた」と過去形で語るのは必ずしも適切ではないのだろうと。
今も世界のあちらこちらで、
自分の側がいかに正しく、対する側がいかに悪逆非道であり…といったことが喧伝されており、
そうした考え方は子供たちへの教育にも容赦なく入り込んでいる状況がありましょう。
思いがけずも深いこと?を考えてしまう展示だったわけですが、
ハンブルク版V&Aで見られる展示の数々はこんなものではない。
さまざまな工芸品(日本の刀などもある)やら古い楽器やら、
じっくり見ようと思えばたっぷり1日掛けてもいいですね、きっと。
ではありますが、ハンブルクで「絶対にここは外せない!」というところが
お次に控えておりますので、残念ながらこの辺で…。