イオンがプロクシーファイトに勝利、CFS総会でアインとの経営統合を否決 | IR担当者のつぶやき

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上場企業に勤務する公認会計士の、IR担当者として、また、一個人投資家としての私的な「つぶやき」です。

ときどきIR担当者的株式投資の視点も。

1/22に開催されたCFSコーポレーションの臨時株主総会で、アインファーマシーズの経営統合案が否決される結果となりました。


ドラッグストア大手のCFS(東証1部・8229)と調剤薬局大手アイン(JASDAQ・9627)の経営統合案は、2007.10.5に発表されています。


■CFSコーポレーション 株式会社アインファーマシーズとの株式移転による経営統合の基本合意に関するお知らせ

 http://www.cfs-corp.jp/corp/topics/pdf/news071005.pdf


たてつけとしては、株式移転によりCFSとアインがぶら下がる形で両社の完全親会社(CFSアインホールディングス・仮称)を設立するというもの。


上記の文章によるリリースよりは、こちらのパワーポイント資料のほうが分かりやすいです。


■経営統合について

 http://www.cfs-corp.jp/corp/topics/pdf/press071005.pdf


経営統合の趣旨としては、ドラッグストアと調剤薬局それぞれに強みを持つ両社が統合することによって、ドラッグストア業界において、医療用およびOTCを含む医薬品等の売上高国内第1位、総売上高においても第2位の規模をめざす(首位マツモトキヨシ3,455億円、両社の単純合算で2,398億円)というものでした。


※OTC医薬品=いわゆる「大衆薬」。2007年5月に日本大衆薬工業協会で「OTC医薬品」の名称を使っていくことが決議されました。OTCは、Over the Counterの略で、薬局のカウンター越しに買える医薬品を意味します。)


病院門前の大型調剤専門薬局とドラッグストア併設型調剤薬局の二つのタイプを持ち、立地に応じて使い分けられる、との上記リリース文での説明は、それなりに説得力があるような気がしました。


株式移転比率は、CFS1株につき新会社株0.3株、アイン1株につき新会社株1.25株、というもの。


ところが、この統合案にCFSの筆頭株主であるイオンが即座に反対表明をしました。

当時の新聞記事によると、①(CFSの2007年2月期は赤字であったため)これから業績の回復が期待されるといっても、株式移転比率の算定上不利な時期であること、②CFSの説明が不十分であること、などを挙げていました。


少し後になりますが、11月中旬に発表されているイオンの反対意見は、分かりやすいリリースです。


■イオン CFSコーポレーションの統合議案に対する反対の意向表明について

 http://www.aeon.info/ICSFiles/afieldfile/2007/11/16/1_hpcfs.pdf


イオンのリリースでは、イオンが(2000年にCFSと資本・業務提携して15%出資の筆頭株主になった後、)CFS経営陣に対して、イオンのウエルシアやトップバリュなどのブランド等を有効活用して、早期の企業価値向上を図るように勧めてきたにも関わらず、CFS経営陣はイオンの経営資源を活用せずに業績の悪化を招き、株価が低迷した(あげくにCFS株主にとって不利な株式移転比率を決めた)と糾弾するかのように、厳しい指摘をしています。


(このあたりは、CFSが2004年に提携の解消を発表、2006年に解消の撤回を発表するなど、”駄々っ子”のCFSを快く思っていなかったのかなぁと感じられます。)


極めつきは、こちらのパワーポイント。


■イオン 反対意向表明の添付資料

 http://www.aeon.info/ICSFiles/afieldfile/2007/11/16/2_071116siryou.pdf


いざというときに参考にしたい秀逸の出来だと思います。

例えば、(ページ番号はPDFファイルでの連番)


P.2 はじめに・・・最初に結論を明瞭に見せている(しかも、株式移転比率から計算されるCFS株式の価値500円に対して、800円の価値はあるビックリマーク とインパクトのある数字を挙げている)こと

ただし、どのような株価評価をしたら800円になるのか、については具体的なプロセスはわかりませんが・・・。


P.3 株価チャートを示して、最悪のタイミングでの統合発表だと一目瞭然にしていること


P.6 ライバル企業との比較を通して、CFSの業績を立て直すことが緊急の課題だとスッキリ見せていること


P.10 CFSのドラッグストア事業がマイナス成長なのに対して、イオンのウエルシアはプラス成長だ、CFSのスーパーマーケット事業がマイナス成長なのに、イオンのトップバリュはプラス成長だ、と比較対照していること


P.11 CFSとウエルシアを合算した売上高(調剤を除く)が1,000億円を突破し、トップのマツモトキヨシをはるかにしのげることをグラフで明瞭に示していること etc・・・。


さすが・・・というか、脱帽ものです。

臨時株主総会のもようがどうだったかは分かりませんが、こんな資料を見せられながら、イオンの岡田社長に熱弁振るわれたら、グラッとくるんじゃないでしょうか。


資料とはいえ、IRがバチッとはまったときの説得力の強さを実感させられます。

こういう資料が作れるようになりたいなぁ・・・。

まだまだ努力と工夫が足りないと、反省しきりですあせる



さて、一方のCFS。

12/13にイオンの提案に反対するリリース、資料類をとりそろえて、臨時株主総会の招集を断行します。

今度は、CFSもなかなかの資料を作ってきていますし、イオンのプランに薬剤師の確保策がないといった、もっともな点をつくなど、その業界を熟知した反論を用意してきました。


■CFS

イオンからの提案に関する検討結果等のお知らせ

 http://www.cfs-corp.jp/corp/topics/pdf/press071213_4.pdf

アインファーマシーズとの経営統合のメリットとイオンからの提案に対する検討結果

 http://www.cfs-corp.jp/corp/topics/pdf/press071213_3.pdf

記者会見発表資料

 http://www.cfs-corp.jp/corp/topics/pdf/press071213_6.pdf

アナリスト説明会資料

 http://www.cfs-corp.jp/corp/topics/pdf/press071213_7.pdf


臨時株主総会招集および議案決定に関するお知らせ

 http://www.cfs-corp.jp/corp/topics/pdf/press071213_2.pdf


対するイオン。


臨時総会の招集を受けて、矛先を委任状争奪戦に切り替えます(12/17)。


■(株)CFSコーポレーションの臨時株主総会に向けた委任状勧誘の開始について

 http://www.aeon.info/ICSFiles/afieldfile/2007/12/17/071217R.pdf



CFSも2008年に入ってから、ISSやグラス・ルイスなど、機関投資家に対する議決権行使助言会社の大手の賛同意見をとりつけるなど、かなり頑張りました。

しかし、1/22の臨時総会では、CFSとアインの統合に対する反対票は42.87%にものぼったそうです。


これにより、株主総会の特別決議を得ることができず、統合案は否決されたというわけです。



こうした経緯をリリースの応酬を確認しながら見てくると、以前、IRのセミナーで高名な武井一浩弁護士がおっしゃっていた

「IR部門は選挙対策本部だ!!」 

という言葉が思い出されます。


■東京IRセミナー「株主との関係構築とIR」

 http://ameblo.jp/ir-man/entry-10051640131.html



私も、新聞記事等では随時追いかけていましたが、改めて通してCFS、イオン両社のリリースを読んできましたが、こりゃぁ難しいですあせる

読めば読むほど、どっちの言うことも採用したくなります^^;


CFSが指摘しているように、イオンの資料はなぜ800円なのか、また、これについての第三者評価をしたのかどうか不明ですし、シナジー効果の算出についても具体性ではCFSの資料には負けているようにも思えます。


にも関わらず、なぜCFSの主張が通らずに、イオンに負けてしまったのか!?


わかりやすさ?(小泉元首相のようなワンフレーズ・ポリティクス?)

資料のインパクト?


いやいや、難しいことを考えるより、私も直感的に考えると、そりゃぁイオンについて売上をどんどん伸ばしたほうが得なんじゃないの?という素直な考えがでてきました。


多くの個人株主にとっては、やっぱり売上規模や認知度でイオンの勝ち、ということだったのかなぁ・・・。



だとすると、これは恐いことですよ。


仮に、自分の会社が、同一業界(異業種でもいいですが・・・)の圧倒的な巨人企業から経営統合などを提案されたとしましょう。

こちらはイヤだと思ってあれこれ工夫してIR資料作ったり、取引先を廻ったりしたとしても、多くの個人株主がやっぱり売上の大きいほうにつけビックリマークとばかりに、そちらに票を入れてしまったら・・・叫び


(この時点で、組織人として会社のIR担当者のロジックと、もし自分が個人株主だったらというロジックが相容れなくなってますね・・・。)



個人株主をうまく味方につけた、という面がイオンにあるとすれば、かの有名な東京鋼鐵の件で投資ファンドの「いちごアセットマネジメント」がプロクシーファイト(委任状争奪戦)で勝利したのと共通項があるといえます。


■いちごの乱 本当に個人株主は勝利したのか?

 http://ameblo.jp/ir-man/entry-10026374450.html



総会後のイオンのコメントにあるように、負けたほうの社長は進退も考えよ、なんて言われると困ってしまいますよね。

いさぎよく勝ったほうののプランを受け入れるか、それとも、突っ張りを続けてTOBでもかけられるか・・・(イオンの岡田社長は、今のところTOBは考えていないとしているようですが)。


プロクシーファイトをするときには、もしも負けた場合の上手な後始末も考えて、いくさをしないといけないのでしょうね。





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