東京IRセミナー「株主との関係構築とIR」 | IR担当者のつぶやき

IR担当者のつぶやき

上場企業に勤務する公認会計士の、IR担当者として、また、一個人投資家としての私的な「つぶやき」です。

ときどきIR担当者的株式投資の視点も。

10/18、日本IR協議会主催の東京IRセミナー「株主との関係構築とIR」に出席してきました。


今日の講演は、


① 「07年株主総会における議決権行使と今後の展望」

 企業年金連合会 年金運用部 株式グループリーダー チーフ・ファンドマネジャー 山本 卓 氏


② 「ブルドックソースの事例が企業経営・IRに与える影響」

 西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士 武井 一浩 氏


③ Q&Aとパネルディスカッション

 山本氏、武井氏、佐藤 淑子さん(日本IR協議会 首席研究員)


という内容です。



まず、企業年金連合会の山本氏は、2007年6月総会に向けて120社以上の企業の訪問を受けた話を交えながら、株主としての立場から、買収防衛策に対する議決権行使基準や買収防衛策に対する関心の対象、企業に対する説明責任などについて、お話しされました。


・買収防衛策に対する議決権行使基準


企業年金連合会の買収防衛策に対する議決権行使基準は、以下のようになっています。


■企業買収防衛策に対する株主議決権行使基準

 http://www.pfa.or.jp/top/jigyou/pdf/gov_20050428.pdf


① 導入が長期的な株主価値の向上に資するものであることについての十分な説明があること。
② 株主総会の承認を得ること。
③ 有事における防衛策の発動、解除及び維持について、当該企業と利害関係を一切有しない社外取締役等によるチェックが行われること。

 または、防衛策の発動、解除及び維持の具体的な条件が明確に定められており、経営者の恣意的な判断で決定される余地がないこと。
④ 期間を限定したものであること(2~3 年)。更新する場合には、改めて株主総会の承認を求めること。

 (こういうのをサンセット条項というようです。)


これらの条件を満たす平時の買収防衛策については、賛成するとなっています。


山本氏は、連合会=株主としての立場から、どのような点について関心を寄せているかというと、


導入の目的

第三者委員会の構成

株式の持合い


を挙げていました。

特に、第三者委員会というのが流行りですが、これについては、株主の信認を得た社外取締役・社外監査役のほうが、単に社外で有識者、というよりはベターである

しかも、社外監査役は、やはり適法性の監査が中心となることから、社外取締役による第三者委員会がベターであるという考え方のようです。


最近多くなってきているという株式持合いの動きについては、海外投資家も日本企業が10~20年前に戻ってしまうのではないか、と懸念している、と釘を刺しつつ、次の点について十分な説明をしてもらいたいとしていました。

つまり、資産効率の低下をもたらすにも関わらず、株式の持合いをすることによって、長期的な株主価値の増大に如何に役立つのかという経営の規律が重要だと強調されていました。


なお、買収防衛策に関して株主の承認を得る必要があるとの考えのですが、導入時が望ましいか、発動時が望ましいかについては、株主にとって予見可能性があるため、導入時において株主の承認を得ておくほうが望ましいということです。


・社外取締役について


経営者側の説明として、「社外取締役を選任しても、まったく業績向上には役立たない」という主張があるようです。

しかし、ガバナンスをよくすることを通じて、アカウンタビリティの向上(説明責任をよりよく果たすこと)によって、リスクプレミアムを下げ、株価上昇につなげていくことができれば、望ましいのではないか、というスタンスをとっています。


つまり、社外取締役の導入に対して業績をタテにして渋っている企業さんは、最初から、意識がズレているということになるのでしょう。


・株主提案への対応、とくに厚い内部留保に関して

ファンドなどから株主提案があった場合、原則としては、株主価値の最大化の観点から個別に判断するとしています。

内部留保に関しては、基本的には内部情報を持ち、かつ、プロフェッショナルに経営を行っている経営者の判断を尊重するが、余りにも厚い内部留保を保持している会社に対しては、そのような財務的なバッファを有することが望ましい、ということを十分に説明していただく必要がある、と強調されていました。


とくに、内部留保に対しては、借入金の利率よりも高い株主資本コスト(6~8%程度)がかかっており、それは厚い内部留保を保有していることの保険料とも考えられ、それだけ払っても将来の業績のブレに対応することが正当化されるなど、会社なりの考え方を説明できる必要がある、ということを訴えておられました。


・企業年金連合会の議決権行使基準について


■企業年金連合会 コーポレートガバナンス原則

 http://www.pfa.or.jp/top/jigyou/pdf/gensoku_20070228.pdf

 

(連合会のHPには「議決権行使基準」と題する書類もアップされていますが、セミナーのレジュメで用いられていたのはこちらの内容です。日付も新しいです。)


このコーポレートガバナンス原則のなかで、議決権行使の基準としてROE8%という数値が出てきます。

具体的には、


「過去3期連続してROEが8%を下回る企業については、その原因や対応策を含め、事業計画や資本政策等について納得のいく説明が得られない場合、再任候補者に肯定的な判断はできない。」


となっています。

山本氏はこの8%という基準について、低すぎる、高すぎる、両方の意見があるとしながらも、なぜ企業年金連合会として8%に設定したかというお話をされていました。


リスクフリーレート 2% + 株式のリスクプレミアム 6% = 8%


と考えているとのことです。

そして、過去25年間のデータ(野村金融経済研究所作成)を示しながら、長期的に見れば、企業のROE平均は5.1%であり、株式のリターンは年率平均5.1%であったということで、ROEと株式投資のリターンは相当程度、相関関係があるといえるとの解釈を説明されました。


そうしたところから、連合会としては8%で満足というわけではなく(実際、先のコーポレートガバナンス原則ではROE10%以上が望ましいとも言っています)、もっと高めていってもらいたいし、企業の計数の作りかたや、金利動向によっても変わってくるだろうけれども、当面、企業にはROE8%を目標として求めて行きたいとの考えを示されました。


山本氏のお話で印象に残ったのは、現在、約13.5兆円の年金を運用しているなかで、国内&海外の株式&債券の4種類に対して、どのようなアセットミックスを形成するかに関して、グローバルに考えれば、日本株式にかなりオーバーウェイトになっている、ということです(これをホームカントリー・バイアスというのだそうです)。


つまり、日本株の時価総額は、世界的にみて10%程度なのに、アセットミックス上は日本株に半分かそれ以上の資金を振り向けているとのことですが、外国企業などは日本企業よりもぐっと高いROEであったりするわけで、日本企業がこのままROEを高める努力を怠り続けるとすれば、連合会としてもこのまま日本企業に投資し続けてよいものかどうか考えざるを得ない、ということでした。


うーん、グローバルに考えてしまうと、確かにそうなのかもしれません。

われわれIR担当者なんて、自社の株価をどう上げようとか、そんなミクロな視点で通常動き回っていますが、10兆円以上もおカネを預っていると、いかにリスクを避けるか、ということが重要になってくるのでしょう。




次に、有名な武井弁護士のお話。


武井氏は、ブルドック事件の詳しい状況や地裁・高裁・最高裁の判旨を説明しながら、ブルドック事件が今後に影響しそうな論点について、非常にクリアに解説してくれました。


時系列に従って、スティール・パートナーズとブルドックソースがどんな応酬をしたか、詳細に解説いただきましたが、これについては、他の文献やHPなどにおまかせしたいと思います。


ブルドック事件から生じる論点として、以下のような点が挙げられていました。


① 有事の株主意思として「株主総会特別決議」が必要か。

② 有事の発動時には、買収者への金銭補償が必要なのか。

③ どんな買収者が「濫用的買収者」なのか。

④ 買収防衛策は平時から入れておくべきか。

⑤ 買収防衛策を入れた場合、どんな点に留意すべきか。


・株主総会の特別決議について


法律的に株主総会の特別決議でなければいけない、ということはないとのことです。

 この点については、後のパネルディスカッションでも、企業年金連合会の山本氏は、株主の立場からすると予見可能性を確保するためにも、「導入」時に、株主の過半数の賛成はとっておいてほしい、と強調されていました。

 また、定款に株主総会の特別決議を要する、と書かれてしまうと、買収防衛策を導入したときの取締役については賛成だったが、将来、取締役が変わったときに防衛策を廃止してもらいたいとして、また3分の2の特別決議を必要とするというのは、かえって問題があるかも、という指摘があり、なるほどな~、と思いました。


・金銭補償の必要性について


企業側からすると、何もしていなくて仮に買収者が現れてしまったとしても、ブルドックのように緊急に防衛策を導入して、発動するときに金銭補償すれば何とかなるんでしょ?という考え方が出てきてしまいがちでしょうが、裁判所としては、その点について、あえて懐疑的なコメントを判示しているとのことです。


武井氏は、裁判所は、企業がおカネを払わなくちゃいけないと考えるようになることに、警告ないしメッセージを送っているのだと考えられるとされていました。

 

・濫用的買収者とは


高裁では、「真に会社経営に参加する意思がないにもかかわらず、もっぱら当該会社の価値を上昇させて当該株式を高値で会社関係者等に引き取らせる目的で買収を行うなど」の行為をする者を濫用的買収者と言っています。


これに関して武井氏は、株主が有する株主権をふりかざし、権利濫用することは許されないという民法の基本原則から導かれるもので、きちんと法律上書いてあるよ、というスタンスでした。


・買収防衛策は平時から入れておくべきか


高裁、最高裁ともに、平時導入型の買収防衛策については、肯定的判示が出されており、欧米の制度とも比較しながらご紹介されました。

米国などでは、買収防衛策が導入されている場合に、買収者・経営陣ともに、防衛策を発動させないように行動するのであって、発動させないことにインセンティブがあるのに対し、ブルドックのケースでは金銭補償などを入れてしまったがために、むしろ発動させることにインセンティブが働いてしまう可能性もあると思われます。


そのため、きちんと設計された平時導入型買収防衛策の必要性が高まったと、武井氏は強調されていました。



ブルドック事件がIRに与える影響として武井氏が強調されていたなかで印象に残ったのは、


買収時には、現経営陣か買収者の新経営陣のどちらが企業価値を高められるのかの「選挙戦」になってくる。

そして、IR部門は、その選挙戦の「選挙対策本部」である、


ということ。


きちんと設計された買収防衛策は、現経営陣と買収者を交渉のテーブルにつかせ、お互いマニフェストを出し合いながら、選挙戦(買収合戦)を戦うことになるような効果をもたらすものであるということ。


IR部門は選挙対策本部なんだから、政治家が週末には地元に帰ってあちこち顔を出すのと同じで、平時から地元有権者(=機関投資家などの現株主たち)に対して、きちんと現経営陣の経営計画を説明して廻っておかないといけないと、わかりやすく説明してくれました。


武井氏は、経済産業省の企業価値研究会委員として買収防衛策に関する指針づくりなどにも関わっていますので、話はクリアで明解なのですが、より深く理解しようとすると、やはり企業価値研究会の報告書をもっと真剣に読んだほうがよいという思いを強くしました。


■2006年 「企業価値報告書2006~企業社会における公正なルールの定着に向けて~」の公表について
 http://www.meti.go.jp/press/20060331002/20060331002.html


■2005年 「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」の公表について・企業価値研究会「企業価値報告書」の公表について

 http://www.meti.go.jp/press/20050527005/20050527005.html


長くなったのでパネルディスカッションのご紹介は割愛しますが、とても勉強になったセミナーでした。



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