ブルドック vs スティール、防衛策発動へ | IR担当者のつぶやき

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上場企業に勤務する公認会計士の、IR担当者として、また、一個人投資家としての私的な「つぶやき」です。

ときどきIR担当者的株式投資の視点も。

今日はやっぱりこの話題でしょう。


7/9、東京高裁は、ブルドックソースの買収防衛策の差止めを求めて、スティールパートナーズが申し立てた仮処分申請に関し、申立てを却下した東京地裁の決定を支持して、スティールの抗告を棄却しました。


東京高裁の決定のポイントは、次の3つです。


(1) 株主総会で8割を越す賛成で可決された防衛策は、著しく不公正な方法ではない。

 特別決議は諸事情を了承した上での(スティール以外の)他の株主の意思表示と解すべきである。


(2) スティールは濫用的買収者と認めるのが相当というべきであると初めて認定した。

 スティールはソトー株や明星食品株に関わる買収などで多額の売却益を得ており、最終的には保有株を売却して高額の利益を得た、と高裁は指摘しました。

 地裁は、「株式を高値で引き取るよう求めた証明はなく、グリーンメーラー(濫用的買収者)と認めるに足りない」と述べていましたが、高裁は、「短中期的に株式転売などでひたすら自らの利益を追求する濫用的買収者」であると断定しました。


(3) 不当な公開買付けに対する防衛策なら、買収者を差別的に取り扱っても株主平等原則には反しない。

 スティールは、防衛策の発動は会社法の株主平等の原則に反すると主張していましたが、高裁は、「会社法は一部の株主を経済的にも、議決権比率の変動でも、差別的に取り扱うことを否定はしていない」としたうえで、「企業価値の毀損を防ぐために合理的ならば、株主平等の原則に反しない」として、スティールの主張を退けました。

 ブルドックがスティールから新株予約権を約23億円で買い取ることによって、スティールが金銭的に補償されている面も、高裁判断にプラスに働いているかと思われます。



さて、勝利をもぎとったブルドックですが、大きな代償を払うことになりました。


スティールから23億円で買い取ることになる新株予約権は、9/30の行使期間を過ぎると無価値になり、損失処理を迫られます。

その他、買収防衛のアドバイザーをつとめた証券会社や弁護士などに報酬を支払わなければなりません。

ブルドックの2008年3月期の連結純利益は5億円の予想だそうですが、これでは防衛関連のコストを吸収できないと思われます。

池田章子社長は、最終損益が赤字になる可能性もあることを示唆しているそうです。


なお、池田社長ですが、日経産業では、「ぶれなかった『決断の人』」として、大層な持ち上げようです。

イカリソースの子会社化のときの即決ぶりや、東京・月島もんじゃ振興会協同組合と組んで、ソースとセットの商品「月島もんじゃ焼き」を考案して定番商品化させた実績などのエピソードも紹介しています。

これはこれで、読み物としては面白いですけど・・・。



一方のスティールですが、午後6時過ぎのQUICKでは、最高裁に特別抗告したとの発表が流れています。


ブルドックの新株予約権の発行は、日本の会社法の解釈に重大な誤りがあり、株主平等原則に反してスティールを不当に差別するものであると主張するとみられます。


スティールのウォレン・リヒテンシュタイン氏は、「最高裁に不服申立てする以外の選択肢は考えられない」、スティールが投資先の企業と利害を共有する長期的株主として活動してきたことは明白であり、高裁でスティールが濫用的買収者とされたことについても、その定義について最高裁で断固争うと明言しています。


ここまできたら、スティールも徹底的に争うしかないんでしょうね。

でも、最高裁でも負けた場合に、日本の証券市場に対する外資系ファンドの見方がどう変化することになるのか、気になります。


日経新聞で中田順夫弁護士がコメントされていましたが、「極めて重要な市場参加者になっている投資ファンドを組織の性格上濫用的買収者としている点は、証券市場への根本的理解が欠けているのではないか。この決定で日本の証券市場から一部の投資家が愛想をつかして出ていくことになりかねないのではと懸念する」との意見には、私も賛成です。


そもそも投資ファンドとは、高裁決定がいうように「顧客利益を優先」するものだし、ゴーイング・コンサーンとして永続的に事業活動を行っていくことが前提の事業会社と違って、どこかで投資をてじまってExitするものでしょうから、尺度になっている時間軸が違うんだと思うんですよ。


だからどうだ、という結論は私にも分かりませんが、ちょっと一方的にスティールを悪者扱いし過ぎるような気もします。

しかし、スティールも今回は、いろいろ指摘されているように、支配権獲得後の事業計画を訴えておらず努力不足な面もあるかもしれません。


やっぱり、日本市場は、いちごアセットみたいに温和な投資ファンドじゃないと、受け容れがたいのかなぁ。

IR協議会のセミナー(http://ameblo.jp/ir-man/entry-10028855747.html )で拝見しましたけど、いちごのスコット・キャロン氏は在日期間も長く、日本を愛してる~って感じがあふれていましたから。


それにしても、もしもブルドックが防衛策を発動した後で、最高裁がスティールの言い分を認めたら、どういうことになるんでしょうかね・・・はてなマーク


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