「じゃあ、今日のことは口外しないように!」メンバーのリーダー格の佐原久は涼太を含む3人のメンバー達に念を押すように睨みを利かせながらいった。涼太は黙りを決めていたが、他のメンバーたちは佐原の睨みに少し怯えているようだった。
「僕たちは別に何もしていないんだから気にすることはないんだ。そんなことでいろいろな火遊びがバレて将来を棒に振る方がつらいし、耐えられないよ。だからあの女のことは忘れろよ。これからも俺たちの口外してはいけない秘密事項だ。わかったな、涼太」佐原は下をみて黙っている涼太をガンつけるようにいった。涼太はそっと顔をあげてそっと頷いた。
「俺たちは普通より、親だってエライんだから、将来に傷をつけるなんてとんでもないことだよ。大学いって、いいところに就職するんだから、わかっているなっ!」
「あっ、当たり前だよ。こんなことで将来に傷がつくなんて嫌だよ」メンバーの一人が泣きそうな顔でいった。
「大丈夫だよ。証拠なんて何もないんだから」佐原はそういって真広の携帯とヒールを入れたビニール袋を掲げた。
「涼太、お前が責任をもって処分しておいて」佐原は涼太にビニール袋を押し付けた。涼太はしぶしぶ受け取った。涼太は受け取ったビニール袋をみて無情な気持ちでみつめていた。
大雨の中で皆が解散した時、涼太は腕時計を改めてみた。現場を離れてから1時間近くが経っていた。涼太は電車の高架下で真広の携帯に電源ボタンを押すと電源が入った。涼太は恐る恐るメールをみていると、誠一という名の宛先でやりとりされているのをみて、恋人だということがすぐにわかった。
涼太は携帯をみて迷っていた。でもまだ助かるかもしれない。でも、電話をしてしまうことで事故では片付かないだろう。それでも一縷の望みを託して、沢村誠一という男のアドレスの番号の横にある<発信>をおどおどした手で押した。事故ではすまない、事件に発展していくのかもしれない。自分の首を絞めていくのかもしれない。でも本当にあの人が死んでしまったら一生後悔がつきまとうのだろう。涼太の中で良心の呵責が疼いた。
後悔するよりはあの人が助かるならそれでいいだろう。涼太は深い言い知れぬ後悔の中でコール音にようやく誠一がでた。
<崖下に女性が倒れています。助かるかもしれません。僕のことは何も聞かないでください>涼太は一気に捲したてるようにいって、電話をきった。
「・・・これでよかった。これでよかったんだ!」涼太は自分に言い聞かせるようにいいながら、頭を振った。
p.s