団地のドアを空けたら
ボロボロになって鼻血を流したワン公が立っていた。
無言のままのワン公を家にあげた。
俺の家は団地だ。
自分の部屋なんて無い。
狭い部屋には二段ベッド。
上は親父の寝床だ。

地鳴りのようないびきをかいて眠りこける親父の下が
俺達の居場所だった。
ワン公と俺はベッドに腰掛た。

「どうしたんだよその傷」
「…こけた」
「もっと上手いうそつけよ(笑)」
「あいつらか?」
「…ああ」

そう言うとワン公はポケットから煮干しを取り出した。
食べようとするワン公の手を俺は握り締めた。

「どこでだよ」
「…ゲーセン」
ワン公の話だと、
あいつらがこっちのゲーセンまで
俺達を探しにきていたようだった。

俺を探していたようだったが、
口を割らないワン公は
一人でボコられた。
「いくぞ」
そうは言ってみたものの、
ワン公はどう考えても喧嘩できる状態ではなかった。

ワン公から返ってきた返事は意外なものだった。
「…いくか~!」
「よっしゃ!」
二人で立ち上がろうとした瞬間、
「ブ、ブォォ!…ブ」
という爆音の屁が鳴り響いた。

二段ベッドの上からだった。

張り詰めた空気に笑いが走った。

笑いが一波過ぎて、
ワン公が切り出した。
「わりぃな…」
「何が」
「付き合わせちゃってさ」
「関係ねーよ」
俺は、俺達は強くなりたかった。
やられっぱなしは悔しい。

そしてダチが
卑怯なやり方でやられた事が
悔しくてしょうがなかった。
ワン公の鼻にちり紙をつめて俺達は家を出た。

親父の屁は出陣のホラ貝の雄叫びとなった