多摩川の河川敷にごろんと横たわった二人は暫く無言だった。

ワン公の鼻血は赤茶色に固まり、
唇は切れていた。
俺のまぶたは
視界が半分になる位に腫れ上がっていた。

「なぁ、身体中いてーんだけど」
「たつや、顔滅茶苦茶じゃん」
「ワン公ほどじゃねーよ」
「あの人達なんかかっこよかったな」

ニヤッと笑ったワン公の歯には血がついていた。


親父のホラ貝(屁)を出陣の合図に飛び出した俺達は、
そのままゲーセンに直行していた。

着くまでの間の会話は覚えていない。
一刻も早くこの鬱憤をぶつけたかった。

案の定ゆうすけ達は
ゲーセン前にたむろしていた。
「ワン公、いくぞ」
作戦なんて無かった。

真正面から駆け寄って
近くに居る奴から思いっきりぶん殴る。
それだけだった。

勝ち負けなんてどうでも良かった気がする。

フクロにされたワン公の仇と、
俺自身の喧嘩への欲求が爆発していた。

『やる前から負ける事を考える奴がいるかよ、バカやロー!』
とインタビュアーをビンタしたという
アントニオ猪木氏の伝説はあまりにも有名だが
(皆知ってるか?)

俺も生涯一度も負けを考えて喧嘩をした事はない。

やってみなくちゃ何事も分からないものだ。
相手は10人程だった。
「なんだテメェ!」
「んだコラァ!」
怒号が飛び交う。
もみくちゃにされながら殴り合った。

殴り、殴られ、
蹴飛ばされ、転がされ、
立ち上がり、殴り、
また殴られた。

何発殴ったか、
何発殴られたか
分からない位揉みくちゃになっていた。

ワン公はボロボロの体を更にボロボロにされていた。

俺も後ろから殴られ、
チカチカと星が回っていた。
そして倒れた。

「ゴガン!」

俺が倒れると同時に、
俺達の後ろに何かが落下した。
車がぶつかったような音に全員が振り返った。