権力が生まれる瞬間 | 10月の蝉

10月の蝉

取り残されても、どこにも届かなくても、最後まで蝉らしく鳴き続けよう

私は企業ドラマとか、時代劇があんまり得意ではありません。そこに出てくる力関係や上下関係、勢力範囲図、権力争いがうまく理解できないからです。

いちばんわからないのは、ある「偉い人」というのがいて、周りがその人の言うことには絶対服従している、という図。
その偉い人が一言いえば、気に入らない奴は飛ばされ、知りすぎた奴は消されてしまう。
鶴の一声で、偉い人が何か言えば、どんな無理でも通ってしまう。
そういった状況が今ひとつ飲み込めませんでした。
「なんで言うこと聞いちゃうんだろうなあ」、もっと言えば「周りが言うことを聞いてしまうから、どんどん本人がつけあがってるんじゃないかしら」なんて思っていたのです。
揉み手をして「ごもっととも」と追従する人がいるから、権力者が生まれるんじゃないかと。


でも、最近、なぜ周りがある人の言うことを聞いてしまうのか、なんとなくわかるようになってきました。

ひとつは、たぶんめんどくさいんです。逆らうのがめんどくさい。
もう一つは、その人に従うことで、物心両面で自分が得をするから。

権力を手にする人というのは、ある意味「過剰な人」なんだと思います。
人一倍闘争心が強い、とか。
他人がやらないことまでやって、それを根拠に相手を説得する、というタイプの人もいますね。
熱意にしろ、行動にしろ、常に他の人よりちょっと多い。
その多い分だけ、他の人より抜きん出ていますから、言動に説得力が増す。
また非常に熱意がありますから、議論を続ける体力もありますし、そういうことをめんどくさがらない。なんとかして自説を受け入れさせようと、非常に熱心に語ってきます。

そこまでの熱意がない人は途中でめんどくさくなっちゃうんですね。
どれだけ反論したって全然ひるまないし、どうやらこっちの話は聞く耳持たないようである、と。そう思ってしまうと徒労感だけになりますから、下手に逆らうよりは「はいはい」と言うことを聞いておけ、ということになる。
そうなると、熱意の人は、自説が通ったと思ってしまうわけです。納得してくれた、わかってくれた、と。
そうやって、熱意の人の主義主張が拡大していくことになります。

あるいは、熱意の人に逆らうことで、自分の悪評がばらまかれる可能性がある、とか。
それが事実かどうかが問題なのではなく、常に「そういう風に言われる人」と見られてしまうデメリットがあるわけです。女性の場合、これはかなり深刻な問題です。
男性ですと、職を失う危険性が出てきます。社会的地位の抹殺。これはこたえますね。
「あいつを首にしろ」という命令を出した時に、さまざまな理由でそれに従う人がいる。
従う人がいて、実際に首になる人が出てくると、周囲は「逆らうと首になるのだ」という認識を強化することになります。
そうやって、権力は作られていくんですねえ。


小は、町内会の小さな揉め事から、大は、国家レベルの弾圧まで、人が集まるところには必ず権力闘争が生まれます。
ああしたい、こうしたい、という個人的な願望を達成するための方策が、人によって違うことから衝突が生まれます。
「こっちのほうがいい」「いや、違うやり方の方がいい」
「お前は間違ってる」「いや、お前こそ間違っている」

多様性を認める、というのは、人それぞれやり方は違うが、他人のやり方を否定するのはやめよう、ということだと思うんですよ。
物事のたいていのやり方には、絶対間違っているやり方なんてそうはないと思います。
みんながぶつかるのは、枝葉末節の部分がほとんどで、どっちでやってもいいじゃないか、ということばっかりです。
でも、いろんな経緯やら、好き嫌いの感情やらが入り混じって、「許せない」「ありえない」「ふつうじゃない」「ちょっとおかしいよね」などの対立が発生してしまいます。
そこで声の大きい人、怯まない人、引かない人が最終的に自分の意見を通せるんですね。
で、そこからが権力の始まりなのです。


企業ドラマや時代劇は、この権力の構図ができあがったところから話が始まっています。
私には、誰が偉くて誰が偉くないのかということがまず理解できないのと、ようやくそれを把握したところで「なんでこの人が偉いわけ?」と思ってしまうので、周囲が唯々諾々と従う姿がもどかしくて仕方ないのです。そのせいで苦しんでいる人がいる、というドラマの構図が、もどかしくてもどかしくてイライラしてしまうんですね。

だから権力に逆らっていく姿がそれなりにカタルシスをもたらすわけですが、私が好きなのは最初から権力を認めないっていうスタイル。認めてないから服従することもないわけで、権力の構図を無力化してしまう話が好きです。


でもねえ。
自分の権力が通用するっていう魔力も、わからなくはない、かなあ……。