ひとり暮らし | 10月の蝉

10月の蝉

取り残されても、どこにも届かなくても、最後まで蝉らしく鳴き続けよう

初めてアパートを借りたのは大学2年の時だった。


それまでは大学の寮に住んでいた。最初からひとりで暮すのはちょっと不安だったし、経済的な問題もあって寮に入った。部屋は3人部屋。知らない人と一緒の部屋というのは抵抗あったけど、その時は家を出られたことがとにかくうれしかった。


2年いて、自分には学生寮の暮らしは無理だと思い始めたころ、ゼミの先輩が自分のいるアパートを紹介してくれた。

今はあんなアパートに住む学生はいないかもなあ。6畳一間、半畳の流しがついてて、風呂トイレが共同。洗濯機も共有だった。家賃は確か1万2千円くらいだったと思う。古い古い木造のアパート。築30年くらいだったか。玄関で靴を脱いで上がり、廊下の両側に部屋がある。学生だけじゃなくて、いろんな人が住んでた。

そこに1年半いて、事情があって引っ越した。

急に探したので、ちょっと変わった物件を見つけた。

一軒家の隣に、物置を改造した離れのような感じ。一応2階建てにはなってたけど、高さが母屋と違ってた。2階はよくいえばロフト。はしごをのぼってベッドがつくりつけになってた。玄関の引き戸の片方が風呂の入口になってた。つまり外に風呂場を無理やり作り、引き戸の1枚は出入り用、1枚は風呂の戸にしてあったのだ。うーん、説明がむずかしいなあ。ここは、入居初日の朝に水道管から水が噴出するという事件が起きて、前途多難な感じが色濃くする部屋だった。

そこには半年くらいいたのかなあ。大学卒業するまでいた。

卒業して一応就職したので、なんとかまともなアパートに引っ越した。2Kで風呂トイレ(水洗)付きで4万だった。ここも古かったなあ。木造アパート。

ここの暮らしが一番楽しかった。お気に入りのカーテンをつけ、安いけどかわいい小物を探した。今でも覚えてるのはアヒルの形をしたスタンド。アヒルの顔が陶器でできてて中に白熱灯が入ってた。非実用的なんだけどすごくかわいくて、大のお気に入りだった。


ひとりで暮らしてて何がうれしかったか、というと、真っ暗な部屋に帰ってくること。

朝、出て行った時のままの部屋が私を迎えてくれる。何一つ動いていない。そのまんまの部屋が私がつけた明かりで浮かびあがる。


真っ暗な部屋に帰ってくるのがいやだ、というのはよく聞くけど、それが好きという人はあんまりいないみたいだ。いや、いると思うけどね。

あの、海の底のような静寂が懐かしい。