教育費の補填には定期保険が適しているという詭弁 | 池上秀司のブログ

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ライフネット生命の出口会長のブログを拝見しました。彼らは定期保険しか扱っていないので、その優位性をアピールしたいという気持ちはわかりますが、適当なことをいっていい訳でもありません。さすがに下記エントリーは見過ごす訳にはいきませんでした。

定期死亡保険と収入保障保険

途中のグラフは、「収入保障保険では保障が足りなくなる(だから定期保険の方がいい)」ということを意図しています。しかし、この記事には致命的に欠落しているのがあります、それは「保険料」です。例えば、すべて私立の場合の必要教育費というのが以下のようになっています(画像は出口氏ブログのグラフを著者がリライト)。



まず、上記グラフの緑のライン通りにライフネット生命で保障を確保した場合の月払保険料はいくらになるでしょうか。男性の場合で見積もりトライしてみました。

30歳~39歳(死亡保険金額3,000万円:保険期間10年)=3,190円
40歳~49歳(死亡保険金額2,000万円:保険期間10年)=4,498円
50歳~59歳(死亡保険金額2,000万円:保険期間10年)=10,536円
※30年間の保険料負担総額は約219万円

では、グラフの上のオレンジのライン(30歳・3,000万円)に近い感じで収入保障保険に加入したらどうなるでしょうか。例えば、アクサダイレクト生命の「カチッと収入保障2」の場合は、以下のような感じになります。


上記画像はアクサダイレクト生命の設計書より抜粋。死亡時一括受取額が加入直後で2,962万円になっているのがわかります(黄色いマーカーのところ)。3,000万円に近いですね。

年金受取の場合でグラフを作りました。一括受取よりも年金受取の方が額は多いのですが、それでも足りていないところはありますね。

(縦軸:万円/横軸:歳)

では、この場合の月払保険料はいくらになるかというと2,790円です(30歳男性・年金月額10万円・保険期間60歳)。出口会長は加入直後からライフネット生命よりも1割以上月々の保険料負担が少ないモノを持ち出して「教育費が確保できない」といっています。足りていないのは事実ですが、日頃「数字・ファクト・ロジック」といっている割に保険料を隠して論じても、それは詭弁です。「徹底的な情報開示」はどうしたのでしょうか。

ですから次に、当初の保険料負担を近くして比較します。収入保障保険の年金月額を11万円にすると、月払保険料は3,054円。年金受取で考えると、グラフの通り足りない状態は改善し、受取保険金総額と教育費がピッタリはまっているので、大きな問題は見当たりません。「これでいいじゃないですか」という方もいらっしゃるでしょう。

(縦軸:万円/横軸:歳)

とはいえ、一括受け取りでは必要な教育費に足りない部分はあります(マーカー部分参照)。

では、もう少し保険金額を増やしてみたらいかがでしょうか。年金月額を13万円にすると保険料は3,582円になりますが、11万円でマーカーを引いた不足部分は改善されています。


(縦軸:万円/横軸:歳)

確かに当初10年間の保険料負担は392円上昇しますがその後は逆転し、30年間の保険料総額は約129万円なので、前述ライフネット生命よりも約90万円も少なくて済みます。

これら月々の保険料負担をグラフにすると以下の通りです。
【月払保険料比較】

(縦軸:円/横軸:歳)

【保険料累計推移】

(縦軸:円/横軸:歳)

下のグラフは死亡保険金の推移を比較しています。収入保障保険(年金月額11万円のケースを記載)は、お子様が大きくなり保険の必要性が低くなると考えられる時期(Bのエリア)の保障を予め少なくしているからこそ、少ない保険料でお子様が小さい時(高額な保障が必要な時期=Aのエリア)に高い保障を確保できます。最初の10年の保険金額を比較すると、同じ程度の保険料では収入保障保険の方が定期保険を上回っている期間が長いということがわかります。


(縦軸:万円/横軸:歳)

Bのエリアのライフネット生命は、必要以上の保障に対して割高な保険料を負担しているという状態です。これが、更新型の定期保険で気にしなければいけないところ。無視できる訳がありません。

これらから、教育費の補填を考慮した場合には、必要な保障が過不足なく確保でき、保険料負担が定期保険よりも少ない収入保障保険の方が合理的といえるのではないでしょうか。

最近では「タバコを吸わない」「BMIが保険会社指定の範囲内」といった場合は、もっと保険料が安くなる収入保障保険が発売されています。それこそ、出口会長は本業に無関係な講演活動の時間があるならば、代理店として付き合っている「ほけんの窓口」に出向いて、各社の収入保障保険の設計書でも見てせもらってきたらいかがでしょうか。勉強になると思います。

ブログの後半には、

実際の子育て世代のニーズには、収入保障保険より定期死亡保険の方が適しているのです

と記載されていますが、「教育資金を確保できている」という点は良しとして、「保険料負担が増えるのは困る」という、子育て世代の持っている他のニーズに適しているといえるのでしょうか。それこそ、「子育て世代の保険料を半額に」というのが彼らの理念だったはず。こういうときにライフネット生命が至上命題としてきた「保険料負担」を欠落させて論じたところで説得力がなく、議論になりません。

保険業法300条には

保険契約者若しくは被保険者又は不特定の者に対して、一の保険契約の契約内容につき他の保険契約の契約内容と比較した事項であって誤解させるおそれのあるものを告げ、又は表示する行為

という条文があります。実際の販売現場で出口会長のような話をしたら、「不正話法」と疑われても仕方がありません。それと、文中

なお収入保障保険は、保険金を一時金で受け取る場合が大半であると言われています

との記載がありますが、「言われている」などというのは迷信、都市伝説と変わらないので、ぜひ、根拠の提示を願います

最後にかなり重要なことを書いておきます。ライフネット生命では死亡保障を考えるときに、常に「遺族年金」が欠落しているのはなぜでしょうか。遺族年金を考慮すれば、民間生命保険で加入する金額を減らすことが可能(保険料負担が抑えられる)です。

遺族年金はお子様の人数によって受給額が変わるのですから、教育費の保障を考えるときには不可欠。我々からすれば保険設計のイロハのイの字です。それを伝えない人達が保険設計について口を挟むことは、真面目に保険販売をしている同業他社の方々や我々FPへの冒涜です。勘弁してください。

出口会長は読書が趣味だそうですので、少々古いですが以下の本でも読んでみてはいかがでしょうか。

入っていい生命保険、いけない生命保険 選んでいいのはこの3つ!/ソフトバンククリエイティブ