非正規職員の均衡or均等処遇 京都市女性協会事件・・・特段変な判決ではないのだが | 風のかたちⅡ

非正規職員の均衡or均等処遇 京都市女性協会事件・・・特段変な判決ではないのだが

「法セミ」6月号の座談会「労働の未来を語る」の大竹先生発言に絡んでからその後、気がついたら非正規労働というか有期雇用契約がらみの話ばかりになっている。

○大竹先生、お話の趣旨が・・・?http://ameblo.jp/hidamari2679/entry-10292555016.html

○リクW研 登録型労働者派遣提言http://ameblo.jp/hidamari2679/entry-10296340169.html

○有期雇用の未来・雇用WS@本郷三丁目http://ameblo.jp/hidamari2679/entry-10296592236.html


そのインネンか、京都市女性協会事件(京都地判平20.7.9、労判973号)というのを、うちのお嬢がもっているのを見つけた。


京都市の財団に契約期間1年、勤務時間7時間/日などの条件で雇用され、男女共同参画に関わる相談業務を主に行う嘱託職員(呼称)の女性が正規職員と変わらない業務内容にもかかわらず低額の賃金しか支給されないことについて、憲法13条個人の尊厳、同14条の法の下の平等、労基法3条の国籍、信条、社会的身分による差別の禁止、同4条の男女同一賃金原則に違反する等として、正規職員との賃金差額、退職金差額の支払いと慰謝料を求めた事件。


社会的身分又は性による賃金差別の存否をあらそったわけだが、事案の内容からしたら、正規職員と同一又は相当の職務を行う非正規職員に対する均衡or均等処遇を主たる争点にすべきだったように見える。そうしなかったのは、改正パート労働法施行(H20.4.1)以前の事件だったためかと推測したりするが。


判決をみると、裁判官は、社会的身分又は女性であることを理由とする差別という原告・女性嘱託職員の主張は退けており、その所論に特別おかしなところは感じられない。しかし、その一方で、原告が主張していない改正パート法、労働契約法との関係について敢えて考察しており、嘱託職員の賃金乃至処遇が職務内容に比して適当とは言い難い状態であることに強く印象づけられたことが伺われる。例えば、


「原告は本件雇用期間中、被告の主要事業の一つである相談業務を高い質を維持して遂行し、一定の責任をもって企画業務を行い、外部との会議にも単独で出席するなどしていることから・・・一般職員の補助としてではなく主体的に相談業務及びこれに関連する業務につき一定の責任をもって遂行していた。

ところが・・・被告の職員給与規定には、嘱託職員が質の高い労務を提供した場合、どのような加給をするかという点について何らの定めを置いておらず、また、上記のような嘱託職員が質の高い労務を提供した場合に、何らかの形で一般職員に登用する可能性がある等の具体的な定めをしていることも見受けられない」

としたうえで、「被告の職員給与規定は原告の提供した労務の内容に対して、適切な対応をしうるような内容となっていない」と言い切っているあたりだ。


そうはいいながら、一般職員(正規職員)と比べて、業務に対する責任の差、人事異動等の組織への拘束性の差があることを理由に「通常の労働者と同視すべき短時間労働者に該当するとまではいえない」から、結局は、パート法8条の差別的取扱にも当たらないなどとして、原告・嘱託職員の差額賃金請求を退けているのだが・・・・。


ワン公的な勘ぐりでいえば、判決は、高いレベルで真面目に職務を遂行している非正規職員の処遇改善のために、身分差別、性差別とか同一労働同一賃金とかでいくのではなく、パート法8条、9条等、さらにいえば労働契約法3条2項「労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。」という理念規定も使って、むしろ均衡処遇論で控訴審を争いなさいと諭しているようにもみえる--原審の裁判官が控訴審での逆転を望むはずはないから、そんな親切心はないのは当然だが。


有名な丸子警報機事件判決--同一(価値)労働同一賃金原則には実定法上の明確な規定が存在しないとしつつも、「人はその労働に対し等しく報われなければならないという均等待遇の理念が存在し、これは人格の価値を平等と見る市民法の普遍的な原理」と言い切り、「理念に反する賃金格差は、使用者に許された裁量の範囲を逸脱したものとして、公序良俗違反の違法を招来する場合がある」として、経営者の裁量分を除き正社員賃金の8割に満たない部分について差額支払いを命じた--の大岡裁きふう判決と比べると慎重な言い回しだし(丸子警報機とは職場、業務の実態や労使関係といった事情の違いがあることも大きいと思う)、原告・嘱託職員の敗訴という結論を導いているのだが、結果的には、非正規労働者の均衡処遇の前進に資する争点を示唆することになったと思う。


短時間労働者の問題として本件事件は取り扱われたし、原告は確かに短時間労働者なのだが、当然ながら、呼称・契約社員などのフルタイム・非正規の均衡・均等処遇にも射程は広がる話だろう。この点、パート法はあくまでパートタイマー短時間労働者を対象とした法律であるのが問題だ。指針(告示326号)で、通常の労働者と同一の時間働く有期契約労働者についてもパート法の趣旨が考慮されるべきである旨いってはいるが、これは訴訟において認められる規範性は全くない。やはり、少なくとも直接雇用の非正規労働者をカバーして均衡・均等処遇を進めるための法規定が必要になっているのと思う。わんわんわんわんわんわん