- 落日悲歌・汗血公路 ―アルスラーン戦記(3)(4) (カッパ・ノベルス)/田中 芳樹
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拠点となる城にたどり着くことの出来たアルスラーン。
王都を取り戻す手はずを進めていくが、
混乱の隙を隣国に狙われ、王位争いに巻き込まれる。
というわけで、次巻。
この作品自体が世に出たのは20年近く前。
しかし、未だ完結せず、新装版まで出ております。
才能ある作家が、物語をコンスタントに継続できるかどうかってまた別の話だよね。
小野不由美とか…こないだ7年ぶりだかの新作短編が出たらしいけど。
そこを行くと、コンスタントにクオリティの高い作品を出せる上橋菜穂子ってものすごいプロフェッショナル。
人物造詣、大雑把なストーリーは王道なんだけど、
展開的には「え?そういくの??」の連続。
読者の世予想を常に上回ってくれて、面白すぎる。
これから段々王都に向けて奪回旅団でもしていくのかな?とか思ってたら、
隣国に攻め込まれる大ピンチ&王位争いに巻き込まれ
&それを利用する頭脳戦&アルスラーンの出生の秘密は?&謎の魔法使い。
詰め込みすぎになってないとこがまた凄い。
通常の作家だったら、そのうち、ひとつかふたつの要素でストーリーを引っ張っていくと思うんだけど、
ここまで気になる要素が多ければ、続きが気になって仕方が無い。
豊かなアイディアと巧みなストーリーテリングだと思う。
でも面白さの一番大きな要素は、各人の欲望で国が動いていくところかな。
軍略や、中世の戦闘の描写、個人の欲望がそのまま国家間の争いになっていくところなど、
歴史の動きが本当に面白い。
とはいえ、結構、ツッコミどころもある。
キャラがもの凄く多くて、いちいち説明が加えられるのがちょっと煩雑だけど、
それが10巻以降で(笑)生きてくるし、
歴史物なんだと思えば、ひとりひとりの脇役にまでスポット当てられてる醍醐味ともいえる。
それにしても、新キャララジェンドラ王子のインパクトの強いこと。
すごいダリューンとか可哀想なんですけど。
あとは、アルスラーンが激しく頼りないのが気になるかな。
”人を信頼できる、誠実な性格”以外に取り得が無いからね…
一気読みしたからこそ言えるけど、たぶんこのシリーズは大まかなストーリーはあらかじめ出来ていて、
定められた結末に向かって収束していくつくりだからこそ、この主人公なのかと。
慈悲深さしか持たなかった主人公が段々成長して…
というか、あんま成長してないけど、その資質を失わない大人がなかなかいいもんだよ、
ってのがラストにあって、そのためにここまで影が薄いのかな?と。
そして、、文章はそんなに上手くない。
文で見せるタイプじゃないし、ライトノベル作家の中じゃイケる方なんだけども。
あと、目に付くご都合主義がちらほら出るあたり?
最強部類に属する戦士相手に、特に武芸に秀でてるわけでもないアルスラーンがしのげちゃったりとか。
それは後期の方が酷いんだけども、
初期のこの作品でも時折「ん?」と思う。
まぁご都合主義も何も、一人の人間の考え出すものなんだから、突っ込んではいけない気もする。
あと、キャラ造詣が典型すぎるとこ?
女好きの楽師とか、結構ムカついたり。
とはいえ、典型でも多彩なキャラの魅力が存分に生かされもしているので、悪くはないかな。
どんなに変遷をしても、こういうファンタジーで楽しめるのは、
”最強の戦士””最高の頭脳”
だもんね。
あと美女と慈悲深い王様か。
それにしてもこのスピードの速さ。
ほんと出し惜しみしない。
元ネタはあるにしても、よくもここまで、サクサククールに書けるもんだと思う。
美味しいエピソードも1ページくらいでさらっと書いちゃうし、
どこまでいってもエピソードつきないし、
苦労して書いてるんだとは思うけど、絶対他の人よりアイディア豊富なんだろうなぁ。
強いて言えば、昔のイラストで新装版出して欲しかったな。
天野善孝がイラストレーションをしていたらしい。
新しいイラストのひとも重厚で悪くないけど、
天野さんの素晴らしいイラストを見たかったなぁ。