アルスラーン戦記 王都炎上 王子二人 | お役に立ちません。

お役に立ちません。

本・漫画・映画のレビューブログ。
本は月に10冊ほど、漫画は随時、
映画はWOWOWとTSUTAYAのお気持ち次第(笑)

王都炎上・王子二人 ―アルスラーン戦記(1)(2) (カッパ・ノベルス)/田中 芳樹
¥880
Amazon.co.jp
パルスの王子アルスラーンは、初陣で大敗を帰す。
王も王妃も捕われ、忠実な部下と共にパルス再興を目指し、
仲間を集め、作戦を実行していく。

ファンタジーブームなんです。
しかもヒロイックもの。
精霊シリーズ読破しちゃったもんで、なんかこんなん手を出してみた。
今更ながら。

田中芳樹はすごいね。
舐めててごめんなさい。
ただの流行作家だと思ってた。

要はこの人、歴史を描きたいんだね。
出来るだけドラマチックで、魅力溢れる人物と、奇想天外な奇略に溢れた偽史を。
一人創作三国志みたいな。

キャラもの、ヒロイックものだと思ってたから、あまりの凝りようにびっくりした。
物語として美味しいと思われる各エピソードの消化の早いこと早いこと。
並みの作家なら、そのエピソードひとつで1冊書いてしまうような素晴らしいエピソードを
ファストフード並みに消化してしまう。
どういうこと?
歴史を描きたいから、記録者として、後世の人間として、
人間の欲望と希望に押し流される大きな歴史という大河を描きたいから。

その意気込みが、多彩で詳細な資料による豊かなディティールと、
ダイナミックなエピソードから伝わってくる。
キャラクターは多彩かつステレオタイプだけど、このひとの場合はこれでいいの。
なぜなら、キャラが肝要なのではなく、そこから生み出されるありとあらゆる欲望と、
ダイナミックな歴史の動き、ってのが肝心なんだから。
大国に対して仲間は5人とかで、でもとてつもない頭の良さから来る奇策で乗り切るとか、
大国がこう動いたから、他の小国はああ動いて、その兼ね合いと戦闘が…とか。
歴史って面白いんだー、世界史とか、もっかい学んでみようかな?とか思っちゃうもんね。

更にそこに、これでもか、と叩き込まれるエンタの数々。
アルスラーン(主人公)の出生の秘密とか、
謎の銀仮面の男とか。
このひと、一体どれだkぇアイディア抱えてるの?
尽きると言うことが無いの?
と思ってしまうと共に、こどものころ夢中で冒険物語を読んでいた気持ちを思い出す。

更に、キリスト教的世界になじみまくった我々、
勝てば官軍、勝者の歴史しか知らない一般人に対して
実は十字軍てこんなんだったんですよ、異文化を侵すってのはこういうことなんですよ、
っていうメッセージまで入っちゃってるのが最早なんとも。
どういう力量でこんなん書けるの?
まだ生きてるからあれだけど、山田風太郎とか、そのへんの異才と同レベルだと思うんだなー。
褒めすぎ?
大丈夫、12巻くらいで飽きてくるから(笑)
一応、既刊は全部読んだもんね。

物語としての面白さ。

指輪物語や、ゲド戦記みたいに、後世まで確実に残るだろうレベルの深みはないけど、
エンタティメントってこうなんだぞ、
誰が読んでも楽しめる、いつ読んでも楽しめる、
”面白い話”ってのはこうなんだぞ、っていう。
エンタティメントのひとつの結晶、ある種の原典として、いい物語。