凍りのくじら | お役に立ちません。

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本・漫画・映画のレビューブログ。
本は月に10冊ほど、漫画は随時、
映画はWOWOWとTSUTAYAのお気持ち次第(笑)

辻村 深月
凍りのくじら

あらいやだ!1ヵ月半ぶりじゃない!

そんなこんなで凍りのくじら。


だれとも仲良くしているようで、その実誰にも心を開いていない、

『少し・不在』の主人公。

壊れていく元彼、死んでゆく母親といなくなった父親の思い出。

図書館で出会った先輩との関係で、少女は変わっていく。



ドラえもんを小道具大道具に使ったところが話題ですが、

その使い方を初めとして、全体的に舐めててごめんなさい。

とてもよく出来てる。

ミステリとしての機能もともかく、

現代の若者に特出してる心理を詳細に観察して、ものすごくはっきりと描き出してる。


どんな分野の人間ともすぐに仲良く出来て、友達たくさん、

もの凄いコミニュケーション上手、っていうのはうちら世代の理想像。

でもそんなのって、誰にでもできることじゃなくって。

それを『平然と』『完璧に』やってのけるのが主人公。

だけどそれは演じているだけで、だれにも心を開かず、観察しながら莫迦にしてる。

自分はとても頭が良くて、何でも知っているから。

知識があるから周りよりも自分のほうが頭がいい!と、周囲を莫迦にしているの最近の若者多いそうな。

そんなおじさんとうも良く見るけどな。

若い人に多いという、それは、ネット見てると本気思う。

OKWEBとかあるじゃん?特殊な例かもだけど、何の経験も無く本やネットの知識だけで、

どうしてそんなに自信たっぷりなの?って。

なんとゆーか、そういう人はいつの時代にいるものなのかもだけど、なんか程度が極端で異常なのよね。

『デスノート』は架空ですけど、あの主人公ライト的感覚の持ち主がほんとにいるの。

少なくないの。

この主人公もだけど、『本をたくさん読んでるからあたしは頭がいい。』と。

それは一部本当だけど、嘘だよね。経験と知識は違うもの。


だけど、彼女は本当はとても小心で、周りを莫迦にしながらも絶対にきつく出れない。

穏やかで、人を受け入れられるのは演技ばかりじゃなくて、本当は、

周りの人間のほうが『生きる力』に満ち溢れている、世界に上手く適合しているのを知っているから

萎縮している。


この点で正反対なのが、主人公の元彼若尾。

周りを心の底から莫迦にしていて、自分ばかりが特別だと本当に思い込んでいる。

その完全に閉じた世界がそれゆえに痛々しく崩壊していくんだけど、

これこそがこの物語の素晴らしいわけだと思う


完璧な自分像を作り上げてて、

そこに自分を近づけていくんじゃくって、

その理想になれない理由を周りに押し付け、言い訳してそのまま安住している、若尾。

頭の中の理想を、リアルに引き降ろす努力を全くしない。

だから、ちゃんと挫折したことが無く、いつまでもリアルに足を下ろせず、

だけどそんな状況がいつまでも続けられるはずが無いから壊れていく。


コレが現代的でリアルで怖くて目が離せない。


主人公に、スロットで溜めたお菓子をゴミのように送りつけるシーンがめちゃくちゃ怖かった。

買いもせず、ただで貰ったようなお菓子を、『嬉しいでしょ?』と心底思ってる笑顔で送りつける。


自分の物は絶対に何も減らさない。

心も、物も、自分の世界は崩さず、

ただ他人がそこに追従するべきだと思ってる、その怖さ。


大きくは、ゴミ屋敷、大音響おばさんにはじまり、

小さくは道端にゴミを捨てる人、階段の前で途方にくれてるベビーカーのお母さんを疎ましく思う人まで。


家や、部屋が一つの世界ではないのに、

世界だとして、閉じこもってる人間の怖さ。


それが、リアルとシンクロするから、この小説が現実的で怖かった。