※【あいらぶゆー 】
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【あいらぶゆー】*秋斉×古高編*(後編)
「……ふぅ…」
小さく息をついた桝屋さんが出した目は、小で。次いで秋斉さんが出したのは、中。そんなやり取りが7巡し終わった後、ついに駒を掴んだ桝屋さんの手が止まった。
「桝屋さん…もうこれ以上は…」
「いや、」
「じゃあ、せめて一休みして下さい」
半ば頼み込むように言うと、秋斉さんも小さく息をつきながら、「一気にかたをつけまひょ」と、少し辛そうに眉を顰める。
「お二人とも顔色が悪いですし、これ以上やり続けたら体を壊してしまいます…」
「○○はんは、ほんまに優しいお人やね」
桝屋さんのしなやかな指先が、私の頬を擽る。
「そやけども、けりがつかぬ限りは止められへん…」
「秋斉さん…」
その言葉に、止まっていた桝屋さんの手が再び動き始める。
「そろそろ、決着をつけさせて貰いまひょか」
駒が止まって小の目を出した事を確認し、小器を手にする桝屋さんにお酌をしていたその時、秋斉さんがまた「はぁ…」と、溜息をつき、いよいよ右肩を露わにし始めた。
(…えっ??)
「おっと…」
「あっ、すみません!」
桝屋さんにお酌しながら一瞬、秋斉さんの肌蹴た胸元に釘づけになってしまった私は、ほんの少しだけれど桝屋さんの膝元にお酒を零してしまったのだ。
「気にせいでええ…」
「本当に申し訳ありません!」
帯に挟んであった手拭いを取り出し、軽くたたくようにしながら苦笑する桝屋さんを見上げると、桝屋さんは一気にお酒を飲み干し、「熱うて敵ん…」と、言って器を持っていない方の腕を動かしながら、同じように襟元を大きく開いて肩を露わにした。
「え……」
どこで鍛えたのだろう?と、思うほどの程良い筋肉に覆われた腕と、男性ながら色香が漂うお二人の胸板に一瞬だけど眩暈を覚えた。
「どないしたんや?そない顔を赤くして…」
「え、いえ…その…」
すぐ傍にある桝屋さんの色っぽい視線を受け、どんどん熱くなっていく両頬を押さえ込むようにして、駒を回す秋斉さんの指先を見つめる。
(…こっちが酔ってしまいそう…)
駒が再びぐるぐると勢いよく回る中、「そろそろ、諦めはったらどないどす?」と、秋斉さんが静かに口を開くと、桝屋さんは止まった駒を見つめながら、
「藍屋はんがここまでお強いとは…せやけど、その言葉…そっくりそのままお返ししまひょ」と、言って余裕の笑みを浮かべる。
「…………」
桝屋さんが大器を秋斉さんに手渡すと、しばし無言だった秋斉さんは私にお水をくれと言って俯いた。
「もう、このへんでやめたほうが…」
そう言って白湯の入った湯呑を手渡すと、秋斉さんはそれを一気に飲み干し、湯呑を私に手渡しながら吐息交じりに呟いた。
「いくら上客かて……譲れへんもんは譲れへんのや」
「えっ…」
語気荒く呟かれた言葉の真意は分からないままだけれど、まるで大切なものを守り抜くかのような言い方に戸惑いながらも、まだまだ続く勝負をただ、見守り続けていた。
その後も、戦いが続く中。
「御代わりをお持ちしまし……たっ!」
(え、嘘ぉぉ…)
「だ、大丈夫ですか?!」
新しいお酒と白湯を持って戻った私の目前で、秋斉さんはだらしなく柱などに寄りかかりながら、まるで眠っているかのように天井を仰いでいた。
「白湯を飲んで下さい!」
お盆を置いて、まず傍にいた秋斉さんに手渡し、次いで、桝屋さんに白湯を渡そうとしてその姿が無いことに気付く。
「桝屋さんは…」
「庭へ行く…ゆうてはったが…」
「じゃあ、白湯を届けに行って来ますね」
「行かんでええ…」
「え…?」
低く掠れたような声と同時に手首を掴まれ、湯呑から零れた白湯が秋斉さんの乱れた裾を濡らし…
「あ、」
その力強さに抗う間もなく、引き寄せられ気が付けば私は秋斉さんの腕の中にいた。
「秋斉…さん…」
「…行くな……」
指先から湯呑がするりと滑り落ち、ごろんという音と共に畳を濡らしていく。
すぐ傍で日本酒の香りと秋斉さんの匂いがして、痛いほどの抱擁に肩を竦めながらただ、この身を預けていると、
「…すまない、酔うてしもたらしい……」
掠れたような声が耳元を掠めてすぐ、ゆっくりとその腕から解放された。
「わ、私…あの…着物に白湯が…あと、畳にも…その……」
突然抱きしめられて、何を口走っているかも分からないくらい戸惑っていると、秋斉さんはやんわりと瞬きをしながら小さく溜息をついた。
「す、すみません…」
「いや…」
伏し目がちに呟く秋斉さんを横目に新しい手拭いで畳みを拭いていると、その視線の隅に人影を写す。
「桝屋さん…どちらへ行かれていたんですか?」
「庭で火照った体を冷やしとりましたが…」
さ、そろそろ勝たせて頂きまひょ、と言って桝屋さんは定位置へと腰を下ろすと、秋斉さんも無言で頷いて桝屋さんの隣に腰を下ろした。
少しの間でも休憩出来たからなのか、先ほどよりも少し顔色が戻ってきたようにも見えるお二人だけれど、始まってからすでにもう、二刻(一時間)ほどが過ぎようとしている。
桝屋さんはまだ余裕があるように見えるけれど、いくら休み休みとはいえ秋斉さんはとても辛そうに見えて…。
「もう、このへんでやめて下さい」
いた堪れなくなり少し諭すように言うと、それでも二人は微笑みながら首を横に振った。
「さっきもゆうたが、一度受けた勝負は…」
「勝敗が決まるまでやってたら、本当に倒れちゃいます!もう本当は限界をとうに超えているんでしょう?」
半ば、泣きそうになりながらそう訴えると、秋斉さんは少し観念したように黙り込む。
(…いくらお酒が強い二人とはいえ、このまま我慢し続けたら大変なことになってしまう。何とか、この勝敗を決める良い方法はないかな?)
そんな風に考えていた時、
「ほんまに手加減せえへんお人やった」
桝屋さんが低く息をつきながら言った。
「○○はんのかいらしい笑顔をこれ以上曇らせるんはわての本意やない。こないなったら、運試しや」
「運試し?」
私が小首を傾げながら聞き返すと、桝屋さんは少しずつ体を動かして元いた場所に戻り、転がったままの賽の目を手に取る。
「賽の目を振って出た目の大きいほうが勝ち、ゆうのはどないどす?」
桝屋さんの手からするりとこぼれ落ちた賽の目が、畳の上で転がり4の目を出した。
(ということは、4以上の目を出せば秋斉さんの勝ちが決まり、4以下を出せば桝屋さんの勝ちが決まる…)
「藍屋はんの番どす」
「…………」
出していた腕をしまい込み、襟元と裾を正しながらゆっくりと立ち上がると、秋斉さんは元いた場所に腰を下ろし、畳の上の賽の目を両手の中で転がし始める。
やがて、落とされた賽の目が出した数は……
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~あとがき~
お粗末さまどした
とりあえず、秋斉×古高編…書いてみましたけど
二人の甘い吐息や、それぞれの想い…ちびっとでも伝わりましたでしょうか?
最後まで、主人公ちゃんは二人が何を賭けて戦っているか分からずにいた感じで(笑)
このまま、最後まで飲み続けたらきっと…キャラを崩し過ぎてしまうような気がして今回は、このぐらいにしてみました
そして、最後は……。
またいつか、この二人の違う対決も描いてみたいと思いました
次は、バレンタインあたりを狙って、どのコンビで書こうか考慮中です!
今回も、遊びに来て下さってありがとうございました