別離 | 39歳、KLC通ってます→41歳、再開しました→46歳、最後の移植

39歳、KLC通ってます→41歳、再開しました→46歳、最後の移植

2015年第一子を出産、2018年第二子出産。現在凍結胚移植のためklcに通院中です。



maoizm


完ぺきな善人でもなければ、完ぺきな悪人でもない。

本作に出てくる人たちは、そんな「普通」の人たち。

自分を、もしくは大事な人を守るために、少しずつ嘘をついてしまう。

そこにイランの社会情勢や、宗教、家庭の問題などが複雑に絡みあい

多面的な要素を含みつつ、ストーリーが進んで行きます。




冒頭はある夫婦の離婚調停シーンで始まる。


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お互いの言い分を主張する二人。

離婚を希望しているのは、妻シミン(レイラ・ハタミ)

彼女は娘・テルメー(サリナ・ファルハディ)の将来のために、海外移住を希望している。

だが夫ナデル(ペイマン・モアディ)は要介護の父の元を離れられないと、移住を拒否。


表向きは娘のために移住を希望しているシミンですが、

何年にもわたり、おそらくは一人で義父の介護を続けてきたのであろうという背景を考えると、

そのことも移住を希望する理由と無関係とは言えないような気もします。


このナデル・シミン夫婦に加え、もうひと組の夫婦が登場します。

それは、家政婦としてこの家庭に入り込んだラジエー(サレー・バヤト)と

その夫ホジャット(シャハブ・ホセイニ)。



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彼女は敬虔なイスラム教徒。ナデル宅で介護中に、失禁したナデルの父を着替えさせるために

その肌に触れることが、コーランの教えに背くことにはならないか、電話で確認するほど。

この信心深さが、後に自分で自分の首を絞めるような結果となってしまうのが、皮肉なのですが。。

また、この二組の暮らしぶりは大きく異なっており、そこからイランの格差社会の様子がうかがえます。



そして、ラジエーがナデル宅で勤務中、ある事件が起きます。

それまで、比較的淡々と描かれていた家族の物語が、これを機に大きく舵を切ることになります。

実はこの事件前の、一見平坦なストーリー展開に、たくさんの伏線があったのだと思いますが、

前日の登山に続き、誕生会ランチのあとで少々集中力を欠いた中での観賞であったため、

見逃したところもあったと思います。

そう思うと、非常に残念・・


事件が起きてからのストーリー展開は、その真相を探るべくサスペンスタッチで進行して行きますが

事件の真相はもとより目が離せないのは、そこに携わった、はたまた期せずして

巻き込まれた人たちです。



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誰もがおそらく自分を、そして愛する者を守るために必死で、それゆえに事件が起き、

それゆえに事件の解明も複雑となってゆく・・

完全に正しい人もいないけど、完全に誤った人もいない。

誰目線でこの事件の成り行きを見るかによって、感想も大きく異なってきそうです。

それがこの作品の巧さなんだと思います。


ナデル・シミン夫婦と、ラジエー夫妻にはそれぞれ、年齢は違いますが、一人娘がいます。

自らの負の部分を隠そうとやっきになる大人たちとは対照的に、純真な少女たち。

ナデル夫妻の娘テルメーは、溝の深まる両親を修復させようと、

「子はかすがい」となるように頑張る。その姿が、何とも痛々しく、いじらしい。

一方、ラジエーの幼い娘の語る拙い言葉には、事件の真相につながるメッセージが含まれている。

この二人の少女の存在も、本作において重要な役割を果たしています。


テルメーがある選択を迫られるところで、物語は終わります。

彼女が選択したものが何だったか、は作品では示されません。

容赦のない現実を突きつける形で、何とも後味の悪い余韻を残すラストは、

終始人間の本質を見つめ続けた本作に、ふさわしいように思いました。



イランがどのような国なのか、わたしはよくわかっていません。

ただ、自分が今暮らす社会とは、かけ離れた世界なのではないか。

観賞前はそんな風に思っていましたが、

いざ観てみると、そんなに違和感を覚えることはありませんでした。

もちろん、宗教観や社会情勢などは、ここ日本とイランでは大きく異なりますが、

そこに横たわる家庭の問題となると、大差ないんだなあ、と。

そしてまた、環境が違っても、そこに根差す人間の本質というものは、変わらないのだとも思いました。


今年のアカデミーで外国語映画賞を受賞。

またベルリン国際映画祭では、金熊賞、銀熊賞を受賞し、史上初の主要3部門を成し遂げた本作。

しかし、映画の作り自体は拍子抜けするくらい、シンプル。

オープニングから、エンディングまで、音楽のかかるシーンはごくわずか。

ほとんどが無音のまま、進行します。

そして、エンドロールもいまどき珍しい簡潔さ。あっという間に流れ終わります。

奇をてらった演出や、派手な見せ場はないけれど、細かい部分までよく練られた構成で、

いろんな部分に見どころのある、実に味わい深い作品でした。



同監督の、彼女が消えた浜辺もすごく評価が高いので気になってます!




アカデミーの外国語映画賞は、みごたえある作品多し!!

昨年の未来を生きる君たちへ も良かったです。






ちと話がそれましたが・・イランという遠く離れた、自分たちにとって

一見とっつきにくい国の物語のようでいて、実は普遍的なテーマを扱っている本作。

深く心に響き渡る秀作だと、個人的には思います。

都内では、25日までル・シネマで上映中です。



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別離

原題:JODAEIYE NADER AZ SIMIN(イラン、英題:A Separation)

監督:アスガー・ファルハディ

出演:レイラ・ハタミ、ペイマン・モアディ、シャハブ・ホセイニ、サレー・バヤト、サリナ・ファルハディ、ババク・カリミ、アリ・アスガー=シャーバズィ、シリン・ヤズダンバクシュ、キミア・ホセイニ、メリッラ・ザレイ

字幕:柴田香代子