「養生の道は、恣(ほしいまま)を戒めとし、慎むことを専ら(もっぱら)とする。恣、すなわち気ままにすることは、欲にまけて慎まないことである。慎みは恣の裏である。慎みは畏れることが根本である。畏れるということは大事にすることをいう。俗のことわざに、「用心は臆病にせよ」とあるが、それと同様である。
孫真人も、「養生は畏るるを以て本とす(養生は畏れを持つことが根本である)」という。これはまさに養生の要件である。養生の道においては、勇ましいのはだめで、畏れ慎み、いつも小さな橋を渡っているかのように、用心することである。これが畏れるということなのだ。
若いうちは血気盛んで、強いのにまかせて病いを畏れず、欲を抑えないから病気になりやすい。すべて病気は起こるべくして起こるもので、必ず慎まないから起こる。特に老人は身体が弱いので、十分に畏れて気をつけなければならない。畏れないと年齢にかかわりなく多病になって、天寿を全うできない。」
「用心は臆病にせよ」、用心はしすぎるくらいがよく、臆病なほど用心深いくらいでちょうどいいということでしょうか。本来は防犯の意味で使われたものと思われますが、「念には念を入れよ」とか、「転ばぬ先の杖」と同じことですね。養生もそのくらいがいいと益軒先生はおっしゃいますが、あまり気にしすぎるのはどうかなぁと思ってしまいました。「養生で身が痩せる」ということわざもありますからね。
孫真人(そんしんじん)は、孫思ばく(そんしばく)の世称です。唐代の名医で、 『千金方』を著しました。『千金方』は、『養生訓』の「呼と吸と」 でも引用されています。孫思ばくは、581年生まれで682年没とのことですので、享年数え102歳のご長寿。一説には140歳まで生きたとされているほどの方ですから、益軒先生のあこがれの的だったかもしれませんね。
『千金方』は、『千金要方』30巻と『千金翼方』30巻からなる医学書。唐代以前の医学資料と、孫思ばく自身の臨床経験を総括して、研究した結果をまとめたものと言われています。
『養生訓』の原文はこちらでどうぞ→学校法人中村学園 『貝原益軒:養生訓ディジタル版』
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