小沢氏は累卵の危うきにある | 早川忠孝の一念発起・日々新たなり 通称「早川学校」

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弁護士・元衆議院議員としてあらゆる社会事象について思いの丈を披歴しております。若い方々の羅針盤の一つにでもなればいいと思っておりましたが、もう一歩踏み出すことにしました。新しい世界を作るために、若い人たちとの競争に参加します。猪突猛進、暴走ゴメン。

神戸学院大学法科大学院教授で憲法学を専門とされている上脇博之氏のコメントは時々私も覗かせていただき、そこから私自身が考えるヒントを頂戴することが多い。
オンブズマンの活動に関わっておられるはずだから、この種の事件についての造詣は普通の人の何倍も深く、そのコメントも的確である。

私の所見とは若干異なるが、上脇氏の意見に耳を傾けないのは損だと思う。
その上脇氏が次のような所感を述べておられた。

「特捜部は小沢氏を十分有罪にする証拠を収集するよう努めたととは言い難いように思う。
だからこそ、検察審査会の2度の「起訴相当」議決の理由も、小沢氏を十分有罪にできるとの自信に溢れた内容ではなかった。
そもそも共謀は立証のハードルが高い。
だから、私は、秘書ら3名の有罪は確実であっても、検察審査会の議決理由を読んで、当時マスコミの取材に「小沢氏が無罪になる可能性が高い」旨コメントした。
元秘書ら3名の裁判で一審判決も、大久保氏の共謀について一部認定されてはいない。

他方、元秘書ら3名の一審判決は虚偽記入・不記載を認定し有罪判決を下した(ただし元秘書らは控訴)。
政治資金収支報告書や金融機関の口座の写しなど客観的な証拠があり、3名の冒頭陳述内容も通用しない弁明で酷いものだったから、当然である。
小沢氏を無罪とした今日の判決も、秘書らによる土地公表の先送りや4億円の簿外処理、政治資金収支報告書への支出の計上を翌年にズラすことについて小沢氏が報告を受け、了承したことを認定している。
私は、裁判が始まってから、この事件の詳細が判明し、予想していた以上に秘書らが小沢氏の関与を窺わせる供述をしていた上に、いくつか墓穴を掘っていたので、小沢氏の有罪の可能性もあるかもしれない、と考えてきた。

しかし、今日の判決は、違法となる具体的事情について小沢氏が認識していなかった可能性があるので小沢氏の故意が十分立証されてはいないとして共謀を認定しなかった。
地裁の要求する共謀の立証のハードルは予想以上に高かった。
結局、小沢氏は陸山会の代表者でありながら、「秘書任せ」が裁判で結果的に通用し、少なくとも一審では逃げ切ったことになる。
しかし、秘書らの裁判に続いて小沢氏本人の裁判でも予想通り虚偽記入・不記載が認定された上に、小沢氏の供述は信頼できない旨指摘された。
そうである以上、陸山会の代表者である小沢氏は、刑事責任とは別に、政治責任が問われるべきである。」

大方の法律実務家や法律学の研究者の感覚は、大体こんなものだと思う。
冷静かつ客観的に考えれば、大体こうなる。

事件関係者の方々は熱くなりすぎて血が頭に上り、時々目が見えなくなることがあるが頭を冷やすことだ。
無罪だ、無罪だと祝杯を挙げた人たち、政務三役の公務を放擲して祝杯を挙げる人たちの輪に入ってしまった人は己の不明を恥じた方がいい。

小沢氏は、累卵の危うきにある。

そのことを未だに誰も指摘していないので、私が指摘しておく。
他人に生殺与奪の権限を握られた人は、弱い。
誰が生殺与奪の権限を握っているかについては特に言及しないが、小沢氏が自分一人の力だけでこの窮地から逃れることが出来るとはおよそ考えられない。
そのくらいに小沢氏は弱い。

小沢氏の弱味を的確に把握し、その弱味を徹底的に利用できる権限と立場、そして多少の機転を有している人が目下のところ一番強い。

参考にされるも良し、されぬも良し。
いつものとおりである。

参考:ブロゴスニュースに寄せられている読者のコメント

この上脇氏の所感を読まれた読者の方が、ブロゴスニュースのコメント欄に次のような趣旨のコメントを書き込まれていた。
私のブログの読者には極めて見識の高い方々が多いが、最近のブロゴスニュースのコメント欄も読み甲斐のあるものが増えた。
いいことである。


「判決理由を読みました。
小沢氏の結論勝訴であるが、理由をみると指定弁護士の実質勝利の結論と読める。
判決では、
・政治資金報告書の事実と異なる記載は認定
・政治資金報告書の記載について、小沢氏が報告を受け、了承していた事実を認定
・しかし、小沢氏が「報告を受け、了承していた」内容は、「正しいものが記載されている」という前提の「報告、了承」であって、「事実と異なる記載」までの「報告、了承」は「立証されていない」
ということで、無罪になっている。
刑事事件ということで、判決理由からは無罪については納得。
要するに秘書に丸投げ、結果は頬かむり。聞いていたが細かくは聞かなかったことが責任逃れになるのであれば、政治家は細かく聞かなければ=監督責任を全うしなければ、責任逃れできるという、悪い事例になってしまう。
このほうが余程重大で、小沢氏を当選させた選挙区民の良識を信じたい。」


「政治資金規正法の違反としては、犯罪を犯す意思(故意)が必要だが、誤った記載だとは知らず、報告・了承していたとすれば、過失犯の議論はありえても、故意があるとは言い難い。
過失犯は過失犯処罰規定が必要だから、無罪は納得。
ただ、上記の微妙な認定なので、指定弁護士が悔しがることも理解できる。
指定弁護士は、「誤った記載であると理解して報告・了承していた」立証が可能だと判断すれば控訴するだろうし、そうでなければ断念するのであろう。
それとは別に、小沢氏の刑事責任以外の責任は、逆に重くなったと思っている。」


「判決理由によると、小沢氏の「共謀共同正犯の成立を疑うことには、相応の根拠がある」等と判示しており、小沢氏を、黒に限りなく近い灰色であると判断している。
刑事裁判はかくあるべきです。
「疑わしきは罰せず。」
一方、この「無罪判決」で小沢氏の「潔白」を主張する人たちは、馬鹿なのか、ポジショントークなのかのどちらかでしょう。」