【56】夕暮れ過ぎの・・・ | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


武内課長は、少し声を落として、簡潔に言った。


「今夜、空いてる? 君に、相談があるんだ」

「・・・は?・・・」

「どうしても乗って欲しいんだよ」

「何の相談ですか?」

「それは、その時に話すよ」


弱々しい雰囲気を出す、武内課長。

この人は、まさか・・・
部下に、不倫の相談をするつもりなのか。


( 情けないなぁ・・・ )


深い溜息とともに、断りの言葉を伝えようとしたのだが、
急に気が変わった。

怖い物見たさとか、そういう物だったのかもしれない。

不倫当事者の話など、直接聞いたことが無かったし、
どうせ他人事なのだ。

中年男の、見苦しい言い訳を聞いてやろう。


「何かご馳走してくれるなら、いいですよ」

「そりゃあ、勿論。 それじゃあ ――――・・」


ホッとしたような武内課長は、待ち合わせ場所を指定してきた。

.
.

「・・・って、もっと他にあったと思うんだけどなぁ」


待ち合わせに指定された、シティホテルのロビー。

乗換駅に隣接されている、なかなか洗練されたホテルなのだが、
その存在は知っていても、入ったことは無かった。

ホテルのロビーで、会社の誰かに遭遇する可能性は低いけれど、
まぁ、目立たないことは間違いないか。

武内課長らしいというか、あまり違和感のない
場所指定のような気もする。


( 多部井さんとの待ち合わせも、こういう場所とか? )



――― 19時を少し回った頃、


「やあ、ごめん。待たせてしまって」


フロントから少し離れた、四角い柱に凭れていた私に、
武内課長が、横から声を掛けた。

何も考えず・・・ 外を行きかう人の流れを見ていた私は、
急に現実に引き戻される。

声の方に顔を上げて、ほんの少しだけドキリとした。

薄暗く、雰囲気のあるロビーだったせいか、
課長が持つ、ある種の空気なのか・・・

大人の男性の色気のような、不思議な何かを感じた。


「・・――― こっち」


言葉少なに、 “ついて来い” とばかりの仕草で歩き出す。

私が付いてくるのを確認しながら、適度な距離を保ちつつ、
私の前を歩いた。

この場合、並んで歩くのは良くない――― はず。

目的地まで言葉も交わさず、他人を装うようにして歩いた。





・「この人誰?」と思ったら → 登場人物
-------------------------------------------------------
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。m(*- -*)m

ポチッ♪が、励みになります!
ぜひぜひ応援クリックをお願いします♪
にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(悲恋)へ    
読者登録してね   ペタしてね