リーダーシップ論の権威ジョン・P・コッター
ハーバード大教授による松下幸之助翁の伝記を読みました。
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・ジョン・P・コッター松下幸之助記念講座名誉教授
史上最年少33歳でハーバード大学正教授
・金井壽宏教授
どんなに偉大な人物でも、最初から偉大だつたわけではない
リーダーシップは一朝一夕に身につくものではない。
長い仕事生活、つまりキャリアのなかで
「一皮むけるような経験」から獲得される。それは
徐々に身につくこともあるが、
通常は大きな経験をくぐることで飛躍的に伸びる
「艱難汝を玉にす」
「人は経験から学ぶ。それも、苦境を経験してこそ大きく一皮むける」
偉人は最初からそうなのではない。
幸之助にしても、結果において
偉業を成し遂げたからこそ凡人ではないのだ
我々一人ひとりの成長は、真空のなかで行われるのではない。
時代の息吹のなかで生じるのだ
・「ともに商売に携わる人を家族の一員とみなすこと。
繁盛するかしないかは、商売の相手から
どれだけ多くのことを学ぶかにかかっている。
・・・アフターサービスは売る前のサービスより重要である。
・・・お得意様はこのようなサービスを通じて得られる。
単に魅力的な商品を売るのではなく
客にとって利益となるような商品を売ること。
・・・紙一枚でも無駄にすれば、それだけ価格は高くなる。
・・・品切れは不注意によるものである・・・」
・サミュエル・ウルマン作
青春とは人生のある期間ではなく、心の持ちかたを言う。
薔薇の面差し、紅の唇、しなやかな肢体ではなく、
たくましい意志、ゆたかな想像力、炎える情熱をさす。
青春とは人生の深い泉の清新さをいう。
青春とは怯懦を退ける勇気、安易を振り捨てる冒険心を意味する。
ときには、二〇歳の青年よりも六〇歳の人に青春がある。
年を重ねただけで人は老いない。理想を失うとき初めて老いる。
歳月は皮膚にしわを増すが、熱情を失えば心はしぼむ。
苦悩・恐怖・失望により気力は地に這い、精神は芥になる。
六〇歳であろうと一六歳であろうと人の胸には、
驚異に魅かれる心、おさな児のような未知へ探求心、
人生への興味の歓喜がある。君にも吾にも見えざる駅逓が心にある。
人は神から美・希望・喜悦・勇気・力の霊感を受ける限り君は若い。
霊感が絶え、精神が皮肉の優希におおわれ、悲歎の氷にとざされるとき、
二〇歳であろうと人は老いる。頭を高く上げ希望の波をとらえる限り、
八〇歳であろうと人は青春に己む。
・『日立と松下』(岡本康雄・中公新書)
「松下幸之助は自制心の備わったコンプレックスの塊でした」
・幼い頃の喪失感は彼の心の激情、希望や恐れをあおり、
それが結果として企業家精神やリーダーシップ、あるいは
その他の模範的な行動様式の基盤となった。
多くの企業家の場合、とりわけ幸之助の場合がそうだが、
まず幼年期の根っこ
--この期の体験は、しばしば困難と苦悩を伴うものである--
を知らないことには、長じて後の目を見張るような仕事を
理解することはできない
・彼は、人を消耗させてしまうような苦難を学習の源泉に変え、
最終的には彼の成功の背後に潜む原動力へと変化させていった
・多くの著名な企業家と同様、彼もまた因習的な職業から抜け出て、
まだ伸び盛りで変化しつつある産業に飛び込んだ
・関西商工学校夜間部 退学
難しい熟語は省きながら、カナだけを使って懸命に頑張りましたが、
すぐにつまづき、置いていかれました。
・会社こそが学校であり、教師は同僚たちだった
・幸之助は、困難を乗り越えればより強く成長できるということを知っていた。
ほぼ二〇年、彼はそういう経験をしてきたからである
・ゆっくりと静かに、少ない元手で出発することが、
長い目で見れば生涯になるとも言い切れない。
あるいは、それと正反対だと言ったほうが正しいかもしれない
・勤勉と競争心、そして夢を実現させようとする強固な意志
・やる気のない人間ならば、資金もなく体調不安も抱えて、
新たに事業を起こそうなどと思わなかったはずだ。
意志の弱い人間なら、給料も払えないのに
他人を巻き込むことを躊躇するだろう。
あまり楽観的でない人なら、最初の製品が売れず、
二人の創業者が去っていった時、すぐにあきらめたかもしれない。
事業が軌道に載れば、そこそこの生活と数十人の従業員で
満足してしまうことがほとんどだろう
・学歴のある人や経験豊富な人から反応がないと見ると、
そうではない人を受け入れ、若い情熱や
先入観のないことを強みに変えるべく努めた
・「・・・問題をこだわりのない創造的な心構えで検討すれば、
実行可能な答えがおのずと得られるでしょう。
と同時に、必ずできるという
確信を持って事に当たることも大切であり、
困難を前にして思い煩って時間を無駄にしてはなりません。
真に能力のある者は困難に打ち負かされたりしないものです」
・経済情勢が厳しい時ほど会社に幸いした・・・
逆境によって人は強くなる
・「労働者たちは一人前として信頼されるようになるには、
多くの試練と訓練を甘受すべきである」
・1932年5月5日
(天理教に影響を受けて)
「真使命宣言」
「産業人の使命は貧困の克服にある。
社会全体を貧しさから救って、冨をもたらすことにある」
「企業人が目指すべきは、あらゆる製品を
水のように無尽蔵に安く生産することである。
これが実現されれば、地上から貧困は撲滅される」
「この使命を実現するには、もちろん多大な年月を必要とするだろう。
ひょっとすると二〇〇年から三〇〇年はかかるかもしれない。
しかし、長期にわたるからといってひるんではならない。
高邁な理想はどれも実現が困難なものである。
先見の明のある人々に壮大な理想を成し遂げようとする意志があればこそ、
人生はより良いものとなる」
「・・・最も重要なことは、おのおのが人生で幸福を満喫すると同時に、
次世代の利益にもなるように努力することである」
・会社の使命は生活必需品やサービスをより低いコストで
より多く生産することで人類に寄与することにあり、
新たな技術の開発や工事建設の資金を生み出すために利益が必要になる
・幸之助は、J&Jの「我が信条」が発表される一〇年も前に、
みずからの経営理念を明文化した
・1933年
「松下電器の遵奉すべき精神」
産業報国の精神
公明正大の精神
和親一致の精神
力闘向上の精神
礼節謙虚の精神
1937年 追加
順応同化の精神
感謝報恩の精神
・「人間は時として、その醜く弱い本省の奴隷となることがある」
「しかしながら、自分自身のために高い目標を掲げ、
毎日それを考えていれば、諸君は一歩一歩それに近づき、
より良い人間に、より幸福な人間になれるだろう」
・松下電器が世界で最初に組織分割を採用した企業の一つに
数えられることはほぼ間違いない
・・・彼が病弱だったからである
・「注意深い経営を行えば、市場の動向すぐに反応できる。
機能的な生産体制を実現できます。
これが小企業の最大の強みです」
・「ただまじめに働くだけでは十分ではない。
どんな仕事をしているにせよ、自分が社長であると思って、
自分自身の仕事に大して責任を負わなければならない。
そうすることによって、製品がどのように作られ、
どのようにして新しい発見が生まれるかが理解できるようになるし、
自分自身の成長を促すことにもなるだろう」
・「諸君は松下電器のために働いているのではない。
自分自身と公衆のために働いているのだ。
諸君が出会う人はだれもがお客さんだということを忘れてはならない」
・将来、松下電器がどんなに大きな組織になろうと、
一人の商人としての控えめな態度を失ってはならない。
小さな商店に雇われているという心構えを持ち、
質実、謙虚の心をもって仕事に当たってほしい
・日本の一市民として戦争に参加した男は、国際的な視点を備えた。
自分の会社を成長させることで社会に貢献したいと願った男は、
人間のありようを本質的な目的として案ずるようになった。
会社中心のビジョンは、より広範な社会的目標に道を譲った。
苦い反省を通じて自己認識が深まった。
傲慢と自己中心的な自尊心は叩きのめされた。
この過程で、幸之助は単に成功を収めただけのビジネス・リーダーを凌駕した
・-外国嫌いの内向的態度--は、長期的な展望に立てば、
企業経営にとってもっと危険なものであろう
・56歳で三カ月、アメリカ視察
・傲慢が災いをもたらす
・一見不可能なことを成し遂げるための決め手として
「衆知」(集団の知恵)を重視した
・「・・・
自分たちの利益になるかどうかという点からだけで
問題を見つめるかぎり、
問題点を克服する力は限定されるだろう。
そうではなく、衆知を利用すれば、
我々の使命を実現に導いてくれるはずである」
・ひたすら従業員が増えていくと、
そのほとんどが成功しか体験したことのない者ばかりになった。
その結果、堕落が始まった
・「利益率が上がらないということは、
社会に対する一種の犯罪行為と同然である」
・傲慢な成り上がり者は、
必死になってもっと金持ちにもっと有名になりたいと思うあまり、
かえってその振る舞いによって当の目標が
かなえられなくなることがよくある。
幸之助の場合は、時が経つにつれて、彼の最も大切な目標が、
より社会的な、人道的なものになっていたので、
それらの価値観が謙虚さを促し、そのこそがまた会社と彼自身が
成長し続けるうえで必要なことをさせるように仕向けたのだった
・リスクを回避しようとすればするほど会社は弱くなり、
過去の財産を守ることすら覚束なくなる
・PHP
「繁栄(プロスペリティ)によって平和(ピース)と幸福(ハピネス)を」
・「人間は本来邪悪ではないし、愚かでもない。
人は時には弱く、自分の良心に従えなくなることがあるし、
あまりにもたびたび悪い誘惑に負けてしまうけれども、
根本的に心が悪く、よこしまな欲望を抑制する
理想の声に従えないような人はほとんどいないのである」
・「素直という言葉は、概して人間の性格の弱さや従順さを意味し、
開けっぴろげの素朴さ、誠実であろうとする気持ちを意味する。
素直な心とは、とらわれない心、
新たな状況にうまく適応していける自由な心といえるかもしれない。
こういう心を持った人は、そのつど物事をあるがままに見つめ、
個人的な思い入れや偏見なしに率直に受け入れることができる。
偏見を抱いている人は、何事も色眼鏡や歪んだ眼鏡を通してしか
見ることができない。そういう人にとっては、白い紙は青く見え、
直線は曲がって見えるかもしれない。
これではその物の本質は見えないままになってしまう。
こういう歪んだ知覚を通じて見えるものから判断を下そうとすれば、
惑わされることになりかねない」
・謙虚で他人を尊重し、新しい経験をして勤勉で楽観的なリーダーは、
良き師範になれる。結局、物事は人々が起こすのであって、
リーダーが起こすのではない。しかし、良きリーダーは、
社会に役立つようにグループの潜在能力を最大限にまで
引き出す手助けをすることはできる
・もし事業を成功させたいなら、
悲観的な世界観と人間の潜在能力に関する否定的な仮説は有害だ。
悲観的な考えを抱くと、個人と組織を育てるうえで必要になる
チャレンジ精神、素直な心で他人の意見を聴き入れる謙虚さが
奪われる。そのような態度は自己満足にしかならない。
私欲や憎しみにしか訴えかけない否定的な哲学が、
共同作業を持続的にこぶすることはありえない。
・商人の丁稚からビジネス・リーダー、大企業の創業者、
教育者、哲学者へと変貌する人生
・人生の早い時期にはそれほどぱっとしなかった人物が、
八五歳になって、教育という新たな仕事に手を染めた
・これだけ悲劇に争議うすれば、往々にして人は破滅してしまうか、
社会に適応できない人生を歩むかのどちらかだが、
幸之助の場合、かえってそれが偉業を成し遂げる源泉となった
・これから先数十年の成功譚は、五歳から二五歳まで学業を修め、
その学歴を四〇年後の退職まで利用するような
人に関する物語ではなくなるだろう。
勝利を収める人は、生涯を通じて
成長しようとする意欲と能力のある人だろう
・謙虚で素直な心があれば、人はどんな経験からも、どんな年齢でも学べると。
人道的な大きな理想を抱けば、成功も失敗も克服し、そのどちらからも学び、
整地用し続けることができる
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こうしても松下幸之助翁の人生を論じた
リーダーシップ論の権威の考察を読むと
人生、苦労や困難、挫折ほど有り難い学びの機会はないと思えてきます。
順風満帆で挫折のない人生を送っている
裕福な人々は逆に不幸であるようにすら思えます。
貧乏で苦労しおばあさんに育てられた矢沢永吉さんの自伝「成り上がり」では
というフレーズがあります。
つまり、若いころに現在幸せで豊かであるということは、
親など先人が遺してくれた資産を食いつぶしているにすぎない。
当人の努力や成長によるものではないケースが大半。
本当に人が成長し、リーダーシップを身につけるためには、
幸せではない環境が重要であり、
それを乗り越えるなかで飛躍成長し続けることが大切なのです。
その苦労をものともしない力を得るために
高邁な理想、ビジョンを持つことが欠かせないということのようです。
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