シン・リジー「ウイスキー・イン・ザ・ジャー」
Various Artists Whiskey in the Jar: The Very Best Irish Pub Songs 茂木 健 バラッドの世界―ブリティッシュ・トラッドの系譜 |
再三、「ケルト音楽」が現代ポピュラー音楽に与えた影響の大きさを書いているのだが(参照1 、参照2 )、ちょっと念入りにケルト音楽について研究していきたいと思う。紀元前にアイルランドとブリテン島に住み着いたケルト人が、ゲルマン民族(アングロ・サクソン族)の大移動により支配下におかれ(参照 )、母国語(ゲール語)を奪われてたりしながらも、長い歴史の流れのなかで培ってきたケルト文化(アイルランド、スコットランド、ウェールズ文化)への敬意を表しつつ)。 1973年3月、アイリッシュ・バラッドを歌う一枚のシングル盤がイングランド・チャートに登場、6位まで上昇した。アイルランド人の母とブラジル人の父をもつ、フィル・リノット(Phil Lynott)のバンド、シン・リジー(Thin Lizzy)の「ウィスキー・イン・ザ・ジャー(Whiskey in the Jar)」だ。 「バラッド」とは、中世イングランドから伝わる、基本的にはある物語を語る詩、もしくは歌のこと。テーマとしては、殺人、災害、戦争、恋愛沙汰などを採り上げており、TVやラジオのない時代、口承で伝えられる重要なニュースであった。この形式は後にアメリカにて「フォーク・ソング」として、あるいは「カントリー・バラッド」、「カントリー・ブルース」として継承され、ロック音楽の成立に大きな役割を果たすことになる。 極端な話、「ある事件を伝える弱強格4行詩行形式の歌が」クラッシック音楽や教会音楽の伝統には存在しない。それはケルト文化の遺産であり、私たちは現在のポピュラー音楽を聴くことで、確実にケルト音楽の恩恵に預かっているのだ。 「ウィスキー・イン・ザ・ジャー」は、恋人に裏切られるハイウェイマン(馬を操る追剥ぎ)を歌ったもの。音源と歌詞がコチラのページ で研究されているので参照してみよう。キーはCメジャー。 【A-1】
コード進行はⅠ-Ⅵm7-Ⅳ-Ⅰ-Ⅴ7の循環コードj変型版。ブリテンのハイウェイメンは鉄道の成立(1900年ごろ)まで、馬に乗って街道に出没、このように金品を旅行者から巻き上げていたという。彼らは「ジェシー・ジェイムス」のように金持ちをターゲットとして強奪を繰り返す、一般大衆のアウトロー・ヒーローでもあった。 【A-2】
【A】パートの繰り返し。 【B】
C,D,E,F,G,A,B,D(どれみふぁそらしど) のイオニアンスケール。ケルト音楽は基本的に、イオニアン、ドリアン、ミクソリディアン、エオリアンスケールしか使わない。 シン・リジーのヴァージョンはキーGメジャーで演奏されており、イントロが|Em|Em|G|G|の繰り返しで、 Em + + + + + + + + e:-----------------|-----------------| B:----------------7|-8---7-----8-----| G:-----------7-7-9-|---9---7-9-------| D:-----------------|-----------------| A:-----------------|-----------------| E:-----------------|-----------------| G + + + + + + + + e:-----------------|-----------------| B:----------------7|-8---7-----8-----| G:-----------7-7-9-|---9---7-9-------| D:-----------------|-----------------| A:-----------------|-----------------| E:-----------------|-----------------| Em + + + + + + + + e:-----------------|-----------------| B:----------------7|-8---7-----8-----| G:-----------7-7-9-|---9---7-9-------| D:-----------------|-----------------| A:-----------------|-----------------| E:-----------------|-----------------| G + + + + + + + + e:-----------------|-----------------| B:-8\--------------|-3---------------| G:-----------0-0-24|---0-2-0-4-------| D:-----------------|-----------5-----| A:-----------------|-----------------| E:-----------------|-----------------|
ギターのエリック・ベル(Eric Bell)もアイルランド出身で、シン・リジー以前は、ヴァン・モリソン(Van Morrison)のゼム(Them)、脱退後スキッド・ロウ(Skid Row)に参加していた。このシングル発表当時は3人編成(ドラムのブライアン・ダウニーもアイルランド人)だったが、そののち出入りした、ブライアン・ロバートソン(Brian Robertson、ギター)はスコットランド・グラスゴー出身だった。
そのブライアン・ロバートソンは、スコットランド出身でサンダークラップ・ニューマン、ポール・マッカートニー(彼もスコットランド人)のウイングスに参加していたジミー・マカラック(Jimmy McCulloch)とバンドを組んでいたし、フィル・リノットが1978年結成したグリーディー・バスターズには、同じアイルランド人のゲイリー・ムーア(Gary Moore)が参加していたりと、ケルト人脈が英国ロックに対して果たした役割は物凄く大きいのだ。 イングランドとは、ゲルマン系「アングル族の土地」という意味だ。ブリテンとは、ケルト系「ブリトン族の土地」という意味だ。ウェールズなどで「ここはイギリスですか?」と聞くと、「いや、ブリテンだ」と地元の人々は答えるという。こういった民族性、歴史性を、私たちはちゃんと把握して生きていかなければならないと思う。 ■関連リンク:Whiskey in the Jar ■関連記事:キャサリン・ジェンキンス スカボロー・フェア 機関車トーマス ヘビメタさん ☆音楽解析の続編は『コチラ』 にて! 【このコンテンツは批評目的によるアイルランド民謡の引用、偉大なギタリスト、エリック・ベル氏の演奏の引用が含まれています。音楽の著作権は著作権者に帰するものです。また、個人的耳コピのため音楽的には間違った解釈である可能性もありますが、故意に著作権者の音楽の価値を低めようとするものではありません。著作権者主体者の権利、音楽の美学を侵害した場合いかなる修正・削除要請にも応じます】 |