シド・バレット「テラピン」
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【このコンテンツは批評目的によるシド・バレット氏の音楽からの引用が含まれています。音楽の著作権は著作権者に帰するものです。また、個人的耳コピのため音楽的には間違った解釈である可能性もありますが、故意に著作権者の音楽の価値を低めようとするものではありません。著作権者主体者の権利、音楽の美学を侵害した場合このページに限り、いかなる修正・削除要請にも応じますので、ご教授ください】 所謂”精神異常”をきたして一般社会から去っていく人がいる。ニーチェは「正気であることが現代における最大の戦いだ」と言ったと思うが(多分)、逆に考えれば、現代において正気な奴のほうが、実は「気狂い」なのかもしれない。 ピンク・フロイド(Pink Floyd)に1967年までメンバーであり、初期リーダーでもあったシド・バレット(Syd Barrett)も、”精神異常”をきたして音楽界を去ったひとりだ。さて、今日は、ピンク・フロイドを脱退したあと、彼がリリースしたファースト・アルバム「気狂い帽子が笑っている(Madcap Laughs)」の一曲目、「テラピン(Terrapin)」。アコースティック・ギター一本で弾き語られる、ちょっと不気味なラヴ・ソングだ。コレを引き語ってみよう。キーはEメジャー。 【A-1】
1~4小節 Ⅰ-♭Ⅲ-Ⅰ-♭Ⅲ-Ⅳ で、Ⅰと♭Ⅲ間の短3度上昇進行がメインの動きとなっている。♭ⅢはⅥの代理(参照 )として考えれば楽理的整合性はあるのだが、このⅠ-♭Ⅲヴァンプがこの曲を奇妙な感じのものにしている。5~8小節は ♭Ⅶ-Ⅰ-Ⅳ-♭Ⅵ-♭Ⅲ …。サブドミナントマイナー→トニック→サブドミナント→サブドミナントマイナー→トニックⅥ代理としてのフラットⅢ…。無理やり理論的に解釈することも可能だが、ハッキリ言っておかしなコード進行だ。ハッキリ奇妙だ。適当にギターのメジャーコードを組み合わせているだけ? しかもこの部分しかサビになりそうな箇所無いし。 【A-2】
【B】
Ⅳ-♭Ⅵ-♭Ⅲ-#Ⅳ-Ⅰ Ⅳ-♭Ⅵ-♭Ⅲ-Ⅰ またメジャーばかりだし。 ・基本はサブドミナント(Ⅳ)→トニック(Ⅰ)のヴァンプに過ぎない ・サブドミナントマイナー(♭Ⅵ)が挿入されている ・トニックⅣが♭Ⅲに代理されている ・#Ⅳ-Ⅰの減五度上昇進行を描いている などなど説明可能だが、ハッキリ言って、おかしなコード進行。 この後【A】を以下の歌詞で繰り返して終わり。 Cause we're the fishes and all we do 君を想うと鳥肌が立つよ。 「鳥肌が立つ」部分は直訳すると、「君を想うと総毛立つよ」であり、なんでラヴ・ソングのサビでそんなこと言うねん? という、まあ、キモイラヴ・ソングである。破綻したようなコード進行に、キモイ歌詞。そしてアーティストは「気狂い」。 だがしかし。これこそ僕は、ロックの醍醐味だと考える。滅茶苦茶なコード進行でも何とかなるのだ、ロックにおいては、その曲が、その人にしか歌えない曲だから。交換不可能な作品だから。ロックの本質的な”破壊性”、ひいては”反権力性”。それら一見非生産的に見えるものが、奇跡的な創造性を描く。本音を言えば、計算され尽くされた音楽って真のところ、スリルも何も無い。好きじゃない。 ”狂った”一人の男のタワゴトが、奇跡的な創造性を持つ。コレがロックの魅力。 「世界の事象のすべてがこのアルバムに詰め込まれている」と評されたこともある「気狂い帽子が笑っている」。あまりに過大評価するのもなんだけど、やっぱりシド・バレットはスゴイ。純粋に他では聴けない音楽が、このアルバムには詰め込まれている。当時、ソフト・マシーンのロバート・ワイアットがドラムで参加している。未聴のかたは是非。 ■関連記事: ピンク・フロイド「狂気」 ロバート・ワイアット「広島、長崎、ありがとう」 ソフト・マシーン「6月の月」 # 作品の原題を尊重し、一部差別的表現を、敢えて使用しています。何卒ご理解ください。 |