オレンジレンジ(ORANGE RANGE)「祭男爵」 | 牧歌組合~45歳からの海外ミュージシャン生活:世界ツアーに向けて~

オレンジレンジ(ORANGE RANGE)「祭男爵」


ORANGE RANGE
「musiQ」


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【このコンテンツは批評目的によるオレンジレンジ氏の音楽の引用が含まれています。音楽の著作権は著作権者に帰するものです。また、個人的耳コピのため音楽的には間違った解釈である可能性もありますが、故意に著作権者の音楽の価値を低めようとするものではありません。著作権者の権利、音楽の美学を侵害した場合いかなる修正・削除要請にも応じます】


 アルバム全篇を聴きとおして、かなりビックリ。楽しめる,

楽しめる。同僚AW氏の解析要求により オレンジレンジ(ORANGE RANGE)のアルバム「musiQ」14曲目から、「祭男爵」のコード進行を解析しつつ、倭人の音楽史に思いを馳せよう。夏祭りのシーズン、次世界への扉の前で葛藤する若者の心情を、高度な音楽コラージュに載せて語るこの曲。キーはBマイナー、4/4拍子だ。



【I-1】イントロ1
|Bm |F#m |Bm |F#m-F#m/A-Bm-Bm|

 Ⅰm-Ⅴmのヴァンプ(参照 )である。ただし4小節目、ベースラインが、F#→A→B、キーCで言うとミ→ソ→ラと動くのに注意。これはアクセントとして後々も登場する。さて、アメリカのヴァンプが黒人教会ゴスペルにおける宗教的精神高揚から生まれたことを述べたことがある(参照 )が、日本においては「日常」=「ケ」に対儀するものとしての「祭り」=「ハレ」という精神高揚が、日本特有のお祭りヴァンプを醸造してきた。それが、ギターリフと共に入る「ソイヤ」の掛け声である。


        Bm                F#m
  +     +   +   +   +     +   +   +   + 
e:----|-7-------71097---|-----------------|
B:7-10|-------10------10|-7---10--7---7-10|
G:----|-----------------|-----------------|
D:----|-----------------|-----------------|
A:----|-----------------|-----------------|
E:----|-----------------|-----------------|
            ソイ    ソイ      ソイ    ソイ
   Bm                F#m
   +   +   +   +     +   +   +   + 
e:-7-------71097---|---------7-------|
B:-------10------10|-7---10------7-10|
G:-----------------|-----------------|
D:-----------------|-----------------|
A:-----------------|-----------------|
E:-----------------|-----------------|
       ソイ    ソイ      ソイヤ ソイヤ ソイヤ

 さて、一世風靡セピアでも有名なこの掛け声「ソイヤ」であるが、元は祭りの神輿を担ぐときの掛け声で、「ソレ、ヤァ」が語源(らしい→参照 )。「ワッショイ」=「和、一緒」らしい。イントロのっけから、祭囃子+ヴァンプ+8ビートの見事なコラージュ。いやがうえにも盛り上がる。以上2回繰り返し、


【I-2】イントロ2
|Bm |Bm|

 ブレイク気味の2小節挿入、ココでギターは、

   Bm
   +       +       +       +
e:---------------------------------|
B:---------------------------------|
G:-4-----4-4-------4---7-6-4-------|
D:-------------7---------------7---|
A:---------------------------------|
E:---------------------------------|


と、お囃子風のリフ。(多分)能楽を基礎とする日本のダンス・ミュージック、お囃子は、大正時代、輸入されたジャズの影響を受けつつ(参照 )、演芸場のお囃子に、また路上音楽チンドン、そして艶歌、演歌へと発展を遂げる。お囃子の旋律は基本的にマイナー・ペンタトニックスケール(参照 )を使用、オレンジレンジもその伝統に則ったフレーズだ。


 「日本人は血統的にマイナー(短調)曲が好き」とよく言われる。自分も多少、雅楽、出雲楽などを学んだ経験がある(参照 )のだが、平安時代~江戸時代の曲で、マイナーでない曲を探すのは非常に困難。日本にはマイナーの曲しかなかったのだ。僕らの5,6 代前までそうだったのだから、極論、日本人はマイナーの曲以外、好きになれないのだと思う。話が途中に逸れたが、ココから歌に入る。


【A】
**** **** **** ****
|Bm |F#m |Bm |F#m-Bm|

 ここでリズムが3連シャッフルに変わり、 あたかも初期フリードウッド・マックを思わせるようなへヴィー・ブルース・ロック風になる。ブルースもマイナー・ペンタ・スケールのリフをメインとした音楽な訳で、「ヘビメタさん」でマーティ・フリードマンが指摘しているような、「日本のメロデイとハードロックの親近性」(参照 )がここでも見られるわけだ。2回繰り返して、完全4度上に進む。

【B】
**** ****れ **** ****
|E |E |Bm |Bm|
己**** **** ****
|E |E |F#7|

 ココもお祭りⅣ-Ⅰヴァンプで、最後にドミナント(後ほど繰り返される際は2小節分)に行って、いよいよサビへ突入。


【C】

*** *** *** ***
|Bm |D |A |G-F#7|
*** *** *** ***
|Bm |D |G-A |Bm|
*** *** ** ***
|G-A |Bm |G-A |Bm|

 リズムは8ビートに戻る。1行目はⅠm-♭Ⅲ-♭Ⅶ-♭Ⅵ-Ⅴ7。黄桜酒造「かっぱの歌」 で研究したマイナー版循環コードのbⅢ部分がbⅢとbⅦに開いていると考えればよい。基本的にベースラインが下降するパターンだ(ただし、オレンジレンジの場合、D=bⅢを挟む工夫をしている)。で、2行目も同様に進むかと思いきや、7小節目からG→A→Bmと長2度ずつ上昇する進行へ。コレは、♭Ⅵ→♭Ⅶ→Ⅰm、カルビー「堅あげポテト」 などで解説したマイナー版逆循環コードである。サビ部分をマイナーで最も滑らかかつ、説得力の高いコード進行で万全の構えを造っているのだ。


 この後、【A】【B】【C】を繰り返し2番の歌詞を歌うのだが、【A】パートで、

   +   +   +   +     +   +   +   + 
e:-----------------|-----------------|
B:-7-8-7-5-7-8-7-5-|-----------------|
G:-----------------|-----------------|
D:-----------------|-----------------|
A:-----------------|-----------------|
E:-----------------|-----------------|

 「ええじゃないか、ええじゃないか」フレーズ、その他「ちょいな、ちょいな」コーラスが入ったりする。とまぁ、この曲は、中世から日本の地において綿々と受け継がれる「ハレ」への欲求精神を、ブルース&ゴスペルの力技で描いた力作なわけ(多分)。とにかく、面白い。


 最近の金八先生のクラスは、問題が起こっても必ずロック風「ソーラン節」で一つにまとまる。海外で活躍する津軽三味線奏者は、日本古来のペンタトニックスケールを醸造したフレーズを、世界に通用する表現に仕立て上げる。


 そして、日本を廻る音楽情景をクールに、ホットに描く本アルバム制作者たちのコラージュ能力に脱帽! 他の曲もいいの多い。


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