ザ・フー「トミー」 | 牧歌組合~45歳からの海外ミュージシャン生活:世界ツアーに向けて~

ザ・フー「トミー」


ロック・オペラ 「トミー」



ピート・タウンゼント著 『四重人格』

 ロック・オペラ「トミー(Tommy)」

 最近、見直した。「世界初のロック・オペラ」などのありきたりな評価は、はっきりどうでもい。この映画は、何と言ってもピート・タウンゼント大先生の作曲手法のエッセンスがギッチリ詰まった大作なのだから。


 ザ・フー(the Who)に対する、パンクの祖、という評価は正しいと思う。こういうブログをやってて、誤解する向きもあるかと思うが、本当は音楽って、ギターのセーハコードさえ押さえられれば、作れるものだと思うのだ(あまり才能がない奴=私は勉強しなくちゃいけないけど)。ピート先生の作る楽曲は、最終的に感性は理屈を乗り越えることを示している。


 例えば、ザ・フーの曲を楽理的に解釈しようとすると、「え? このメロディのスケールは何?」「ココはメジャーだけど、いきなり同主調転調してるよ!」 みたいな驚きが多い。多分、ギターで作った曲だからだと思う。だが、そうでありながら、ピート先生の曲は最後の最後は、実は理に叶っていて美しい。カッコいい。


 さて、映画の進行に基づいて、1曲1曲追いながらストーリー、好ギターフレーズ、コード進行、参加ミュージシャンを調べよう。 ネタばれ若干含む。


☆音楽解析の続編は『コチラ』 にて!

曲名/作曲者 ストーリー+解説
1) 序曲(Overture)/フー
 映画用新作。
 ウォーカー大尉とノラ(アン・マーグレット)の恋愛風景。
2) ウォーカー大尉(Prologue 1945)/ピート・タウンゼント
 オリジナル盤の「Overture」に当たる。
 ウォーカー大尉は第二次世界大戦で戦死(との知らせ)。

3) 男の子(Caption Walker/It's a Boy)/P. タウンゼント

It's a boy, Mrs. Walker, it's a boy
|4/4 D |C |D |D|

 ノラはウォーカーの子供を出産。歌う看護婦は、マーゴ・ニューマン(Margo Newman)とヴィッキ・ブラウン(Vikki Brown)。ヴィッキは70年代初頭、ブラウンズ・ホーム・ブリューというバンドに在籍していた女性シンガー。

オリヴィア・ニュートンジョンや、ブライアン・フェリーのバック・コーラスを務めている。

4) バーニーのホリディキャンプ(Bernie's Holiday Camp)/フー
 映画用新作。
 ノラは5歳になったトミーを連れて、叔父フランク(オリヴァー・リード)のホリディキャンプに出かける。脚線美コンテンストで優勝したりするうち、ノラはフランクを愛するようになる。

5) 1951/あの子をどうしましょう?(1951/What about the Boy?)
 オリジナル版では「You didn't Hear It/1921」。オリジナル版では第一次大戦後のストーリーだったが、映画版で第二次世界大戦後に時代設定が変更されたため、年代が変わっている。

 フランクは、未亡人との恋愛が順調で、
I1951 年は、いい年に なるぞ。
|4/4 C |G7 |C |C|

と浮かれて歌う。しかし、戦死したはずのウォーカー大尉が帰って来て、フランクは彼を殺してしまう。「何も言うな、何も見なかったことにして!」とノラは我が子、トミーを脅す。

 リード・ギターは当時バッド・カンパニーに在籍したミック・ラルフス(Mick Rulphs)。

6) 驚嘆の旅(Amazing Journey)
 ピート・タウンゼントがヴォーカル。トランペットは英国の誇るヴェテラン・トランペッター、ハウイー・ケイシー(Howie Casey)だろう。
 ショックでトミーは三重苦となる。

7) クリスマス(Chiristmas)
  アン・マーグレットが歌う。途中、トミーの心の叫びとして、「See Me, Feel Me」が幕内初めて登場する。

 以降、このフレーズがトミー全編に渡る、テーマ・フレーズとなる。


Pete Townshend
Tommy (1969 Original Concept Album)

 クリスマス・パーティーのなかでも、自閉的なトミーを「どうやったら救える?」と悩む両親。トミーの心の叫びが聴こえる。

See me, Feel me, Touch me, Heal me.
|4/4 Eb |Dm |F |G|

 「僕を見て、僕を感じて。

  僕に触れて、僕を治して」


 ピート先生特有のギターで作った曲らしいコード進行で、独特な進行である。メロディラインは、ブルースでもないのにGマイナーのスケールである。多分、4小節目だけ、同主調転調(参照 )しているのだと思う。♭Ⅵ-Ⅴm-♭Ⅶ-Ⅰ(m)。

8) 目の見えない人光を(Eyesight to the Blind)/ソニー・ボーイ・ウィリアムスン

ソニー・ボーイの曲。

←に「Born Blind」名前で収録されている。

エリック・クラプトンが教祖役でヴォーカル、リードギターを執る。

 成人したトミー(ロジャー・ダルトリー演)。ノラは、ご利益のある宗教団体通いを続け、「マリリン・モンロー教」に出向く。オリジナルでは「行商人」設定。

 説教師役で、英国ロック界の奇人、アーサー・ブラウン(Arthur Browm)も登場。

9) 麻薬の女王(Acid Queen)/P.タウンゼント
 売春婦役、ティナ・ターナーがリード・ヴォーカル。
 義父フランクはトミーに女性を教えようと、売春小屋を訪れる。骸骨に纏わりつく蛇、骨組みだけの中世風ドレスなど、ケン・ラッセル監督らしい絵柄が乱舞。
10) 大丈夫だと思っているの?(1)(Do You Think it's Alright?)
 トミーの行く先を心配し、アン・マーグレットが歌う。
 両親は、従兄弟のケヴィン(ポール・ニクラス演)にトミーを預けることに。。
11) いとこのケヴィン(Cousin Kevin)
 ケヴィンはトミーを風呂に沈めたりしていじめる。
12) 大丈夫だと思っているの?(2)(Do You Think it's Alright?)  今度はアーニー叔父さん(キース・ムーン演)に預けることに。
13) ばか騒ぎ(Fiddle About)/フー  キース・ムーン、コルセット、ガーターベルト着用し、トミーをいじめる。
14) 大丈夫だと思っているの?(3)(Do You Think it's Alright?)  実家に帰ってきたトミーはずっと鏡ばかり見ている。
15) スパークス(Sparks)/フー
 フーだけによる演奏。シンセ入り。
 廃車場にて、トミーは初めてピンボールで遊ぶ。
16) 号外!(Extra, Extra, Extra)
  オリジナル版「奇跡の治療(Miracle Cure)」の歌詞違い。
 トミーはピンボールの試合で連勝、大金持ちになる。いよいよチャンピオン(エルトン・ジョン)と戦う。

17) ピンボールの魔術師(Pinball Wizard)

 エルトン・ジョンが歌う。この映画、ひとつのハイライト。

   Bsus4             B                 Asus4             A
   +   +   +   +     +   +   +   +     +   +   +   +     +   +   +   +
e:-----------------|-----------------|-----------------|-----------------|
B:-7-7-7-77-7777777|-7-7-7-77-7777777|-5-5-5-55-5555555|-5-5-5-55-5555555|
G:-9-9-9-99-9999999|-8-8-8-88-8888888|-7-7-7-77-7777777|-6-6-6-66-6666666|
D:-9-9-9-99-9999999|-9-9-9-99-9999999|-7-7-7-77-7777777|-7-7-7-77-7777777|
A:-----------------|-----------------|-----------------|-----------------|
E:-----------------|-----------------|-----------------|-----------------|

   Gsus4             G                 F#sus4            F#
   +   +   +   +     +   +   +   +     +   +   +   +     +   +   +   +
e:-----------------|-----------------|-----------------|-----------------|
B:-3-3-3-33-3333333|-3-3-3-33-3333333|-2-2-2-22-2222222|-2---------------|
G:-5-5-5-55-5555555|-4-4-4-44-4444444|-4-4-4-44-4444444|-3---------------|
D:-5-5-5-55-5555555|-5-5-5-55-5555555|-4-4-4-44-4444444|-4---------------|
A:-----------------|-----------------|-----------------|-----------------|
E:-----------------|-----------------|-----------------|-----------------|
   B     A   D       E                 B     A   D       E
   +   +   +   +     +   +   +   +     +   +   +   +     +   +   +   +
e:-----------2-----|-0-0---0-0-0-0---|-----------2-----|-0-0---0-0-0-0---|
B:-----------2-----|-0-0---0-0-0-0---|-----------2-----|-0-0---0-0-0-0---|
G:-4-4---2---2-----|-1-1---1-1-1-1---|-4-4---2---2-----|-1-1---1-1-1-1---|
D:-4-4---2---0---2-|-2-2---2-2-2-2---|-4-4---2---0---2-|-2-2---2-2-2-2---|
A:-2-2---0-------0-|-2-2---2-2-2-2---|-2-2---0-------0-|-2-2---2-2-2-2---|
E:-----------------|-0-0---0-0-0-0---|-----------------|-0-0---0-0-0-0---|

Ever since I was a young boy I've played the silver ball. From Soho down to Brighton I must have played them all.
|4/4 Bsus4 |B |Asus4 |A|
But I ain't seen nothin' like him in any amusement hall. That deaf, dumb, and blind kid sure plays a mean pin-
|Gsus4 |G |F#sus4 |F#|
ball
|B-A-D |E |B-A-D |E|

 コレも非常にピート・タウンゼント先生らしい曲。1~8小節は、

 Ⅰ-♭Ⅶ-♭Ⅵ-Ⅴ

循環コードの変型(かっぱの歌 )パターン。サス・フォーが効いている。その後は、Ⅰ-♭Ⅶ-♭Ⅲ-Ⅳ。


サントラの演奏は黄金期エルトン・ジョン・バンドによるもの。メンバーは、
 Guitar: キャレブ・クェイ(Caleb Quaye)

 Guitar: ディヴィー・ジョンストン(Davy Johnston)

 Bass: ディー・マレー(Dee Murray)

 Drums: ナイジェル・オルスン(Nigel Ollson)

 Percussion: レイ・クーパー(Ray Cooper)


フーの面子は楽器破壊を演ず。
18) シャンパン(Champagne)/フー
 映画のための書き下ろし。アン・マーグレットが歌う。
 相変わらずトミーは三重苦。ノラは、悩む。ウェット&メッシー風描写。
19) 医者が見つかった(There's a Doctor)
 リード・ヴォーカルはオリヴァー・リード。
 フランクがいい医者を見つけてくる。
20) 鏡のところへ行きなさい(Go to the Mirror)
 リード・ヴォーカルは医者、ジャック・ニコルソン。後半はアン・マーグレット。
 医者で診察を受ける。

21) トミー、聞こえるかい?(Tommy, Can You Hear Me?)

 アン・マーグレットが歌。ピアノ・メインで、オリジナルとはかなり印象違う。

 
22) 鏡を壊せ!(Smash the Mirror)
 アン・マーグレットもヴォーカル。
 ノラは、トミーがいつも見つめている鏡を割ってしまう。
23) 僕は自由だ(I'm Free)
 
 鏡が割れたショックで、トミーは三重苦から解放される。
24) 母と息子(Mother and Son)/P.タウンゼント
 映画用書下ろし。
 トミーは宗教の開祖となる決意をノラに話す。
25) センセイション(Sensation)
 解説
 トミー信者が増加していく。
26) 奇跡の治癒(Miracle Cure)
 解説
 
27) サリー・シンプソン(Sally Simpson)
 エリック・クラプトンがギター。
 トミー信者、サリーのエピソード。
28) ようこそ!(Welcome)/P.タウンゼント
 オリバー・リードが「どんどん人がやってくる」と歌う。
 
29) テレビ・スタジオ(T.V. Studio)/P.タウンゼント
 映画用書下ろし。
 トミー教団は専用放送網、世界各地に支部を持つに至る。

30) トミーのホリディキャンプ(Tommy's Holiday Camp)

 キース・ムーン(いつ見ても、サイコー)がオルガン車に乗って歌う。

 金儲け主義に信者たちは疑問をもち始める。
31) 俺達は、ごめんだ!(We're not Gonna Take it)  信者達は暴徒と化す。

32) 僕を見て、僕を感じて/あなたの声を聴けば(See Me, Feel Me/Listeing to You)/フー


The Who
Tommy [DVD Audio 2 Discs]

 トミーは全てを失い、山に登り、何かを見つける。感動のシーンだ。


(Listening to) You, I get the music,. Gazin at you, I get the heat. Following
|4/4 A-B |C |A-B |E|
you, I climb the mountain. I get exci- tement at your feet
|A-B |C |G-D |B|

 メロディラインはAメジャーのようで、

 A→B→C (この進行、ピート先生は結構使う)

は、まあⅥ7の代理としての♭Ⅲと説明はつく(参照 )。では途中に挟まるⅡ(=B)は、Ⅱm7(サブドミナント)やⅡ7(ドッペルドミナントとしてのサブドミナント)に置換できるかというと…。弾いてください。成り立たないのです。極めて微妙な均衡性を保った構造の上に成り立つカッコよさ。ここがスゴイ。