ワタルの独立起業物語(第18話)再掲
≪筆者の都合で公開が遅れてしまいました。毎週楽しみにされていた皆様にはご迷惑をお掛けしまして,誠に申し訳ございません。≫
株式会社アラキのクロダ課長は,社内ではコバンザメと呼ばれている。
クロダは,第7話で登場して以来なので,若干の説明をしよう。
彼は,コバンザメと呼ばれることについて,特に悪い気はしていなかった。
彼は,社長に忠誠を誓っていたから,コバンザメと呼ばれることについて,むしろ喜ばしい思う程であった。
彼も一時はワンマン社長から離れて,独立起業という道を夢見たことがあった。
しかし,彼には守るべき妻と娘がいた。
彼は妻と娘を路頭に迷わさないために,株式会社アラキに残ることを決意した。
アラキに残る以上,社長からの絶対の信頼を勝ち取らなければならない。
彼は,コバンザメと揶揄され,他の社員から疎まれていたが,社長にとってはかけがえのない存在であった。
社長はクロダを小回りが利いて,抜け目のない部下として重宝していた。
高校生になる娘は,彼のことを「キモい」と言って,ほとんど話し掛けてくれないが,
クロダはコバンザメとして,自らの役割を全うしていた。
クロダは,株式会社アラキの業績で一点気になることがあった。
取引先の,ペペニーニョ・カフェとの取引金額が減少している。
売上にして1月あたり約100万円。
ペペニーニョは,若手のリュウジに担当させているが,
何かペペニーニョとの関係で問題があったのではないか…
クロダは,リュウジの最近の行動について調べることにした。
まず彼は,㈱アラキの情報通であり,同社のお局的存在である事務員ワダを昼食に誘った。
ワダの話では,リュウジが事務員のミクちゃんに最近,会社に内緒で会社を立ち上げてネットビジネスをしていると話していたそうである。
ク「リュウジは何のビジネスをやってるんですかね。」
ワ「さぁ,コーヒーでも売ってんじゃない。ハハッ(笑)そういやリュウジ君はfacebookをやっているらしいから,それで調べてみたら?」
クロダは,とりあえずインターネットで,吉原リュウジを検索した。
慣れないfacebookというものも登録してみた。
クロダはリュウジのfacebookに友達申請をして見たところ,
リュウジはあっさりクロダを友達として承認してくれた。
リュウジはクロダの本名を知らないのだろうか…
クロダはリュウジのfacebookを見て,驚いた。
なんとリュウジが,ワタルと一緒に石原コーヒーという名前の会社を立ち上げて,
ペペニーニョ・カフェに商品を売っているということを知ったのである。
クロダは,リュウジとワタルをどのように問い詰めるかを考えた。
少なくとも会社の被った損害は取り返さないといけない。
リュウジは適当に言い逃れるかもしれないので,
クロダは真面目なワタルを詰めて,事実を固めることにした。
翌日,クロダはワタルを会議室に呼びだした。
クロダ「ワタルくん,何か私に報告することはないか」
ワタルは咄嗟に,石原コーヒーについて勘付かれたのではないかと恐れた。
しかし,別件の報告が遅れている件かもしれないと思い,とりあえずしらばくれることにした。
ワ「何の件ですか?」
ク「インターネットで,広告が出てる,この石原コーヒーって知らないかな。」
ワタルは血の気が引いた。
ワ「知りません。」
ク「ここの代表者のところに君の名前が載っているけど,君じゃないの?」
ワ「違います。同姓同名の人じゃないですか。」
ク「リュウジの名前も載っているけど,本当に自分じゃないの?
今だったら,まだ本当のことを言ってくれたら,考えてもいいんだよ。」
ワ「・・・」
ク「リュウジは,全部言ってくれたよ。」
ワタルの頭は真っ白になってしまった。
なぜリュウジはそのことを言ってくれなかったのかとワタルは思った。
ク「うちには既に500万円近い損害が生じているんだ。どう責任をとってくれるんだ!」
クロダはいきなり語気を強め,金額を吹っ掛けた。
ワタルは完全にビビってしまい,「申し訳ございません」と言ってしまった。
クロダはワタルが自らの非を認めたことを契機に,さらに追及を強めた。
コバンザメの圧勝であった。